AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と帝国散策 その05



 帝国の闇は深い。
 強行的な政治を行った反動か、元々存在したアンダーな場所がより深くなったらしい。
 ただでさえ、大通りで他国にとっての禁制品を取り扱っているのに……それ以上の品が売られているのだ。


「だからこそ、わくわくするんだが──そこの『バイオプランツ』の種をくれ」

「毎度あり!」


 ちょうど買った種は、増殖力が危険視されて裏でしか回らなくなった品だ。
 うちには品種改良のスペシャリストが居るので、上手く調整してもらえばどうとでもなるだろう。

 というか、俺や眷属たちにとって危険視すべきものとは何なんだろう?
 正直に言っていいのであれば、己たち自身が世界にとっての危険物ではないか?

 そこら辺を考えてしまえば、一生解決しない気がした。
 なので気分を切り替え、再び並べられた商品を吟味していく。


「あっ、ついでに『ゴーストフラワー』の種も付けておいてくれ」

「ありがとうございます……ですが、予算の方は足りておりますか?」

「問題ない──金ならある」

「毎度ありがとうございます!」


 それなりに費用はかかるのだが、複製魔法があるので初期投資さえあれば何度でも試すことができる。
 試せば試すほど、元が取れるという素晴らしい考え方だ。

 金貨を数十枚並べておくと、その店の店主はニコリと笑った。


「さて、次はどこに行こうか……」

「おい、そこに兄ちゃん」

「うーん、まだ入り口なのにこんな品が売られているとは。やっぱり、奥はもっと面白い品が売られているのか──」

「おい、聞いてんのか!」


 あえて無視していたのだが、やはりチンピラは存在するわけで……わざとらしく金をバラ撒けば、集まってくるみたいだ。


「ああ、悪いが気づかなかった。あまりに弱そうだったからな」

「なんだと!」

「自覚が無かったのか? 弱いからこそ、そのような行いをしているのだろう?」


 見た感じからして、強そうには見えない。
 というか、強い奴はそんなテンプレの雑魚みたいな台詞セリフは言わないだろう。
 それに、それは図星だったようで……五人組の彼らは全員が剣を引き抜く。


「後悔させてやるよ……その上で、身包み全部剥いでやる!」

「やれやれ、こんな場所で戦おうとするとは愚かだな。自分たちの敗北を見てください、そう世間に見せたいのか」

「ふざけんじゃねぇよ!」


 実際こういうことはよくあるのか、誰もそれを止めようとはしない。
 この場所はそれなりに広いので、戦うにも観戦するにも困らない環境だ。

 というか、賭けはやらないでほしいな。
 ──俺が賭けられないから、全然儲けが出ないじゃないか。


「死ねぇ!」

「……仕方ない、身の程を教えてやろう」

「そんな武器で……俺たちを倒せると思ってるのかよ!」


 古びたナイフを構え、五人を相手取る。
 武術スキルの補正は使えないが、ティルから使い方を学んでいるので一本で充分だ。


「それじゃあやろうか──“移動突ステップスタブ”」


 短剣の基本武技“移動突”。
 効果は単純で、直線状に一瞬で移動して短剣を突きだすだけだ。

 チンピラの一人に近づき、そのまま突く。
 防御すれば防げるということではなく、刺されてから知覚するというレベルの話だ。


「痛ぇっ!」

「“移動突”」

「ぐぎゃあ!」

「“移動突”」


 ワンサイドゲームだった。
 補正のままに動けば、“移動突”は真っ直ぐにしか向かうことができない。
 だが、ティル師匠によって昇華されたその武技は、足捌きで自在に進路を変えられるようになっていた。

 発動中の精神力APと緻密な脚の捌きさえ意識すれば、カーブだろうと向かうことができるようになっている。
 まあ、動きが変えられるだけで、結局問題というか穴はあるんだが。


「“風刃エアカッター”、“後退突バックスタブ”、“速応突ラピッドスタブ”」

「おぶっ……!」
「ごふっ……!」
「ぐぶっ……!」


 風の刃を飛ばし、後ろに下がって一突き。
 これで前後に立っていたチンピラ共を、同時に倒して残り一人。
 同様に、“速応突”という“移動突”の上位武技でその一人に向かう。

 こちらの利点は、移動中に武技を維持することが可能なこと。
 そして、“速応突”の軌道に重ねるようにして武技を発動させる。


「──“貫通突ペネトレイト”」

「ッ……!」


 声も無く、喉を貫かれて死亡する。
 同じく刺突系の武技なので、重ねて行使することも容易かった。


「まったく、愚かなことをするものだ……身包みは代わりにこちらが剥いでやろう」


 あまり便利な品は持っていないが、金銭程度であればちょっぴり持っていた。
 禿鷹のように集まってきた死体屋や遺産屋に要らない物を売り、さらに金を得る。


「にしても、死体も売れるのか」

「ここでは何でも売れますよ。もちろん、それは生きた人だったとしても……」

「そうか……ああ、何か貴重な物が売られている場所を知らないか?」

「そうですね……ちょうど数日後、最深地でオークションがありますよ。よければ、ぜひ行ってみてください」


 やっぱり、オークションってあるんだ。
 情報料に手に入れた金を一部渡し、もう少し奥地へと足を進めた。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品