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山田 武

偽善者と育成イベント完結篇 その02



『魔導解放──“果てなき虚構の無幻郷”』


 その言葉を聞いた瞬間、男は世界から姿を消した。
 気づけばそこは、何もない白の世界。
 無限の地平線が広がり、どこまでも続いていく途方もない空間。

「ここは……いったい……」

 自分はたしか、誰かと闘っていた。
 世界の変化に一瞬忘れていたそのことを思いだすと、すぐに状況を確認する。

「そうだ……魔王、精霊魔王は!」

 探してはみるが、あるのは自分自身・・・・とも呼べる巨大な木造船のみ。
 自身と相対した少年は存在せず、ただただ何もない場所を知覚する。

「……彼の能力? いや、魔導だったね。まさかこの舟ごとどこかへ飛ばす力があるなんて……さすが魔導だよ」

 魔導──あらゆる理を超越した力。
 自身の魔力を代償に、世界を望むままに塗り替える究極の魔の術にして法。

 魔力を導くということで魔導とされたその至高の力によって、自身がこの世界に飛ばされたことを理解した男。
 いったい何の目的でそれを行ったのか……それは分からない。

「けど、そんなことはどうでもいいさ。私は決めたんだ、たとえ魔王になろうともこの在り方を曲げないと」

 世界が否定したのであれば、誰よりも自分自身がその行動を肯定しよう。
 すべてを救おうと、魔物すら救おうとした選択は誤っていないと。

「っ……!」

 肯定しようと、そういった少年をふと思いだし苦い表情を浮かべる。
 今振り返れば、彼の言葉に偽りは感じられたなかった。

 ひたすら自分に思いを伝えようと、止めようと叫び続けてくれたのだろう。

「だからこそ、誰もいないこの場所に送ったのかもしれないね……彼だけがここを知っているというのであれば、いつか現れるかもしれない」

 理屈ではない……だが、そうなるであろうと思えた。
 一度戦ったからこそ分かる、繋がりというものを彼との間に感じられる。


「なら、私の選択は唯一つ。決着をつけようじゃないか、精霊の魔王。私の全力を以って君を──殺そうじゃないか」


 数日前、男の決意は定まっていた。
 方舟の甲板には、その言葉と共に膨大な数の魔物が生まれ始める。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 誰も居ない浮島で、空を仰ぎ見る。
 前にも一度見たように、現実では見れないほどに美しい星々の輝きが存在した。


「やれやれ、こういう展開が一番だって望んだのは俺自身なんだがな」


 あのままにしていては、きっとリンチのような倒し方をされていただろう。
 だが俺はそれを拒み、誰もいない世界に方舟とあの男を追放した。


「お蔭で魔力は枯渇したが……さすがはナース、もう回復してるいるのだな」

《えへへー》


 俺たちは再び“精霊合身フューズエレメンタル”を使い、一つとなっていた。
 膨大な魔力が俺の中を流れ、今なお尽きない感覚が仮初の全能感を俺に齎す。

 ドラゴンたちとは別の意味で、人を酔わせる無限の魔力な気がする。
 まあそれでも、{感情}がある限り身を委ねることはないから問題なしだ。


「やれることは全部やった……とは言い難いが、それでもまあ用意した方だ。ナース、コルナは連れていけんぞ」

『うんー』

「分かっているならいい……さぁ、俺にその魔力を委ねろ」

『おー!』


 魔導の制御はナースには不可能だ。
 生みだしたイメージは俺だけのもので、他の者に使うことは……まあ、ギーという例外はあるけど普通はできない。

 集中し、魔力を解放する。
 イメージはできた、すでに奴もまた俺をそこで待っているだろう。

 さぁ、始めよう。
 偽りの魔王たちの闘い──二回戦だ。


「魔導解放──“果てなき虚構の夢幻郷”」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 この魔導は、いつか起きるかもしれない強敵との闘いへ備えて用意した物だ。
 ソウとの闘いでも分かったが、異常な力同士がぶつかれば甚大な被害が周囲に及ぶ。

 ならばどうするか──そうならない場所へ相手を引き摺りこめばいい。
 その上でそこで相手に対処すれば、外部に影響などいっさい起きないのだから。


「……ずいぶんとまあ、魔王らしくなったものだな──古の遺物よ」

「君こそ、たくさんの精霊を連れているようだね──精霊の魔王君」

「ここは俺が生みだした世界、貴様がどれだけ遊ぼうと現実には何も影響を出さない」

「魔導を使えるとは、君は卓越した魔導士でもあるようだ。けど、魔導使いにはそれなりの対処法があるさ」


 魔導の存在を知っている?
 ノアの方舟は紀元前の話だし……こっちの方舟も神代の遺物なのかもしれないな。
 まあ、訊くことが増えただけだ。


「改めて問おう──貴様は俺に肯定されることを拒むのか?」

「ああ、必要ないさ。私自身で、世界に創造主と私のことを肯定させよう」

「……そのような魔物たちを連れてか」

「話し合いで済むのであれば、それでも構わないさ。あくまで保険だよ」


 どうやったのか、舟に乗るのはそのすべてが王や帝を冠する魔物たち。
 そうでなくとも、種族としてもともと凄まじい強さを持つ魔物ばかりだ。


「仕方あるまい。貴様を捻じ伏せ、俺に従属させてでも止めてやろう。貴様を救おうと俺と、俺と契約した者たちのためにな」

「従属? 余計なお世話だよ。君の精霊を従える権能を奪い、より強大な魔王になってみせよう!」


 話し合いは失敗した。
 ここからは対話(物理)の時間だ。



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