AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の旅行 その10
大人しくなった少年の姿に、大人たちは歪みに歪んだ哂い声を上げる。
ことごとく自分たちのやることを邪魔してきたガキが、自分たちに屈して頭を下げている状況……それに優越感を感じていた。
「ったく、調子に乗ってるからそうなるんだよ。テメェみたいなガキが、いい気になって大人様に逆らうんじゃねぇよ!」
「ぐはっ!」
「こっちのガキたちだって、俺たちの正しい行動に黙って従ってんだ。コイツらのおにーちゃんであるお前も大人しく従えよ!」
「…………っ!」
仲間たちを盾にされた少年は、その瞳に怒りを宿らせたまま攻撃を甘んじて受ける。
体中が悲鳴を上げ、声を漏らしそうになることもあった。
それでも苦しい仲間たちを思うと、必死に耐えようとどこからか力が湧いてくる。
──絶対にやり返す、と瞳に強い殺意を溜めこみながら。
「……チッ。なんだよコイツの反抗的な眼、気に食わねぇな」
「こいつ、まだ自分の立場が分かってねぇんじゃねぇの?」
「おっと、そいつはいけねぇな。こっちのガキたちはすぐに言うことを聞いたが、さすがにこの眼は腹が立つな……抉るか」
「ッ……!?」
言っている意味が理解できなかった。
なぜ、そのような考えに至るのか。
どうして、そんなことを行えるのかが。
少年の頭の中で、さまざまな怒りがふつふつと湧き始める。
それは理不尽な大人たちであり、それを許す世界であり、弱い自分であり……さまざまなものへ怒りをぶつけていく。
──そんな思考の最中、右目に激しい痛みが発生する。
「ほーらほーら、痛いだろー? これでお前も、俺たちに従うんだよ」
「っ……!!」
「おいおい、ここでだんまりは無いだろ。優しい俺たちがせっかく左目を残してやったんだから、こっちを見ていい目をしてみろよ」
右目が潰された。
涙のように伝った血液が、左目からも見受けられる。
激痛に叫びたかった……だが、それ以上に耐えねばならないという意志がそれを捻じ伏せ、怒りに変換していく。
「……ソイツらを、離して、ください」
「はっ、なんでだ?」
「…………俺はどうしたっていい。だから、ソイツらを……」
たとえ目を潰されようと、少年は意志を決して曲げない。
共に過ごしてきた仲間を救うためならば、どのような屈辱であろうと苦ではなかった。
だが、世界はとても残酷で……少年の小さな意思を圧し潰そうとする。
意志を意思へ、意思を遺志へ変えようとしていくその在り方は、理とも言うべきまでに常識となっていた。
「お前は殺す。それが、これまで俺たちの邪魔をしてきたお前への制裁だ。だが、ただ殺すだけじゃつまんねぇだろ? だから、いっしょにお友達も送ってやるよ」
「お、お前ら……」
「お前らじゃねぇ! ……まあいいか、お前の発言が一つウザかったら、これから一人ずつ殺していく。まずは……こいつだな」
「やめろ!」
腰に下げた剣を引き抜き、子供の一人の首に向ける。
少年は必死に叫ぶが、大人たちが体を拘束するためそこまで行けない。
「なんで、なんでだよ……なんでお前らは。そんなことができんだよ!」
「いいことを教えてやるよ、クソガキ。強い奴が、正義なんだ。テメェは弱ぇ、俺たちは強ぇ……だから俺たちはテメェらを好きにできるってわけだ。死ぬ前に賢くなれてよかったな、クソガキ」
溜め込んだ怒りは噴火寸前だった。
仲間を救おうとし、抗おうとしなかった結果が死であることを肯定できずにいる。
──ふざけるな、俺たちはただひっそりと生きようとしていたのに。
犯罪に手を染めたわけでも、悪行に手を付けたわけでもない。
──どうして俺から家族を奪う、どうして強者が正義になる。
ただ、力が足りなかった。
いずれは力を得ただろう……だが、まだ時間が足りなかっただけだ。
「……そうか、弱いのが悪かったのか。俺が強ければ、アイツらを守れる」
「お、おい……何を言ってる」
少年からふつふつと込み上げる怒り。
真っ赤に燃え滾っていたそれは、少年の新たな感情に呼応してどす黒い力を齎す。
動けぬ体をもぞもぞと動かすと、殺意に満ちた左目を向ける。
そして、空虚な右目が映すのは、ここではないどこかだった。
この世界すべてに無い瞳が怨嗟を籠め、その怒りを声に変えようとした──
「ごめんくださーい!」
そのとき、どこからか声が聞こえた。
少年の声ではない、だが若い男の声だ。
「あのー、誰か居ますよねー? 返事をしてくれませんかー?」
外から聞こえるその声に、男たちは舌打ちして話し合う。
「どうする……殺すか?」
「このままだと勝手に入ってくるぞ」
「チッ。しゃあねぇな……俺が追っ払ってくるから、それまで待ってろよ。せっかくの楽しみだったんだからよ」
少年を拘束していた一人が立ち上がり、入り口の方へ向かっていく。
その様子を伺い、この状況を打破しようと少年が思考を凝らす。
「ぐあぁああああああああぁっ!」
だが、その行為も再び中断される。
突然入り口から出たはずの男が、扉を突き破って現れたからだ。
──それも、吹き飛ばされる形で。
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