AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と育成イベント中盤戦 その08
「精霊、魔王だと……」
「何か問題でも?」
実際には『試練の魔王』なんだが……そちらの場合は撲滅イベントの件と結び付けられてしまうので、あえなく却下した。
実は意外と恩恵のある二つ名システム。
称号ともスキルとも別に、大衆からの偶像で力を得ることができるおまけ機能。
だがそんなものでも欲しくなるのが、絶賛縛りプレー中の偽善者様なのだ。
「魔王を騙る者など幾人も見てきた……が、どうやら貴様は本物のようだな」
何を根拠に言っているのか分からない。
黒尽くめな格好をした双剣使いは、大げさな身振りをしてから剣を抜く。
「このリヴェル、相手が魔王であるのならば不足は無い。全力で挑もうではないか」
「貴様自ら、挑むのか。今、この近くの町では魔物などを使役して競わせるという祭りが行われていたではないか」
「……おれのような一流の猛者ともなれば、相性の良いものが易々と見つからないのだ」
うん、どうせそんなことだろうとは想っていたが……小さな妖精でも探していたのか?
「妖精は自我を宿す。たしかに貴様では、使役することは難しいだろうな」
「そうそう、だからおれは……いや、一言も妖精を使役したいとは言ってなかろう!」
「まあよい。ならば貴様が勝てば、俺の持つ精霊を一体くれてやろう……上手くやれば、精霊が妖精へ進化するのだからな」
「なに!? それは本当か?」
無論、本当である。
精霊が通常ルートの進化を続けていた際、なんらかの理由で道を踏み外した結果が妖精になることが多い。
一番多いのは、欲に負けることだ。
その条件が緩和されるのは上級精霊から。
それ以前の精霊たちは、あまり無茶な願いなど抱かない方がいいのだ。
なお、ナースは俺の導きと魔法による維持があったので精霊で在り続けた。
そうでもなければ、虚空の力を見ただけで妖精になっていたかもしれないしな。
「どうした、仙なる者? やはり我欲は捨てきれなかったか」
「ぐっ……だが、貴様は言ったな。おれが勝てば精霊を与えると」
「魔王の名の元に誓おう。無論、こちら側で何を与えるのかは決めるがな。いちいち迷われては、溜まったものではない」
「…………いいだろう」
どうせこういう奴は、個体値だの性格だの個性だのを厳選するだろう。
そんなのを待っていては、いつまで拘束されるか分かったものではない。
予めこう告げておき、最初の一体で満足してもらわねば。
「ならばよし、精霊魔王らしく貴様の相手は精霊が努めさせてもらおう──現れよ」
『はーい!』
「その見た目……下級精霊? いや、だが魔力量がより強大だ。それに、鑑定も……まさか中級精霊なのか!?」
「ふっ、貴様がそう思うのであればそうなのだろうよ。だが、ただ貴様にはこのレベルで充分だと思ったことだけは伝えてやろう」
亀を倒したのがコイツであるならば、ナースが闘うべき相手なのだろう。
ふわふわと浮かぶナースからも、なんとなく闘いに向ける意志というものを感じ取れる気がするし……楽しみだな。
「では──始めよ!」
俺の掛け声を合図に、戦闘は始まった。
◆ □ ◆ □ ◆
──ただの中級精霊ではない。
始まって数秒でリヴェルはそう判断する。
ハンドボールほどの大きさの球体が小さく震えると、周囲に魔力で生成された雨のような弾丸が彼に向けられる。
『いっけー!』
密度が高すぎて、リヴェルはその予兆を読み取ることができなかった。
普段認識しようとする魔力のはるか高みすら凌駕する、理不尽とも呼べるほどに強大な力の奔流。
それらがたった一度の攻撃で、リヴェルの肉体を滅ぼそうと放たれたのだ。
「だが、おれは負けぬ!」
握り締めた二振りの剣には、それぞれ特別な力が宿っている。
発動された魔法と同じ、あるいは対となる属性を宿すことで攻撃を無効化することができる──『魔剣[ニュートライザー]』
外気や相手の力を自動的に吸収して持ち主の糧とする──『魔剣[アブソブレス]』
相殺に成功した魔法はすべてリヴェルの魔力として取り込むことが可能なため、あらゆる属性の力を操れるように彼はこれまで弛まぬ努力を続けてきた。
「そして、おれにはこの力がある。観ていろ魔王! そして、貴様の目にしかと焼き付けておけ──【即応反響】!!」
この力こそ、これまで数々の猛者たちを倒し続けたリヴェルだけが持つ能力。
固有スキルと呼ばれる力が、握り締めた二本の剣に宿る。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
超高速の剣戟によって、正確に魔法の核に剣を当てていく。
彼の持つ(瞬速剣術)は、力ではなく技を用いて敵を斬るための剣術だ。
同じか対となる属性を籠めなければ相殺できない[ニュートライザー]の代わりに、魔法の属性を[アブソブレス]が取り込むことでその条件を満たす。
一度目の接触以降は相殺に相殺を重ね、少しずつ敵の精霊が放った魔力を自身の糧として吸収し続ける。
雨のように感じた魔法の弾丸も、やがて晴れていく。
『うそー……』
驚いているようであったが、それはリヴェルも同様である。
それでもどうにか口にしてしまうことだけは抑え、精霊の元へ走り抜けた。
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