AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魔剣道中 その04



 エーリム氷原


 まだプレイヤーが来ていない地。
 レベル的には行けるんだろうが……寒さがひどく、集団で向かうための対策がまだできていないからである。


「こりゃあマイナスの温度だよな。ううぅ、俺も温かい恰好が良かったなー」

『では、なぜ衣装を変えないのだ?』

「まあ、縛りの一種だったんだが……魔道具ぐらい使わないと不自然か」


 氷柱が常駐するような場所だ、冷気が肌を凄まじい勢いで冷やしていく。
 吹雪などは無いが、ただただ冷え切った空気が息をするたびに入ってくる……苛烈にやられるよりもキツイかもしれない。

 とりあえず、冷気を遮断する膜を生みだす腕輪を装着。
 そのうえで、体を芯から温まらせるためにホットなドリンクを一気に飲む。


「あー、体が温まる―」


 あれって、ラーメンの味っぽく醤油や味噌味があると作った際とうじの俺が覚えていた。
 なので、それに習ってこの味は豚骨台湾味というテイストにしてある。


「お前にも飲ませたかったんだが……さすがに剣へぶっかけるのはなぁ」

『……こちらから遠慮しておく』

「そうか? まあ、必要になったら言ってくれよ。すぐに渡すからさ」

『遠慮しておくと言ったはずだ』


 寄る辺もなく断る魔剣。
 少し寂しい気持ちもあるが、応えてくれるだけ御の字だと思い話を戻す。


「ここのエリアに、たぶんエリアボスが居ると思う。あれ以外の力も、ここで試してみる方がいいかもな」

『……好きにしろ』

「好きにさせてもらうよ。お前のすべてを知るためにもな」

『…………』


 まあ、先にその場所へ到達する必要があるだろう。
 冷気や氷属性を操る魔物たちが次々と現れるが、そのすべてを魔剣を振るって払いながら目的地へ進んでいく。

 やがて……

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警告:ここより先では、エリア解放戦が行われます
未討伐のため、強化体が出現します

    本当に挑みますか?
   〔はい〕  〔いいえ〕
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 迷わずに〔はい〕を押して実行を促す。
 するとゴゴゴッと地面が揺れ動き、巨大な狼が姿を現す。


「さーてと、名称は……『フィルンウルフ』と『ブリザードウルフ』みたいだな。こちらもまあ、戦意剥き出しなもので」


 巨大な狼たちが咆えると、構築された結界の範囲内で吹雪が吹き荒れる。
 明らかに彼らの能力によるものだが、一瞬でフィールド全域に雪が積もった。


「解体した後が楽しみだよ」

『強敵だ……気を付けるがよい』

「心配か?」

『その傲慢さを掻かれないことだ』


 こちらは魔剣を鞘から抜き、黒い剣身を外気に晒す……そして、訊ねる。


「すぐに終わらせた方がいいか?」

『いや、確実な勝利を。私に構わず、振るうのが本来の魔剣であろう』


 意思を持つ弱点、というものだろう。
 初めにこのフィールドで抜いてから、魔剣が寒さで性能を落とすことに気づいた。
 だから、以降は鞘に入れたまま戦っていたが──さすがにボス戦でそれは難しい。


「そうか……なるべく早く済ませる」

『……好きにしろ』


 まあ、それなら抜く前に聞いておく方が正しかったかもしれない。
 どちらにせよ、使うこと自体は変わらない結果だったし、別にいいんだけどさ。


『UWOOOOOON!!』

『WAOOON!』


 狼たちは白い毛皮で紛れて行動する。
 吹雪と積もる雪が、チラチラと視界に入る狼たちを隠していく。
 剣を振るおうにも、タイミングが掴めずにいる……が、それは魔剣をただ魔力を通しやすい武器として使っている時だけだ。


「──“苦痛感知”」


 拷問対象にとって何が苦痛か、それを感じ取るために付属されたスキル。
 他者に嫌われる呪いがある俺にとって、これは常時発動とイコールだ。

 <畏怖嫌煙>は発動してしまえば、あらゆるモノに通用する。
 苦痛とはストレス、つまり嫌いな相手と向き合わなければならないこともまた、それと同意となるのだ。


「そこだな」

『GYAIN!』

「“血液解析”……便利なスキルだな」


 斬った際に吸った血を媒介にし、ブリザードウルフのステータスを強制開示する。
 雪に関係するスキルが多く、水と氷と風に関する耐性がかなり高い。


「このスキル構成なら、これで充分だな──“炎斬フレイムスラッシュ”」


 炎を纏った魔剣。
 吹雪も周囲の雪を一瞬で融かし、白い毛で隠れていた狼たちの居場所を曝け出す。

 火に対する耐性が低いため、警戒と対応を行う狼たち。
 水や氷を攻撃に使う個体や、雪を加工して飛ばしてくる個体など多様なパターンだ。


『AWOOOOOON!!』

「消えねぇよ、そんなちゃっちい水じゃぁ」


 気力で武技を維持し続け、身体強化を魔力で行い狼たちを斬っていく。
 吹雪が少しずつ収まる、発動していた吹雪生成スキルが減っているからだ。


「……ほら、お前が最後だ」

『GRUUUUU』

「“火炎斬バーニングスラッシュ”」


 魔剣が宿した炎は火力を増した。
 立ち向かわなければ負ける、そんなプライドに押されてフィルンウルフは目にも留まらぬ速度で飛び掛かってくる。

 俺はただ、真っすぐに剣を構え──縦に振り下ろす。



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