AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魔剣道中 その03



 アテンポ高地


 少なくともあの都市は、魔具と二人っきりで楽しむような場所ではなかった。
 三日間ほど滞在してみたが、求めていたイベントが起きることなく期間は終わる。


「さて、北を目指そうか」

『ようやくか……』

「三日だけだっただろうに」

『あの日々を、私は三日とは思えない』


 うん、まあ求めていないイベントであれば起きたということで。
 それもあって、今では抜身だった魔剣に鞘が付いている。
 魔剣と同じ黒色をベースに、少々の細工で彩られた一品だ(特に効果は無い)。


「そのうち懐かしく思うさ。良いか悪いかは別問題だけどな」

『ハァ……』

「あれ? なんでその流れで、ため息を吐かれなきゃならないんだよ」

『珍妙な者と契約してしまったものだ』


 何はともあれ、仮初とはいえ契約をしている身である。
 できるだけ迷惑をかけないよう、ギリギリのラインを探しておくか。


『いま、変なことを思わなかったか?』

「……いや、気のせいだろう」


 できるだけ、バレないように。



 アテンポ高地はより寒くなる地帯フィールドだ。
 これまでずっと北に進出してきたが──この世界だとここの大陸は、北半球に位置しているのだと情報が纏まっていた。

 星のあれこれとかいろいろとありそうなんだが、まあ要は地球と似た感じと理解しておけばいいんだろう。


『仮初の主、寒くは無いのか?』

「寒くはないが……やっぱり、この格好だと変に見えるか?」

『少なくとも、担い手はもっと重厚な衣服を纏っていた気がする』


 この世界なので、もしかしたら魔物の毛皮で作った服かもしれないな。
 耐寒性の高い防具って、だいたい魔物を素材にして作っているし。


「ん? 魔物の反応があるぞ」

『そうか。ならば使うがよい』


 今回は最初から魔剣を抜いておく。
 真価を使うつもりはないし、対人戦でなければほとんど意味はなさない。
 それでも魔剣は普通の剣より魔力が籠めやすいのだから、それを使って戦えばいい。


「……『ボルトラクーン』。まあ、バチバチ言ってるし雷属性の魔物か」


 五体ほどで現れ、尻尾に溜め込んでいる電流で威嚇してきている。
 タヌキが可愛いというパターンもあるが、今回はお腹を空かせているガリガリ状態だからかあまりそうは見えない。


「食べ物は……ああ、ここにあるもんな」

『KYUUUN!』

「死なさずに沈静化させて、それからやればいいか……」


 何もしてこない俺に焦れた一体が、電流を飛ばしてくる。
 魔剣にこちらも雷属性を流し、相殺するように攻撃を受け流す。


『UYUUUUN!?』

「“峰打ちミネウチ”」


 前回のような移動系の武技は使えず、スキルも使用不可だ。
 魔力をそのまま運用し、強化とも言えないブーストを掛けて移動する。


「──“切斬スラッシュ”」


 近づいたらどんどん斬っていった。
 ただし使うのは剣の腹、叩くようなイメージで武技の軌跡を描いていく。
 やがてタヌキたちの中に、立つ者はいなくなった。


「……これで終わりだ」

『殺さないのだな』

「あの狼と違って、コイツらは殺す必要がなかった。弱肉強食って言葉があるが、それはつまり強い奴には権利があるってことだ」


 そして今回、俺は強者だった。
 それも、選ぶ余裕のある強さがある。
 だから俺は選んだ、弱者は食わずに生かしておく選択を。


『……ならば、どうして私を使わない。死なさずに生かす力が私にはある』

「そうだな、たしかにそれもできる」


 元は拷問用の魔剣だ。
 傷つけた対象へのダメージを、精神力に直接変換させるような能力を持っている。
 それがあれば、“峰打ち”など使わずとも戦闘不能にすることはできただろう。


「約束したはずだ、俺は共に居てほしいと。力を使うために利用したいわけじゃない。使わせたいなら、お前の方から使わせたいと思わせろよ」

『……天邪鬼な契約者だ』

「そうか? これが素なんだが……」

『まったく……担い手とは大違いだ』


 ずいぶんと聖人みたいだったらしい。
 魔剣を生みだすような想念を持ち、かつ子の魔剣が語るような性格の持ち主か。


「それで、どうなんだ?」

『ハァ……思うままに、使ってみろ。担い手とは語り合うことができなかった。あの男は私を理解しようとはしなかった……仮初の契約者よ、汝は私をどう振るう』

「俺は偽善のため、他者のためにお前を振ろう。そこにはお前も含まれる。だから、お前が望まないならば振るわない」

『ならば振るえば、使いこなせると。覚悟はあるのか、担い手となる覚悟が』


 人を苦しめるための存在。
 それがこの魔剣、『黒鍵魔剣』である。
 だからこそ、それを問いかけてきた。


「担い手になる覚悟はない。だが、使いこなしてはみせようじゃないか。それをお前が望むならな」

『……乱暴で、わがままな言葉だ』

「けど、軽く担い手になりたいと言われるよりはいいだろう? まあ、ついでに担い手探しも手伝ってやるからさ」

『仮初の契約者、お前はそれでいいのか』


 その言葉の意味は分かっている。
 そりゃあ、別の持ち主を探してやるなんて言われたら疑問を抱くはずだ。


「だから、その選択もお前次第だよ。優柔不断で悪いが、それでもこれが俺なんだ」


 しばらくの間、魔剣は沈黙を貫く。
 何を思ってだろうか……まあ、使っても抵抗しないから悪いことではないだろう。



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