AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と聖霊講義



「メルスンもようやく、聖霊について学ぶ気になったんだね!」

「ああ、ユラルのことがもっと知りたくなってな。それに、聖霊が持つエネルギーの解析の方も進めたくなったんだ」

「……うーん、前半だけだったら嬉しくなったかもしれないけど。メルスンって、一言というか五言くらい多いよね」

「どうして二、三、四を省いたかは訊かないでおく。まあ、それでも精霊と聖霊の違いについてより詳しくなろうってのは事実だ。それがナースの進化にもヒントになるし、新魔法の開発にも使えるだろう」


 聖霊、という単語は地球にもある。
 キリスト教云々の中で、神が用いるエネルギーとしてだったか?

 だがその聖霊に、人格は存在しない。
 つまりドゥルはともかくユラルに人格が有るのは、それに当て嵌めると不自然とも言えるわけだ。


「……あんまり、禁忌な魔法は創らないでほしいんだけどな」

「そんな魔法、創った覚えないんだが……存在しない属性の精霊を生みだしたアレか?」

「うん、それ。メルスンが理不尽なのはよく分かっているけど、そういうことをすると精霊界に影響が出るんだよ」

「精霊界? 複数の世界が観測されているけど、そういえば精霊の世界ってその場所ごとにあるのか?」


 Aの世界にはA用の精霊界、のように分けられるのか。
 それとも隣接する? 世界の精霊たちが一つの場所に存在するのか……分からん。


「前にメルスンも行ったあの熱い場所に私も行ったけど……繋がってなかったし、精霊界は別にあると思うよ」

「繋がりは無い、と。なら、ユラルはそっちの精霊界に行けたか?」

「たぶん、行けたんだろうけど……手続きとかもあるし、止めといたんだ」


 世界を渡るのも外国に行くように、何かのパスポートが必要なのかもしれない。
 俺は<次元魔法>で不正入国できるが、行った先でパスポートを確認されれば間違いなくバレるからな。


「おっと、聖霊についての説明だったね? うん、私が教えられることならみんなに教えるよ。けど、本当に私でいいの?」

「本として纏めてくれたみたいだが、一々教科書を開いて読むのは性に合わないんだ。できるなら直接、実演する形で教えてくれると助かる」

「うーん、何人くらい来るのかな? 私も一人しかいないし、メルスンとナースンとドゥルルンは決まっているとして、できるならあと……五人くらいかな?」


「──だってさ! さぁ、みんなで講義枠を賭けた闘いだ!」


 へっ? と疑問がいっぱいのユラルを置いて、さっそく乱闘が始まる。
 ユラル先生の聖霊講義は大人気で、五人の枠を三十人で取り合うぐらいは当然なのだ。


「ふははははっ! さぁ、最後に残るのははたして誰なんだろう──なぶぅっ!」

「もう、みんな止めて! 頑張るから、一度でみんなに教えるから! ほらメルスン、早く止めに行ってよ!」

「そ、その前に逝ってしまいます……」

「メルスンが死ぬはずないでしょ! ほら、早く行って!」


 その信頼は嬉しいけど……眷属たちの戦いに首を突っ込んだら、間違いなく俺でも死ぬ可能性が生まれるからな。
 一度ため息を吐くと──全力の武具を以って事態の鎮圧に当たった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 会議室


「──聖霊とは、あらゆる自然エネルギーから力を得られる精霊のことです」


 ユラル先生の授業が始まった。
 残念だが学問の神様は俺に加護を授けてくれなかったため、講義は教室ではなく会議室で行うことになる。


「精霊が自分の属性に関わるもの──火属性の精霊だったら火やマグマ、水の精霊だったら水や氷から力を分けてもらっているのはもう知っているよね?」

『はーい』

「そして、もう一つ。精霊たちは脈という場所のエネルギーを好むんだけど……そこの力はとても複雑なんだ」


 バンッと、ホワイトボードを叩くことで学生たちの注目を集めるユラル先生。
 なぜか衣装チェンジして教師っぽい服を着ているが、そこにはあえて触れずそのまま講義に集中する。


「脈から溢れるエネルギーは、星が自然を維持しようとするために使うモノ。要するに、星の血と言ってもいいんだよ。精霊たちはそれを貰って、世界を回る。すると精霊が居る場所にはその星の力が来るから、より環境はよくなるんだよ」

「先生! なら、精霊と契約して脈が無い場所に縛りつけておけば、いずれ自然が死んでいる場所でも豊かになるんですか?」

「それはないよ。精霊が使う分のエネルギーもあるから、あまり多くを脈から持っていくことはできないの。風属性、光属性、闇属性の精霊の子ならどこでも行けるけど……光精霊と闇精霊の子はあんまり動かないから」


 その二柱は、上位存在である妖精種や選ばれし者たちに付き従うことが多い。
 光であれば勇者に、闇であれば魔王に。

 俺はそのどちらでもないが、そんな奴らが持っていそうな導士もあるし……何より眷属による改造を受けている(いつの間にか)。
 そのため<畏怖嫌厭>に引っかからない程度であれば、どんな精霊であろうと力を貸してくれる──あっ、精霊神の加護もあったか。


「風はどこにでも吹くから、どんな場所にでも行ける。もちろん、人族が壁を作っちゃった場所は別だけどね」


 どの世界でも、人は自然を破壊する。
 そうしないと、生きてはいられないから。

 ふと、そう感じてしまう俺だが……講義はまだまだ続いていくぞ。



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