AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と魔剣道中 その12
俺が祈念者であることは伝えてある。
そのうえで、この問題を解決する案を一つ提案していた。
「神の試練を……単独でか」
「はい。本来であれば手に入れることのできない品、それを献上しましょう」
「……たしかに理屈は通る。また、どのような品であれ、証明は神殿がするだろう。しかし……いくらなんでも危険すぎる」
「覚悟の上ですよ」
彼らにとって、神は実際に存在する自分たちの上位者であり、崇めるべき信仰対象だ。
そのため、その使徒である祈念者に尊敬の念を抱いたり、憎悪の念を持ったりする。
なにせ、試練を受けられるのは祈念者だけなんてルールがあるからな。
わざわざ自由民を連れていこうとする奇特なヤツは少ないので、討伐報酬を得ることもないだろう。
と、いうわけで俺の出番だ。
捕らぬ狸の皮算用ではあるが、手に入れるであろう討伐報酬をお隣の国にプレゼントして機嫌を取る作戦を提案した。
当主が言ったように、その証明は他ならぬ神がしてくれる。
ならばそんな貴重な品を渡すこちらに、敵対する意思は無いと伝えることも可能だ。
問題はただ一つ、当主たちの考える俺はさすがにそんな試練に一人で打ち勝てるような強さを持っていないということ。
実際、魔剣縛りなわけだし……苦労すると言えばするんだけどな。
「お任せください。このメルス、せめてもの偽善を行いましょう」
◆ □ ◆ □ ◆
ということもあり、俺は一人で試練を挑むことを選んだ。
馬車を離れさせたのは、ボス出現時の結界に巻き込まれないようにするためである。
防御性だけは高めたのだ、たとえ一般プレイヤーが百人集まって攻めようともあの馬車は壊せない。
ユウたちレベルであれば可能だが、わざわざここに来る理由もないだろう。
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警告:ここより先では、エリア解放戦が行われます
未討伐のため、強化体が出現します
本当に挑みますか?
〔はい〕 〔いいえ〕
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すでに馬車を逃がした時点で、この画面が表示されていた。
周りに怪しい何者かがいないかを確認してから、〔はい〕を押してそのときを待つ。
やがて揺れ動く大地。
グララアガア、グララアガアと大地震が起きているようでもあった。
「準備はいいか、相棒」
『ダメと言っても使うのだろう。新たな担い手よ、好きにするがよい』
「ああ、そうさせてもらうよ」
鞘から抜きだす真っ黒な剣身。
魔力を籠めると、それはより昏い輝きを辺りに放つ。
「相手は……『エンシェントマンモス』と愉快な『マンモス』たちだ。どうやらこっちだと、マンモスの時点で魔物扱いみたいだな」
まあ、絶滅したはずの存在だ。
生き永らえている時点で、魔力を濃い濃度で吸い上げて死に抗ったのだろう。
それはつまり、魔物化しているのと同意である……おっ、かなりデカい。
『UWOOOOOON!』
「パオーンじゃないんだ……」
高々に咆える毛の生えたゾウたちだが、どうやら似ても似つかぬ鳴き声のようだ。
鼓膜がやられそうなので単純に耳を強化してから、戦闘を始める。
「──“苦痛感知”」
ストレスを感じ、マンモスたちの行動を把握していく。
苛立つ一体が、リーダーの指示を仰がずに巨大な鼻を振り下ろしてくる。
「“血液解析”」
それを避けて剣を刺し、抜き取った血で相手の情報を調べる。
やり方さえ考えれば、石器時代の人間でも倒せた存在だ……魔剣なんて大層な代物を握る現代っ子が、負けるわけにはいかない。
「“力場霧散”」
吹雪が吹き荒れる中、マンモスたちが使おうとしていたスキルを無効化する。
解析によると、吹雪を吸い込んで擬似的な息吹として使うことができるらしい。
「あれ? いや、鼻とはいえ吹いている時点でそれって普通の息吹じゃ……まあいいか」
『UWOOOOOOON!』
「やかましい──“無幻痛撃”」
肉体は堅そうなので、精神に直接痛みをぶつけていく。
そんな経験をしたことがないマンモスは、悶え苦しみもがき始める──そして、周りの仲間にぶつかり倒れ込む。
「お前らは殺す。悪いな、偽善のために小さな犠牲となってくれ」
『UWOOO──』
「もういい、うるさい──“天線候破”」
吹雪ごと一閃する。
先ほどの“無幻痛撃”の効果もあり、それらは精神にダイレクトで伝わっていく。
死ぬほどの痛みというものは、時に本当にその者を殺す。
生きることを諦めるからだ、活力を失った体は簡単に生を捨てて死を選ぶ。
面倒になったので、かなりの力を籠めて武技を使った──結果はすぐに分かった。
「……さて、これでおしまいだな」
吹雪が晴れ、空から日射しが射し込む。
マンモスたちは一体、また一体と地に伏せ光に包まれていく。
残ったのはたった一体──ボス個体のみがふらふらではあるが生きていた。
「お前たちへのせめてもの弔いだ。その温もりに抱かれて死んで逝け」
『UWOOOOOOOOOON!!』
最後の力を振り絞った突撃。
時々ふらついているが、それでも確実に俺の方へ向かって走ってくる。
いつの間にか行っていたのか、雪を装甲のように纏い身を固めていた……耐えたのはどうやらその効果の影響みたいだ。
「──“轟雷斬撃”」
剣を構え、武技を使う。
迸る雷が空気を焦がし、獲物が来る瞬間をまだかまだかと待ち望む。
「せいやぁああぁ!」
『UWOOOON!』
そして、けたたましい音が辺りに轟く。
沈黙が場を支配し、やがて太陽が雲に覆われ吹雪を生みだす。
容赦なく吹きつける風は、敗者を雪の中へ包んていく。
俺はただ、それをジッと見守り続けた。
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