AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その10



 いろいろとあったが、ちゃんと通常進化を選択した。
 だが、俺たちは少し揉めていた。


「ナーラ、貴様という奴は……」

『えへへー』


 おめでとう! 中級精霊 は 上級精霊 へ進化した!

 そこはいい、だが問題があった。
 ──姿、球体のままなんだよね。


「未だかつて、球体を維持したまま上級精霊へ到達した者などおらんぞ。調べた限り、球体以外の形も選べる、流動する形を選んだ者であればいるらしいが……ナーラ、貴様はそれすらもしてないのだろう?」

『えへへへ~』

「まあ、それでも構わない。だが、次は絶対に形を選んでおくのだぞ」

『はーい!』


 まあ、さっきと違ってちゃんと機嫌よく返事をしているから良しとしよう。
 目標であった上級精霊には、ちゃんと到達したわけだし。


「さて、ここからが大切な話だ。しっかりと聴いておけよ」

『むむー!』

「上級精霊に達した精霊は、本来そこで限界となり進化することはない。だが、貴様は俺に導かれている。それにより、確実にもう一段階先へ進むことができる……そして、そこに必ず虚空属性は存在する」

『おおー!』


 残念なことに未来眼を使うことはできないが、それでも確証があるので言っておく。

 導士がナースを導く今、望むべき道とその導士さえ合えば確実に進化先に虚空属性は出現する。
 まあ、結局進化はこのままじゃできないんだけどな。


「精霊王……は無理だとしても、聖霊へ至ることができれば虚空属性など容易い。だがしかし、聖霊はそう簡単になれるものではないと知っておけ」

『お、おー』

「莫大な経験値……は、すぐに満たすことができる。だが、虚空属性への適性がまた完璧ではない。せめて──これぐらいはできておかねば、道は険しいだろうな」


 再度得た許可を元に、虚空魔法を行使して空に向けて放つ。
 上空で花火のように炸裂すると、流星のように辺りに散らばり……地面着く直前で、再び宙に浮かぶと俺の元へ集まる。


『けいやくしゃー、すごーい!』

「ふっふっふ、当然であろう! 俺は貴様の契約者、並大抵の者など塵芥に等しい!!」

『ちりあくたー!』

「塵あく……ゴホンッ。ま、まあ、とにかくだ。あれぐらいのことができねば、真の意味で虚空を司りし聖霊と成ることはできぬ。精進するのだな」


 再びイイ返事をするナーラに頷き、洞穴から出る……あっ、ドラゴンのことを説明するの忘れてたな。

 たしかに亜竜ではなかったんだが、結構小さな子竜だった。
 そりゃあこれは育成イベントだったし、仕方ないとも後で思ったさ──目的である称号は、ちゃんと獲得しているだろうし。


『けいやくしゃー、どこいくのー?』

「そうだな……聖霊という存在は、先の二つが満たされてもそう簡単になれるものではないという。虚空属性の適性を上げる時に行ったアレと同じように、聖霊魔法を行使して貴様に流してみようか」

『アレをやるー?』


 複雑そうな声を出すナース。
 どうしてそんな風に思うかは知らないが、最短で頂に着くためにも我慢してもらおう。


「いいからやるぞ、受け入れろ」

『……あーい』


 魔力を変換・選別した純粋な状態で整えてナースへ少しずつ注いでいく。
 量に変化が入る度に、ナースがビクビクと震えるが……許容範囲内でやっているこの作業に、何か問題でもあるのだろうか?


『……く、ぅー……』

「俺のすべてを受け入れろ、ナース。貴様は俺の契約者、守り守られる存在だ」

『……けい、やく、しゃー?』


 精霊に聖霊の力を注いだのが拙かったのだろうか、とても苦しそうな反応を起こす。
 すぐに精霊魔法のリストを脳内に浮かべ、こういった際に使える魔法を探す……が、聖霊自体の安定に関係する魔法は存在しない。


「強くイメージしろ、理想の姿を。進化とは別だが、想念が貴様を強くする」

『む、むぅ……』

「虚空の力、聖霊の力。二つを己が物としたとき、貴様は何をする。ナーラ、力は力でしかない。大切なのは、貴様がそれを得てどうしたいかだ」

『むむ、むむむぅ……』


 だから言葉で、内面を高めナーラ自身にどうにかさせることにした。
 唸り続けるナーラをどうすることもできないし、これ以上はイメージの邪魔ということで口を閉じ、注ぐ作業に集中する。

 虚空魔法と聖霊魔法、それらを反発させることなく注入するのは結構辛い。
 虚空の力をナーラが循環させる魔力回路の中へ、聖霊の力をナーラという存在そのものに籠めていく。


『……う、うぅぅ……』


 時折苦悶する声が上がるのだが、それでも俺の手は止まらない。
 というか、一度やってしまうと途中で中断した方が危険になってしまう。
 すでに生成は止めたが、それでも今生みだした分はどうにか満たした方がよい。


『け、けいやくしゃ~』

「耐えろ。すぐに終わる」

『うぅ……わかったー』


 球体なのに感情が豊かだなー。
 一つとして怒りの感情が伝わってこないのは、隠しているのか我慢しているのか……少しだけ羞恥があるのは謎だが、苦しむ姿を見せたくないということだろう。

 上級精霊として初心な状態で注ぎ込んだ二つの力、これらがナースにどういった反応を齎すのか……今から楽しみだよ。



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