シスコンと姉妹と異世界と。
【第24話】週末デート④
玄関でモーリスと別れ、姉さんとローズが待っているであろう自室の前へ。
「ただいまぁ〜」
ノックして部屋に入る。返事は待たなかったが。
「無事だったか!?」
「お兄ちゃん!!」
「おうぁ」
2人が心配そうな顔で駆け寄ってくる。ビックリして思わず変な声が出てしまった。
「……」
姉さんが俺の全身を下から上へ、まるで嬲るかのように見ている。男が見知らぬ女性に同じことをしたら、恐らく衛兵さんが駆け付けてくる羽目になるくらいに。
「あの……、そんなまじまじ見つめられると幾ら家族、姉弟と言っても恥ずかしいんだけど……」
「なっ……茶化すなっ」
姉さんの表情が一瞬のうちに切り替わった。弟をまじまじ見つめていた事への気恥ずかしさから、心配した自分を茶化したことへの怒りへ。
怒りの表情といっても、口を尖らせてプイッ、といういつものやつである。
「お兄ちゃんが強盗の現場に居合わせたって報せがあってから、お姉様はずっと心配なさってたんですよ? ずっと落ち着かなくて、『ショーは無事かなぁ……、怪我してないかなぁ……』って呟きながら部屋中歩き回ってたんだから」
「ちょ、ローズ! そんな事話さなくて良かっただろう!?」
ローズの言葉を聞いて取り乱した姉さんが落ち着きを取り戻すまで、約10分程の時間を要した。姉の名誉の為、細かくは話せないが。
「で、ショー。一体何がどうなって報せのようになったのか教えてくれるな?」
______。
姉さんの尤もな疑問に、俺はできるだけ簡潔に答えた。
モーリスと買い物に行き、目的地に着いたところで事件を発見し、偶然にも4人の強盗の実行犯に出くわし相見え、うち1人を逃してしまったことを。
勿論わかり易いように伝えたつもりだが、こと自分たちの『寵愛』に関してだけは触れなかった。モーリスにも口止めされてるし。
ただ、恐らく母さんは俺の『マナの寵愛』には気付いているとは思う。かつては最前線で戦う魔法士であり、母親である。経験に基づく豊富な知識からも気付かないという方が寧ろ難しいのかも。
だからこそ、ローズとの手合わせをけしかけたのだろう、と思っている。器を測るために。
そんな事の為にとも思う。が、それが重要なのだとも思う。国力増強の為の学校に入れるのだし、いざと言う時は2人の姉、妹を護れるのかどうか、母なりの試験であったのだと。
「どうしたのお兄ちゃん? いつもよりボーッとして」
「いつもより、は余計だ」
そう言ってローズの髪をぐちゃぐちゃっとする。
「ちょっと! これからご飯食べるんだからやめてよう」
やめてと言いつつ、まんざらでもなさそうにしている。猫だったら喉を鳴らしていそうだ。
まぁこのあと食堂でメシにする予定だから、髪が乱れるのがちょっと気になるってのは分かる。でも可愛いからやめない。
「ずるい……いや、違う! ローズがやめてと言っているだろう。そんなにしたいのならわたしが身代わりになろう」
「ほう……その心意気や良し」
「……くっ」
微妙な寸劇を演じ、姉さんの頭をなでなで。姉さんが悔しいんだか喜んでるんだか表情を決めかねているような、苦悶の表情を浮かべているのが可笑しかった。
「ちょっと、お姉ちゃん! ずるい!!」
「お姉ちゃんになっちゃったよ」
モロに素が出たローズにびっくりした。そんなかね。
「ローズ、もうわたしもショーのことも、お姉ちゃん、お兄ちゃんでいいんじゃないか? 様をつけられるとどこか距離を感じるのがちょっとな……。さすがに必要な場面ではそうするべきなのだろうが、普段から徹底しなくてもいいさ」
「……お姉ちゃん、お腹空いた」
「一気に平たくなるのな……」
砕け方の振り幅が凄い。
「そうだな。そろそろ夕飯にしよう。あんまりのんびりしていては食堂が閉まってしまうからな」
「ホントだ。今19時だから、あと1時間で閉まっちゃうな」
「えっ!? 急がなきゃ!!」
そう言って部屋を独り飛び出していくローズ。
「ローズは『食欲の寵愛』とか『暴食の寵愛』みたいなの持ってそうだな……」
「? ショーは寵愛について知っているのか?」
「そういった特別なものがあるのは知ってるよ。どこまで種類があるのかは知らないけどね」
「なるほど。ショーはさしずめ『災厄の寵愛』か『受難の寵愛』といったところかな?」
「そんなん笑えないって……。なんか否定する材料が浮かばないのが悲しいけど」
「もうこの短期間で2度も事件に巻き込まれているのだからな。余りわたしを心配させないでくれよ?」
「そしたら、俺の『寵愛』のせいでで姉さんが転んだりしないように手を繋いで行こうか?」
「それは……」
姉さんが手を繋いだかどうかは、痺れを切らしたローズが部屋戻ってきた時、思わず口を大きくあんぐりとさせていた、ということだけ言っておく。 
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