AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その16



『たいよーみたいにー、ひのでするー!』

「……ああ、そういうことか」


 突然の宣言に一瞬固まっていたが、ちゃんとその理由が分かったのですぐに戻る。
 張本人は無邪気に揺れているし、狙っていたわけではないな。

 日の出を見て、太陽の雄大さに気づいてしまったようだ。
 自分は球体のままなんだし、同じく球体でありながら万物を照らす太陽である──憧れになること間違いなしだろう。


「ナース。貴様は太陽にはなれない」

『えー!』

「貴様が目指したのは虚空の力、太陽になるにはそのすべてを捨て去る必要がある……何より、太陽は火と光属性だしな」


 陽光魔法を解析してみれば、本当にその二つで構築されていることが分かったので間違いない。
 つまり、せめてどっちかの属性が無ければ決して太陽の力を帯びた精霊になることは不可能ということだ。

 だが、諦めたくないらしく──


『ナースはこくーもたいよーもやるー!』

「こればかりは不可能だ。やることはできるが、なることはできない」

『?』

「……駄々をこねられても困る。いいか、分かりやすく説明してやる」


 なんだか期待しているのか、少しばかりキラキラした視線が来ている気がする。
 少々気が重いが、契約者としての義務でもあるのだろう。

 申請してダウンロードした光芒魔法で、この場に小さな太陽を生みだす。


『たいよー!』

「俺と居れば、これもできる」

『むむー!』

「適正やスキルが無くとも、俺の持つスキルならなんでも使える力があるのだ。貴様が俺のために働くのであれば、この力も貴様に貸し与えよう」


 これはなんだか釣っているみたいで、あんまりお勧めしたくはなかったんだが……すでにネロでやっているわけだし、今さらか。
 実際、ナースの瞳は最大級まで輝きを俺に見せているわけだし──


『けいやくしゃー、ナースがんばるー!!』

「そうか……ならば、まずは形を変えるところから励むのだな」

『おー!!』


 その威勢がどこまで続くのか……不規則に揺れ動く姿を見ながら、そう思った。





 浮遊島の探索をさっそく始めてみた。
 地上では見たことのない素材が溢れた、まさに天然の宝庫のようなフィールド。
 魔物が見つからないこの場所は、どうやら素材用の島だったようだ。


『けいやくしゃー?』

「まあ待て。たしかにこの島に一つだけ、魔物の反応があった。貴様の仕事は、ソイツとの戦闘となるだろう」


 この島の中で弱肉強食の生命ピラミッドが構築され、その魔物以外はすべて島から放逐されたのかもな。
 お蔭でレアな素材がたくさん生えた、こんな島ができたのだろう。


「先に素材を回収しておく。貴重な素材は金になり、娯楽のために使えるようになる。いずれ、そういったことも教えてやろう」

『んー?』

「これまで貴様には戦闘だけを教え、自然を見せることしかしてこなかった。だが、貴様が人と生活を共にするのであれば、そういったことを気にする必要があるのだ」

『おー?』


 眷属の中にも、一からそういった問題に取り組まなければいけない者が居た。
 それでもすぐに理解できていたのは、地頭がよかったからだろうな。


「そういったことは、いずれな。今は、目的地へ向かおう──“風歩行ウィンドウォーク”を」


 風精霊の魔法を受け、加速した敏捷力で一気に島を駆けだす。
 ふわふわと飛ぶナースも、いっしょに魔法の対象に含めたので同じ速度で浮遊する。


『ふぉー!』

「島の中央に居るであろう魔物を、貴様独りで倒すのだ。分かっているな?」

『おー!』


 本当、返事は立派なんだよな。
 ハイテンションなのか、激しく振動する球体を見ながら少しため息を吐いた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 森の中央には水が張っており、その中を漂うようにして一匹の魔物が居た。
 水精霊に頼んでレンズを作ってもらい、それを覗いてみると──


「あれは……亀、だな」

『かめー?』

「背中に背負った甲羅という物の中に、自分の首や手足を仕舞うことができる生き物だ。甲羅は堅く、攻撃を通しづらい。柔らかい部分を狙おうとしても、引っ込んで再生する厄介な魔物だな」

『かめー』


 鑑定眼が使えないので詳細は調べられないが、魔物としての亀の特徴を挙げるのであればこんな感じだろう。
 某RPGでは穴から火を噴いて空を飛ぶ、なんて奴もいるが……大丈夫だよな?


『だいじょーぶー、こくーがあるー!』

「……だと、良いがな」

『んー?』

「いや、一度やってみろ。なんでも試してみなければ分からないものだ」


 幸い、例の亀は俺たちに気づかずのんびりと甲羅を日に当てている。
 今のナースであれば、虚空の属性魔力を練り上げていてもバレることはないだろう。

 魔力が生成される間、周囲を漂う魔力の流れを確認していたが……ナースの巧妙が隠蔽が効いており、少なくとも今の俺にはナースが何をしているのか分からない。


『ちゃーじかんりょー!』

「よし、貴様のタイミングで発射し」

『──はっしゃー!』


 俺の言葉を遮って放たれた魔力は、ナース同様球体の形をしたまま物凄い勢いで亀の元へ飛んでいく。
 そして、その速度のまま亀にぶつかり──


『……えっ?』


 逆に、ナースの元へ跳ね返ってきた。



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