AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とロットカップ 前篇
童話世界 ロットカップ
赤ずきんにちなんでつけた名前だが、特に意味を知らない世界の住民たちはそれをそのまま受け入れた……狼男の名前でもないし、否定する理由が無いからな。
「あっ、メル君!」
「姫様じゃないですか……どうしてここへ」
「どうしてって、精霊さんたちとお話をしていたからだよ」
そして、精霊の泉で彼らの助力を得ようと思って訪れてみれば、そこにはすでに先客が精霊たちと話していた。
一目で視界に入るのは、すっぽりと被った赤い頭巾──彼女こそが、この童話世界の真の主である少女である。
ちなみに、俺はなんとなくといった感じで昔来たときと同じ姿をしていた。
見習い少年騎士(自称)メルは、姫である赤ずきんの護衛役なのだ。
「そうでしたか。ボクもちょうど、精霊たちに話したいことが会って来ました」
「そうなんだ。メル君が直接来るのって、凄く久しぶりだよね」
「そうでしたか? あまり、その実感は無いですけど……」
「ううん、本当に珍しいんだから。だから、来てくれて嬉しいよ」
周りの精霊たちは、主である赤ずきんの感情に呼応して踊り始める。
色とりどりな光が俺たちを包み、幻想的な光景を生みだす。
「メル君……」
「姫様……」
互いに見つめ合い、何かを言おうとする。
「ゴホン……ああ、そろそろいいか?」
──その直前で、どこからともなく咳払いが聞こえた。
そちらを振り返れば、狼人族の青年が飽き飽きとした表情でこちらを見ている。
「きゃあっ! ……も、もう、ヴァーイったら、急に脅かそうとするなんて……」
「そんなことした覚えがねぇよ。お前さんらが勝手にイイ雰囲気になって、俺から注意を外しただけだろ」
「そ、そんなことないもん! ……メル君もないよね?」
「ええ、そんなことありませんよ」
そうなんだ、と言いながらも少し落ち込む様子を見せる赤ずきん……何があった?
首を傾げるが、ヴァーイがやれやれといったポーズをしているだけで状況が掴めない。
「まあ、いいや。それよりメルス、何をしにここに来たんだ?」
「えっと、この世界をもう少し、いい環境にできるか視察に来ました。その第一段階として、精霊たちに協力を求めに来たのです」
「へぇ、いつもお前の眷属がちょくちょく来て、そのたびに大きくしてたが……まだ他にもできるのか?」
「まあ、その気になれば世界そのものを創りかえることもできるんですけど、制限がありますからね」
いつもの<箱庭造り>を使えないようにしているので、大地を変革するような大きな改変はできない。
そのため、小規模ではあるが同じように改変ができる精霊に頼るってわけだな。
「──とりあえず、姫様の周りに居る精霊たち以外はだいたい了承してくれました。ですのでこれから、この世界を巡る予定です」
「具体的にどんなことをするの?」
「自然の活性化、ですね。眷属たちがすでに擬似的な脈を構築してくれてありますので、あとはその周辺に精霊たちが住めるような環境を増やすだけです」
「それって、ワタシも手伝っていいかな?」
ビシッと手を挙げて、そう尋ねる赤ずきんの意図が分からなかった?
知ってそうな狼男に顔を向けるが、そちらはまだやれやれ、といったポーズをしているので何も訊けない。
「それは構いませんし、むしろ姫様が居るだけで仕事は捗りますが……よろしいので?」
「うん。最近はやることもなくて、今日もこうして精霊さんたちの所に来ていたぐらいだし。ヴァーイが居れば、大人たちもどこに行くかを咎めないしね」
「ああ゛? なんで俺がお前の手伝いなんかしなきゃ」
「──報酬はそうですね、新作の魔物肉を用いた料理でどうでしょう?」
掌を返すように跪くその様子は、食欲に忠実な残念なオーラを放っていた。
新作の魔物肉、というのもあながち嘘ではない……新作の料理なのか、それとも別のナニカなのかを言っていないだけだ。
「まったく、困った狼男です……姫様を守る者がそのような振る舞いでどうしますか」
「知らねぇよ。どうせ俺よりメルスの方が働くんだろぉ? なら、俺はそれまでの時間稼ぎさえできりゃあ充分だろ」
「……ボクはそうは思いません。時間稼ぎをする必要はありません、最初から姫様を狙う敵は屠ってください」
「それでいいのか? オメェは」
赤ずきんの安全が第一なのだ。
ヴァーイの少し外れた質問だが、要するに俺でなく彼がそうすることに疑問を感じているのだろう。
「姫様を狙う愚か者であれば、その処分は好きにしてください。ボクも善人じゃないし、そうなる気はない。大切なのは姫様で、それ以外は別に……って、どうされました?」
「た、大切? そ、それって……」
「姫様……姫様!?」
「うきゅぅ……」
彼女の特徴とも呼べる赤ずきん、それと同じくらい顔を真っ赤にして目を回していた。
倒れる彼女を精霊たちが支え、非力な俺の代わりにヴァーイがその身体を持ち上げる。
「いいのかよ、そんな態度で」
「……なんのことでしょうか」
「まあ、俺は別にいいけどよぉ。そんな腹も膨れねぇもんより、あとで報酬をたんまり貰えるんだからよぉ」
「期待しておいてください、それに関しては保証しておきますので」
このまま返すと間違いなく怒る。
なので運搬はヴァーイに任せ、今日のお仕事を始めることにした。
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