AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と魔剣道中 その14
ソレはただの剣だった。
使われることのない、飾られるだけの。
しかし、ソレに役目が与えられる──死したあの者の遺志を継げと。
(シカシ、ナゼ……)
そこに詳細などない。
生みだした理由など存在せず、ソレはその目的だけを懐いて生誕する。
担い手である『あの者』と引き換えに。
(シリタイ、シリタイ……)
そして、魔剣は自らの根源に手を伸ばす。
そうして知った、今の自分に至るまで──ただの剣が大切にされていたのかを。
記憶を辿り、魔剣は知性を宿す武器となっていた……そして、決意する。
(あらゆるものを知ろう。担い手が、知ることのできなかった広大な世界を)
それは命令と使命が混ざり合った結果、突如生まれたものだった。
だからこそ、それは今ここにいる──
□ ◆ □ ◆ □
『来るぞ!』
「ああ、分かっているさ」
振るわれた白閃を回避。
続けて、毒を塗ったと思われるナイフを無数に投擲。
大きく回避したところで連携攻撃。
「──って、動くみたいだな」
『あと三秒だ……二、一、零』
「ここをこうして、こう……かな?」
苦痛を介して知った動きを躱し、相手の意表を突いて肌を斬る……はずだった。
硬い感触が刃に伝わったかと思えば、引き戻すよりも前に刺客が剣を魔剣に絡ませる。
──ソードブレイカー、それを上手く振るいグイッと武器破壊を試みていた。
「まあ、簡単に折らせるなんて一言も言ってないんだがな」
「ぐぁああぁ……」
「第一、魔剣がそんな簡単に折れるわけないだろうに……しかも、独特の耐久度回復の方あるんだからな」
相手も剣士ではないので、思いっ切り腹を蹴りつけて距離を取る。
そして剣を突き刺し、気絶させておく。
少々傷が入った魔剣だが、刺客が悲鳴を上げると──薄ら光り、元通りになる。
魔剣ってのは、自分が持つ力に関わることで回復できるんだとよ。
それに気づかない者たちは、単純に失敗したとだけ思って連携攻撃を仕掛けてくる。
上から下から右から左から、そして前から後ろからとあらゆる角度による行進だからこちらもすぐに気づく。
「“無痛幻撃”、“忘収封打”」
妖しい輝きを放つ魔剣。
鞘に収めたことでそれがよりいっそう濃くなり、刺客たちは警戒心を高める。
だが、完全に警戒する前に近づき、逃げるために脚を踏み終える前に鞘で叩く。
「が、ぐぎぃ……」
「うごぉ……」
「“斬撃”」
鞘に入れたまま武技を行使し、そのまま気絶させた。
だがまだ三人、刺客はまだまだ居る。
しかも今の行動で警戒心は完全なものとなり、俺の挙動一つ一つを観察していた。
「降参していただけるのであれば、私も追おうとはしませんよ」
『…………』
「賢い判断だとは、思えませんけどね」
魔剣を地面に刺し込み、魔力を流す。
すると、一定の範囲内が空間を隔てられるようになって強固な壁となった。
一瞬の危機に察知できたのは、例の代表と副リーダーのみ。
「これは後回しでいいでしょう……残ったのはあと二人ですか」
数が減っても、一流の刺客は確実に敵を殺すことができる。
たとえ二重奏だろうと、聴衆を感動させて対価を払わせられるということだな。
どちらかが使ったであろうと魔法により、吹雪は少し強くなる。
注意を逸らしたつもりはなかったのだが、なぜか吹雪が気になると彼らの気配は俺の索敵内から消失していた。
「(なあ、どうするか)」
『まだ殺さぬというのか。箱の中の者たち、自害を選ぼうとしているぞ』
「(自殺まで偽善者は止めなくてもいいんだが……後味が悪いな)」
気配がないなら、誘き寄せるまで。
わざとこの場で箱に入り口を造ると、自害しようとする刺客たちを気絶させていく。
薬を飲もうとする者、短剣を突き刺そうとする者、歯軋りをする者など自殺にもいろんな種類があるんだとふと思ってしまった。
「これでよし……ぐはぁ……」
「油断したな」
突如、喉が焼けるように熱くなる。
ゆっくりと下に目を動かすと、そこには白く塗られたナイフが生えていた。
やはり塗料には毒があったようで、体が若干ふらつき始める。
「……行くぞ」
「処分は」
「要らぬことをして、コイツが動いても困るだろう。先に対象を屠る、話はそれからでも構わない」
「ま、待て……」
俺の手は届かない。
無慈悲な刺客たちは、声など聴かずにこの場から目的地の馬車へ移動を始めてしまう。
「く、くそ……」
『おい、大丈夫か』
「だ、大丈夫……とは言い難いが、少しすれば治る……と思う」
こういうときのために、傭兵やあの少年から毒に関してのお勉強を受けたのだ。
自然治癒力が凄まじい速度で働き、俺の溜め込んだエネルギーを対価に解毒を行う。
少しずつ体が言うことを聞き始めるが、それでも完全復活とは言い難い。
『──ぁああぁ!』
「くっ、遅かった……」
ふらふらと、馬車のあった場所へ急ぐ。
転びそうになるが、それでも精一杯力を振り絞り前へ前へと歩を進める。
だが、そんな俺をあざ笑うかのように──そこには赤色の雪が散らされていた。
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