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山田 武

偽善者と魔剣道中 その18



 魔剣からの提案、それは本契約について。
 これまでは仮契約ということでやってきたが、今回あることを証明することで契約内容の更新をしてくれるとのことだ。

 これには迷うことなく了承した。
 失敗しても契約はそのまま、とのことなのでリスクが無かったからな。

 そして、その条件とは──


「はい、タッチ」


 剣の柄で叩いた相手が硬直する。
 まあ、“無痛幻撃”と“忘収封打”を使うだけという簡単な仕掛けだが、過負荷と忘れさせるものを調整できるのがこの技だ。

 外部からの衝撃に弱いため、触れられれば意識は戻る──そしてまた、一人。


「「死n」」

「──今度はダブルタッチ」


 影から仲間を動かし、連携を図ろうとしていたが纏めて一突き。
 ミイラ取りがミイラにって、こういうときに使う言葉なんだろう。


「残り十人、いよいよ半分だな」

「…………」

「おっと、十一人か。少し遠い場所に置いたのが不味かったか」


 氷鬼の特徴は、仲間の数を戻せるということにある。
 つまり、ほぼ無限に鬼は動かなければならない……特に単独の時は。

 加えて特別ルールとして、逃走者は鬼を迎撃して倒しても勝利だ。
 実際、殺さずとも半殺しに近いことをするために毒を塗ろうとしているし。

 なので俺は、来る者だけを凍らせる──いわゆる受けの構えでいた。
 どうせ回復されると面倒なので、極力一定距離からは出ずに入ってきた者だけを攻撃して凍らせるといった寸法でな。


「だが、一度は半分になったわけだし……そろそろ本気を出すぞ」

『ッ……!?』

「悪いな、どちらかと言わずに完全に攻めの方が好きなんだ。一気に行く、解凍するよりも早く凍らせてやるよ」


 今までいっさい行っていなかった身体強化の恩恵にあやかり、気で感覚を研ぎ澄ます。
 魔力を外へ放って、<畏怖嫌厭>で彼らの所在を感じ取りやすくしておいた。

 すると大抵のヤツはそれに不快感を感じ、精神的苦痛を覚えるわけで……届く。


「はい、タッチ。そして──」


 運動能力は向上された。
 つまり、俺がすぐに向かうことができる場所も広くなったわけだ。
 たとえ行った方向と逆だろうと、その領域内であれば──、


「すぐに捕まえられるぞ。残りは九人だ」


 さらに追い縋ったタイミングで動こうとしていた奴らも、思わず動きを止める。
 ただ、場所をリーダーに指示されたのか行こうとすれば必ず一人を解放できるような立ち位置に居る……やるな。


「これ以上の強化はしないでおいてやる。まあ、ゲームを楽しむためのサービスだ。咽び泣いて恩恵にあやかれよ」

『…………』

「おいおい、どうした? 誰も殺さないで進めてやってんだ、それをするだけの相手だと思わないか? 何より、殺そうと思えば殺せる雑魚を、こんな風に相手してやっていることこそ優しさに溢れている証拠だろ」

「──言わせておけば!」


 挑発に乗り、一人が暴走する。
 そしてそのまま俺の下へ来る、と見せかけて仲間の解放を行うという演技派だ。

 ただ、前振りが長いだけの救出作戦なんだけどな……苦痛が俺から逸れた時点で、意識が別のことに向いていると分かるからな。


「まあ、逃がすわけないがな」

「うぐっ──」

「あららぁ、いい顔をして止まったな。お前らが全員こうなってくれた方が、あとで見に来るお客さん的にもいいか……なあ、お前らもそう思わないか?」

「…………」


 二度も同じ演技はしないようで、冷静であろうと努めている。
 拳を強く握るのはいいが、血が漏れるレベルで握っちゃいかんだろう。


「と、いうわけでレベルアップだ。しっかりと耐えてくれよ」

「ッ! まだ上があったのか……」

「当然」


 縛っているので、身体強化を魔法やスキルで行うことはできない。
 先ほどやったのも、ただのなんちゃって身体強化である。

 今回も似たような感じ、身体強化モドキを行使して刺客たちに鞘を当てていく。
 簡単に言うと、内循環させていた力を外に出してブーストをかけているだけだ。


「──はい、チェックメイト」

「…………」

「さてさて、残ったリーダーさん。最後に一言感想をどうぞ」

「……化け物が」


 そうでござんすね、と答えて鞘を思いっきりスイングする。
 顎に当てたのだが、吹っ飛ばされる直前で硬直したのは少しだけ笑えた。


『状況は笑えないがな』

「はいはい、約束通り誰も死なないし自殺もしない……遊びで終わったぞ」

『……予想はしていた。だが、まさかそのままの未来となるとは』

「おお、さすがだな。新しく未来予知の力を手に入れたのか!」


 分かってはいるが、そんなことない。
 ただ、これぐらいの軽口を叩ける間柄になれたらいいなと思っただけだ。


『誓いは果たされた。仮初の……いや、契約者たるメルスよ。汝の剣となり、振るわれることを誓おう』

「いや、固いな。主(仮)として命じる、どうせならもっと分かりやすい説明口調で」

『……契約をしよう』

「おう、よろしくな!」


 魔剣を引き抜くと、自然と浮遊する。
 俺の目の前で漂い、やがて黒い光を放つ。


『握れ、自然と銘を理解する』


 言われた通りに握りしめると、頭の中に文字とイメージが浮かぶ。
 それを読み上げ、契約を果たそう。


「よろしくな、『■■■■』」


 すると、光が視界を奪い──



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