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山田 武

偽善者と育成イベント終盤戦 その15



 浮島に反射能力を持つ亀が居ただろう?
 ではなぜ、そんな魔物がそこに居たのか?

 ──そんなもの、布石フラグに決まっている。


「次は向こうだ。数分もすれば見える」

「い、急いで」

『承知した』


 ハークが大空を翔けて俺たちを運ぶ。
 精霊を使った探索法で浮島を見つけ、その場所を伝えるのが俺の役割だ。

 そして、カナの役目は──


「み、みんな! お、お願い」

『了解!』


 彼女が生みだした空間の歪みから、さまざまな存在が現れては浮島へ向かう。
 魔物だけでなく聖獣や魔導人形のような者も含まれており、多種多様な軍勢を形成しているのだから実に面白い。

 一体ずつ島に派遣されては、その浮島に居る魔物を倒す役割を果たしてもらう。
 今の俺にもっとも欠けているモノ──物量に任せて強引に滅ぼしているのだ。


『客人、次はどこだ』

「ああ、おそらくはこれが最後になるだろうな……あそこだ」

『なるほど、不可視化まで施して隠すような場所であったか』


 ハークに運搬されてすでに数十に近い浮島の魔物を滅ぼしたが、最後に感じ取った浮島は少しサイズが大きいように思えた。
 これまでの浮島の五割増しサイズ、雄大なデカさが俺たちの視界に……入っていない。

 周囲に結界が張られ、光を屈折させているのかそれとも単純に不可視にしているのか。
 とにかく俺とカナの瞳では認識できないよう、何かしらの細工が施されていた。

 まあ俺には精霊眼があるし、ハークも千の魔法の一つに看破系があるのだろう。
 互いにそこにある存在が分かるので、何も支障は無いんだけど。


「貴様に突破する術はあるか?」

『可能だ。だが、魔力が尽きかけるな』

「あの島に降り立てば問題なかろう。それよりも、早く支度をしろ」

「は、はい!」


 俺の命令なんて御免蒙るだろうが、主であるカナが俺に従っているのだから仕方なく結界を解除する準備を始めるハーク。
 凄まじい魔力が一気に消費されると、俺の通常状態の眼にも地の全貌が映し出される。


「──船、ですか?」

「ノアの方舟、といったところか。神々の厄災から逃れた生命が積まれている……いささか大きさが異常だがな」


 本来の方舟の大きさは、長さだけでも約十三メートルぐらいだったはず。
 しかし目の前に存在するそれは明らかにそれを上回り、少なく見積もっても一キロはあるのではないかという広大さである。


『乗り込むぞ──カナ、客人』

「お、お願い!」

「ああ、早く行け」


 舟の防衛システムでもあるのか、さまざまな魔物が現れてはハークに攻撃を仕掛ける。
 同時に砲台のような物も用意され、射撃までされる始末。

 俺たちは舟にある神殿っぽいアレの屋根部分に降ろされると、ハークは再び飛び立ち囮となって時間を稼ぐ。
 その隙を突いて潜入を果たしたのは──俺とカナ、そしてナースとコルナだ。


「カナ、すでに仕組みは理解していると思うが確認だ。浮島の目的はなんだ?」

「う、海のイベントと同じですよね? た、倒さないと特別なバフが付いているという」

「そうだ。順当な流れで行けば、あの場で闘う者たち以外にも役割を与えるために浮島が用意されているのだろう……だが、そう長く持ちはすまい」

「は、はい」


 残念なことに、プレイヤーの大半が大型レイドの方へ向かうだろう。
 一部の者は俺たちの行っていることに気づくだろうが、自分たちが島へ向かう術が無ければ対処は難しい。

 ──最初に負けイベントとして用意されているのだから、ある意味必然だけど。


「あとで怒られるぞ、姉に……」

「?」

「なんでもない。それよりもカナ、まだ闘える者は残っているのか?」

「だ、大丈夫です!」


 再び空間の歪みが生まれ、魔物が現れる。
 さすがに特殊な存在はもう尽きたみたいだが、それでも数の暴力という意味ではうじゃうじゃと用意できるようだ。

 そんな魔物たちが闘うのは、これまた舟の中に無限のごとく溢れた魔物たち。
 種類は多様で、ノアの方舟を体現するようにさまざまな種族が居るのだろう。

 神殿の屋根上でその争いを視ながら、今後の予定を話し合う。


「カナ、貴様はどうする。神殿の奥まで俺と共に来るか、それとも甲板で足止めをするかだ……好きな方を選べ」

「で、では足止めを。み、みんなとの連絡もしたいので」

「うむ、承知した。ナース、貴様は俺と共に最奥へ向かうぞ」

『おー!』


 バサリと外套をなびかせ向かおうとするが、カナにそれを止められる。


「あ、あの! こ、コルナも連れていってあげてください。そ、その方がわたしも状況が把握できますので」

「……そう、だったな。コルナよ、貴様も俺と共に来い。ナース一人では荷が重いかもしれんからな」

『わ、わかったわ!』

「こ、コルナを……お願いします」


 ペコリと頭を下げるカナ。
 どういった反応をすればいいか少し悩んだのだが、ポンッと頭に手を乗せてそのままスライドさせていく──ナースが。


「な、ナースちゃん?」

『けいやくしゃはさいきょー! だからー、ぜったいぜーったいだいじょうぶー!!』

「そう、だな。カナよ、すべて俺に任せておくがよい。死に戻りなどさせぬ、ノーミスでクリアしてやろうではないか!」


 どこかで観ているであろう者へ捧げる。
 ゲーマーは、初見クリアが好きなのだ。



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