AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント中盤戦 その14


 また前回のように誰かが俺とナースを襲う展開を予期していたが、幸い誰にも襲われることなくゆっくりとしていられた。
 いったん泉に預けたナースは不在、俺はまた一人ふらふらと彷徨い歩いている。


「たまのたまには、偽善らしい偽善をやってみようかなー」


 もちろん、俺は偽善者なので好きなときに好きなように善行をするんだけどな。
 ただ、眷属ができて少ーしだけ自重していたからそのセーブを外すわけだ。


「さて、そんなことを言っても困っている奴なんてそうそういない」


 当然であろう。
 運命の出会い、なんて評されるイベントはすべて主人公たちえらばれしものが掻っ攫っていく。
 残り物というか、通常ルートでは行えないようなイベントしか残っていない。

 そしてそれは、ひどくいびつなものが多い。
 ゲームバランスという概念が崩壊し、何をすればクリアなのかが明確に指定されていない苦行で悪行なイベント。


「けど、まあそれを勝手に救うのが偽善者のお役目だ」


 少なくとも、町でのイベントはプレイヤーが全部やっているだろう。
 なぜなら育成イベントでほとんどの奴らは町に居るし、育成する存在が居れば救われるべき者たちを救おうとする理由もできる。


「──なら、もっと遠くに」


 精霊、また長杖しか振るうことのできない今の俺はひどく弱い。
 面白いことのためなら一時的に縛りを解放することもできるが、可能な限り偽善のためならば束縛は解除しないでおく。


「風精霊、俺に“飛行フライ”を」


 名を与えずに住み心地のよい魔道具を貸し与えることで、仮初の契約を交わした風属性の精霊にこいねがい、今は使えない風魔法を発動させる。
 ふわりと軽くなった羽のような体は、すぐにでも上へ向かおうとした。


「その前に……“精霊探査サーチエレメンタル”」


 眼ではなく、魔力の流れを感じることで精霊を見つけることができるこの魔法。
 主用途である精霊の捜索のためではなく、副次効果となる魔力を感じ取る力を今回は行使する。


「……うわっ、えげつない」


 吸血鬼ティンス妖精オブリが俺を捕縛した記憶はかなり新しいし、断罪者ユウが俺に接触してきたことも覚えている。
 そう何度も逃げていれば、さすがに捜索網が展開される──ツンドラ少女アルカによる虫一匹通さない、巨大な鳥籠が空にできていた。

 ナースだけは先に“水鏡転陣ミラーポーター”で外へ出した俺だが、自分もいっしょにそこへ転移しなかったのは……おそらくこれを直感的に察していたからだろう。


「俺自身の転移無効、あとは網に触れたら即通達ってところか? まあ、ずいぶんと準備がされていることだ」


 光精霊と闇精霊が俺の体を隠してくれてはいるが、直接見られればすぐにバレる。
 空を使えるようにして、いつでも空中戦に対応できるようにしたのはそのためだ。


「偽善したいだけなんだが……アイツらの用事が分からない今、拘束されるのは厄介だ」


 もちろん、眷属として俺を捕まえたいのであれば望むところだが、たぶん違うだろう。
 イアに『増強の帯』を渡したが、もしかして全員分の用意が必要だったのだろうか? まあ、それぐらいなら容易いが。


「──天邪鬼ツンデレはいつだって、追われれば追われるほど逃げたくなるのです」


 自分がそうだとは思わないが、一般的な考え方で当て嵌めればそうなのだろう。
 どうにか策を巡らせ、この状況を打開しようとすること数秒。

 ついに、考えが浮かんだ──


「よし、全部ぶっ壊そう」


 完全で完璧ぜんのうな俺であれば、逆探知されることなく魔法を破壊することもバレずに潜り抜けることもできただろう。
 しかし今の俺では、魔法火力の権化アルカから逃れることはできない。

 発想の切り替えだ。
 すでに転移できることは他の奴らから伝言されているだろうし、破壊すれば印でも付いて追尾されるだろう。

 なので俺の選択は──


「“精霊召喚サモンエレメンタル”、“精霊召喚”…………」


 魔力の限りを尽くし精霊を召喚し、町の至る所へ展開させていく。

 いくらアルカとて、常に魔力を消費するのは嫌がったのだろう。
 一部を神杖の制御機能に任せ、半自動化させているのが天に張られた包囲網だ。


「(総員、指定された場所を攻撃せよ!)」


 俺から持っていった魔力を用いて、精霊たちがいっせいに網へ攻撃を行う。
 町の結界が異常に備える一歩手前、ギリギリの魔力を使わせての破壊工作である。


「まあ、これでも壊れないんだ。アルカってだいぶ人外に足を踏み入れたよな」


 天を覆い尽くす鳥籠は、決して壊れることも歪むことも無かった。
 魔力を受けて少しばかり揺れたが、それでも機能し続けている。


「けど、これで準備は整った──さぁ、一仕事してもらうぞ」


 俺の下に残ったとある精霊を見て、一人ほくそ笑むのだった。



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