AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の旅行 その18
夢現空間 居間
居間にあるコタツの中で、俺はリュシルに今回の旅行であったことを話していた。
「性別を間違えるって、ラブコメかよ……」
「たしかに、魔族の中にはそういった性に関する成長が遅い種族はいますが……あまり間違えない方がいいですよ」
「そりゃそうだな。いつも鑑定眼に頼りすぎだったってことが、よく身に染みたよ」
後日談、というかあれからというか。
シヤンの(俺にとって)衝撃の告白を受けたあと、改めて紅蓮都市について説明し、前にやったように案内をしてみた。
神父は初め、悩んでいたようだが……いっしょに観光させていたシヤンとシスターの説得によって受け入れることを選んでくれた。
幸い、家であればかなり余っていたので、一部を片付けてそこに新たに教会を建てておいた……あそこで暮らすことになるだろう。
「ところでメルスさん、シヤンちゃんの持つ魔眼の力ってどんなものだったんですか?」
「ああ、『波浄眼』のことか? 簡単に言えば、波と浄化を操る魔眼だ」
「……そのままではないですか」
「まだ初期段階だしな。いつかシヤンが磨き上げたときに、改めて説明しよう」
俺を実験台にして分かったが、攻撃にも防御にも使える面白い魔眼だ。
悪意の感知にも使えるし、同じ仲間たちを守るための力だなーとそのときは感じた。
「他に何か訊きたいことはあるか?」
「そうですね……あっ、魔王はどうなったんでしょうか? 一番目のです」
「破槌? さぁ、分かんないな。シヤンって面白い奴を見つけた時点で、頭から消されていたからな」
「私も突然脳裏を過ぎるまで、すっかり忘れていましたけどね」
なんというか……こう、印象が薄いんだ。
俺たち思考系のスキルの持ち主が、揃って忘れるような奴だしな。
「あっ! そうでした、まだ他にも探すべき人たちが居るんですよね?」
「そう、『勇者』と『賢者』だな。片方は住所と住居が分かったんだから、いずれ訪問するかコンタクトを取る方法を見つければそれでいいさ。だが、『勇者』がな……」
「そんなに見つかりませんか?」
「本物がな。称号として『勇者』を持つ、扉の解放に必要な奴を探しているわけで、それ以外に職業勇者とかが現れても、まったく必要にしていないんだよ」
こちらでも、『魔王』と同じような問題が発生してしまった。
そもそも貴重な勇者なので、その数はかなり少ない……が、称号版の方を除いても決して零ではないんだよ。
「シヤンが完全に覚醒すれば、『勇者』レーダーとして働けるようになる。それでどうにかなればいいんだけどな」
「見つからない可能性があると?」
「少し前に死んで、まだ候補者が見つかってないとか最悪のパターンだろ?」
世界も世界で、可能な限り称号持ちが存在しないような状態を維持しようとは思わないだろう。
面倒な神たちが跋扈して阻んではいるものの、世界そのものは扉を開くためのルールを順守しているわけだしな。
「こういうとき、人造勇者で作ればいいと思うのって……アウトか?」
「アウトですね。どこのネロさんですか」
「魂魄とアンデッド特化なだけで、それ以外の研究はあんまりしてないだろ」
「では、それ以上じゃないですか……」
まあ、魔拳や死霊魔法に関することであれば、ある程度やっていたらしいがな。
狂うほどに研究をしていたが、問答無用でやっていたわけじゃないし……もともとが人じゃないことを考えれば、ネロなりのコミュニケーションだったんだと思うが。
「メルスさん、賢者の塔についてですが……私たちの方で調べてはいけませんか?」
「うーん、それはいいんだけどさ。死なないように最大限のフォローをするぞ」
「あまり、メルスさんに頼ってばかりいるのもあれですけど……仕方ありませんね。行かせてもらえるのであれば、どんな条件でも受け入れますので」
「まあ、やりすぎると嫌われるか……緊急帰還ぐらいなら、許してくれるよな?」
この問いには、頷いてくれるリュシル。
本当は一人一人に人工精霊でも配置しておきたかったが、それは自分でも駄目だと思ったので中止にしておいた。
「生命力が九割を切ったら、こっちに戻すようにするからな」
「早すぎますよ!!」
「え゛っ!? ……こ、これくらいじゃないと俺も心配なんだが。生命力が満タンじゃないと、使えないスキルもあるじゃないか」
「それは……そうですけど。もぉう、そこまでしますか?」
もちろん逆の立場ならば、生命力が底を尽きようと戦い続けるけどな。
眷属たちに望まぬ戦いを強要するぐらいであれば、限界を超えても戦うはずだろ。
「あっ、そういえばすぐに行くのか?」
「いえ、メルスさんじゃあるまいし……しっかりと準備ができてから行きますよ。外に行けば能力値に制限がかかりますし、危険であることも承知の上です」
「なら、俺からは何も言わないさ。今回の調査で気になったことがあるから、行くとなったらガーにそのことを訊いてくれ。一人連れていくことになるだろうけど、護衛任務だと思って頑張ってくれ」
「えっ? あ、はい……分かりました」
わざわざ賢者の所には、俺が行かなくもよくなったな……どんな罠があるかはしらないが、俺以上に優秀な眷属が挑めば心配はあんまりない。
第四世界には無数の迷宮があるし、そこにはあらゆる可能性に対応できるようにいろいろな仕掛けがある……それを全部突破できる奴らを、どう心配しろって話だよな。
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