AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の旅行 その02



 ガー曰く、見返りを求めた【慈愛】はもう慈愛ではないらしい。
 それは俺も納得の主張だが、かと言って彼女に優しさが無いかと訊かれればNOだ。

 少なくとも俺が見る間は、彼女は聖女のように周りに慈しみを以って対応していた。
 時に崇められるようなこともあったが──それは種族が『天使』だからではなく、彼女の心が天使だからだろう。


「俺もいちおう、こっちじゃ最初天使だったからな……うん、何を間違えたんだか」

「ですが、メルス様が天魔となったえにしのお蔭で私たちは誕生しました。感謝してもし尽くせません」

「思い返せば、かなり強引だったけどな」


 うん、精神操作はその頃からくらっていたのかもしれない。
 ご都合主義ですべてを纏めるなんて……いや、それは今も変わらないな。


「まあ、それはいいや。今は人探しを続けておこうか」

「たしか残りは……勇者、魔王、賢者、赤王だと聞いておりますが」

「まあ、赤王に関しては目途がついてる。だから残りは三人だな」

「さすがメルス様です!」


 うーん、いずれはそうなっていただろうという結果を速めただけだしな。
 確保した二人──聖女と守護者の候補たちは修業中だし、彼女たちを守る騎士もまたそれなりに力を付けている。

 だが、残った三人が全員未覚醒というわけでもないだろう。
 さすがに一人ぐらいは、すでにその力を振るっているはずだ。


「特に魔王なんて、偽物も含めて結構いそうだからな」

「偽物、ですか?」

「種族が魔王とか、職業が魔王とか、称号や二つ名が魔王とかあるだろ? うちにはそのパターン全部居るし」


 魔王と言っても、そのすべてが悪の支配者的ポジションに就いているわけではない。
 赤色の世界で探す魔王もまた、真の意味で悪役かどうかは必要とされていないのだ。


「ここでの魔王とは、世界の悪意を統制する役割……つまり、平和の維持をすることを意味するんだとか。群雄割拠みたいにならないよう、魔物や魔族を統制しているらしい」

「つまり、メルス様のようなことを行っているのですか……」

「ん? 俺って、そんなことした覚えさっぱりないんだけど」

「何を仰りますか。メルス様の名の下に、世界の民たちは悪意を沈めております。その解消法まで用意されているのですから、あっぱれとしか言いようがございません」


 うーん……本当にしたのかな?
 解消、となるとダンジョンの解放とR18な建物を再び始めたぐらいだな。

 人間の欲望は尽きないわけだし、それを発散させないと耐えられない者だっている。
 だから本業の皆様がたにご相談して、俺なり(というか眷属なり)のルールに従った上で仕事をやってもらっているのだ。

 ──まあ、少しばかりサブカルを参考にさせてもらったんだけど。


 閑話休題すべてはゆめのはなし


 都市の中で、強大な力を持つ奴について質問を取った……ガーが。
 やはり俺には<畏怖嫌厭>があるので、なんとなくといった理由で避けられてしまう。

 何か事情や因果があれば絡むこともできるだろうが、俺みたいなモブであればいかにもロクでもなさそうな奴は無視するのが一番だと考えるからな。


「それで、何か分かったか?」

「強い人、と訊ねると幾人か教えていただけました……ですが、それが例の人物と合致するかと訊かれると微妙でした」

「まあ、聖女も守護者も未覚醒の候補者だったわけだし。そう簡単に見つからないか」

「ですが、賢者であればほんの僅かながらに情報がございました」


 まあ、いろいろな作品において賢者といえば……失礼ながら老人のイメージが強い。
 少女である二人の候補者に比べれば、たしかに覚醒している可能性が高いか。


「ふむ、それでどこにいると?」

「──『赫炎の塔』と呼ばれる場所に、居られるとのことです」

「塔? 賢者が居るような場所ともなれば、さすがに気づくと思うんだが……」

「その塔は異空間、つまりダンジョンの中に内包されているんだとか」


 なるほど、さすがに俺の探査網も別の空間となると把握しづらくなる。
 そんな場所に潜んでいるとは、賢者もかなりに引き籠もりだな。


「賢者の役割は世界を見守り、外部からの侵攻に対して迎撃を行うというもの。まあ、それをやる場所はべつにどこでも構わないということか」

「外部……! それは、つまり……」

「そうそう、賢者は扉云々のことは知っているだろうな。もちろんそれを開こうとする、俺たちのことも含めて」


 一つの大陸に留めていたとはいえ、だいぶ暴れ回った気がするし。
 何よりそんな賢者が、邪神(とされる)カカ&カグの封印が解除されることに無関心なはずがないだろう。


「いずれはコンタクトを、紅蓮都市の方にでも取ってくれるとありがたいな。ああ、いちおう訊いておくけど、その塔の場所って判明しているか?」

「……申し訳ございません」

「あっ、うん。分かってたからな。とりあえず残ったのは勇者と魔王か。それこそ、分かりやすい役割が残ったな」

「あの、メルス様。残った勇者の役割とはどういったものなのでしょうか?」


 ん? 結構簡単だと思うんだが……。


「勇者の役割は魔王と同じ、世界の悪意を統制して平和を維持することだ」



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