AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の旅行 その01
赤色の世界
「まだまだ探さないとな……」
赤色の世界の地下に存在する、他世界と繋がる巨大な扉。
それを開くことができるのは、その世界に住まう選ばれし者たち。
その三分の一を発見、同時に協力を誓わせたのだが──残りがまだ四人もいる。
「と、いうわけで今回はその捜索を行おうと思う。協力してくれるか?」
「はい。メルス様のご助勢とあらば、どのようなことでもやり遂げてみせましょう!」
「……いや、そこまで強気でいる必要はないからな。サポートだけでいいからな、あくまでサポートだ」
「はい。畏まりました」
ニコリを浮かべられた笑みに、少し俺の中にある罪悪感が込み上げてくる。
慈愛の天使たるガーは、俺の行動をすべて肯定してくれる……のだけれど、物凄く俺が悪いことをしても肯定してくるんだよ。
それが悪いとは言わない、実際に悪いのは俺なんだが……自分の行いが正しかったと思われるのは助かる部分もある。
ただ、自分でも明らかに首を傾げる行いまでそう認識されるのは、違和感が強い。
「なあ、ガーはどうしてそこまで俺を肯定してくれるんだ? この質問、前にもしたけどさ。それぐらい気になるんだ」
「私が【慈愛】より生まれし者、というのも理由の一つでしょうけど……何よりも、私がメルス様の行いには必ず意味があるのだと信じていますので。それが主な理由かと……」
「意味なんて無い、と言ってもガーは認めてくれないよな?」
「はい、それはもちろんです!」
そんな笑顔で言われても……。
翼をパタパタと動かして告げられたその言葉には、深い親愛が籠められているためあまり強い否定もできずにいる。
「私は、メルス様より生まれし聖武具。当然ながら、貴方様の【慈愛】が今の私を形成しております。全聖魔武具が知っております、メルス様の感情に度を超えた悪性が宿っていないことを」
「それ、<大罪>としては不合格な気がする」
「大罪とは人間を死に導く感情、それ自体が導士としての力を持っています。ですが、それは悪と同意ではございません。その感情があること、そしてそこに籠められた想いさえあれば私たちは誕生します」
大小は関係なかったと。
まあ、それが能力に比例するというのであれば何か問題もあっただろう。
そして、もし強い感情が無ければ創造できなかったなら、美徳シリーズの大半が生みだせずにいただろうから納得だ。
「まあ、人間誰しも感情ぐらい生きてりゃ培うものだよな。ガー、俺は絶対に正しいことなんてできない」
「はい、分かっております」
「だけど、俺の周りの人たちが正しいと思えるように在りたい……この世界を、カグとカカに起きた問題をどうにかするため、俺はあの扉を開く──協力してくれるか?」
「何度でも申しますよ。メルス様のご助勢とあらば、やり遂げてみせましょう!」
だから、そこまで過激なサポートは必要としていないんだよ。
◆ □ ◆ □ ◆
赤色の世界にも大陸が複数ある。
これまでは一つの大陸と紅蓮都市を往復しかしてこなかったが、さすがに別の場所も探さないと目的の人物たちを見つけられないことを悟った。
「そんなこんなで新大陸へ到着。ここは、多種族が住まう地なのか」
「そのようですね。普人、森人、獣人、山人などたくさんいます」
「オークションで確認してはいたが、あの大陸には全然いなかったしな」
奴隷たちはそのまま紅蓮都市に横流ししたので、わざわざ捜索とかをしていなかったんだよな……帰りたい奴もいたが、とりあえずで放置していたし。
「今じゃ居心地がいいからか、逆に同胞を移住させたいとかいう意見もあるんだよな。さすが、眷属たちの政治だよ」
「いえいえ、すべてはメルス様の行いでございますよ。たしかに、ウィーの決断が彼らの心を動かしたということもあります。ですがそれも、メルス様がお救いになられたことによってなされました」
「……俺はただ、奴隷を偽善で救いたかっただけだよ」
「それでこそ、メルス様です」
百パーセントの善意で褒められると、俺のような凡人は舞い上がってしまうものだ。
{感情}による精神安定がそれを押さえ込むが、記憶したその言葉が脳裏で反芻されるため、結局ジワジワと喜んでしまう。
「? どうか、されましたか?」
「あんまり誤解されないようにしろよ」
「そういうことでしたか。ご安心を、私とて生きとし生きる者すべてに対して、優しくしているわけではありませんよ」
「ん? そうだったのか」
てっきりそうなのかと思っていた。
少なくとも俺が観ている場所で、ガーが他人に優しくない態度を取っていることなど一度も無かったんだが……。
「慈愛とは、慈しみを以って人々に安楽を与える心です。心身の苦痛や生活の苦労を取り除くこと、その想いが慈愛なのです」
「俺が聞くに、それは生きている奴全員にやることじゃないのか?」
「いいえ、それは違います。仏教において慈愛はたしかにそうなりますが、私にとっての慈愛とは家族に向けられるもの。そして、メルス様が慈しむ民へ向けられています。目の前で二人の者──メルス様の関係者と見知らぬ者が倒れていれば、私は迷いなく前者を救おうとします」
「へぇ、そんな考え方だったのか」
ガーは心配そうに俺を見る。
不安、と言ってもいいだろう。
「軽蔑、しますか? 私が──【慈愛】から生まれた天使がそのように考えることを」
「……軽蔑? するわけないだろ。お前たち武具っ娘は、俺から生まれた娘みたいなものだぞ? お前たちの想いは、俺の想いでもある。そんな娘の一人が、人間全員に優しくできないなんて悩む……それこそバカらしい」
「そうでしょうか……」
「手の届く範囲に、優しくしていればいい。俺は優しさと偽善を間違えて生きている人間だ、最初からおかしいんだよ。ガー、天使である以前にお前は俺の娘だってことを、忘れないでくれ。反抗期になって嫌われるまで、お前は俺を見て育ってくれればいいさ」
いずれは反面教師、という形でみんな自分らしく育ってくれるだろう。
俺にいいところなんて、まったくと言ってイイほどにないんだからさ。
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