AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と超巨大鮫



 カルモ海

 その日、自由民のみを乗せた艦隊が一点を目指して海原を進んでいた。
 そのすべてに大砲や攻撃用の魔道具が積み込まれ、乗船する者たちの表情も少しばかり厳しいものとなっている。

「艦長、状況は?」

「ハッ、ドナード様! 準備は万端、あとはメルス様の指示を待つだけです」

「そうか……メルスはすでに、配置に着いているのか?」

「ええ、連絡を受けています」

 ちょうどそのタイミングで、無線の魔道具に連絡が再度送られる。
 ドナードはそれを持つと、その先に居る者と連絡を行う。

「こちら一番艦、状況は?」

『……ああ、ドナードさんですね。間もなく零番艦が、目的地にそろそろ着きます。少し前にカウントしますので、そうしたらいっせいに撃ってください』

「了解した」

 無線機を戻すと、別の無線機を使って艦隊すべてに今の状況を伝える。

「こちら一番艦のドナードだ。全員、砲撃準備を整えて待機──始まるぞ」

 すべての艦隊から『砲撃準備!』と叫ぶ声が聞こえ始める。
 零番艦に乗る者がある儀式を行うことで、彼らは戦いを行うことになる。

 ──エリアボス。
 領域の守護者にして、神によって強化された異常成長を遂げた魔物。
 本来であれば、同じく神によってこの世界へ送られた祈念者プレイヤーが倒すべき存在。

「この戦いは、私たちが祈念者を超える証明にもなる。彼らにも悪意はないが、いずれ魔物が解き放たれるとなれば……黙って見過ごすわけにはいかない」

 緊張感が張り詰める。
 いくらそうした建前があっても、相手はその祈念者が倒せないような強大な存在。
 さまざまな目的のために集った彼らの中には、本当に勝てるかと不安に思う者もいる。

「だが、私も負ける戦いに見す見すついては来ない。この戦いには、絶対に勝利することができる要因があるからだ」

 しかし、ドナードは確信していた。

 魔物など恐れるに足らず。
 もともとサルワスの民は、強大な海の魔物たちとも戦うだけの力を持っている。
 少しばかり強い魔物であろうと……信頼できる彼らが居れば、倒すことができるとも。

『あ、あーもしもし? こちら零番艦、間もなく封印の解除が終わります。各自、出現時の波に気をつけてください』

「我らはサルワスに住まう者。これまでもこれからも、我らは我らの力で苦難困難を乗り越えるべきだ──さぁ、開戦だ! 全員どこかにしがみ付け」

『えっと……よいしょっと』

 軽い口調で封印は解き放たれ、一帯の海が激しく揺れ始める。
 この場に居る者たちは強く柱や手摺に捕まり、波打つ海が静まるのを待つ。





 そして男は、その最前線に居た。
 白と黒の銃をホルダーに収め、自前の船から浮かび上がる魔物を視界に入れる。

「ふむふむ、テラロドンって……なんだか名前が安直すぎないか?」

 巨大すぎる肉体、動かすごとに渦を生みだすヒレ、あらゆるを噛み砕く鋭い歯、殺意に満ちた瞳。
 削ぎ落すことに特化した鮫肌を持つその魔物は、男によって『テラロドン』という種族だと判明する。

 テラロドンはゆっくりと、自身の道を阻む船に向けて進む。
 魔物自身にとってはゆっくりとした速度ではあるが……その巨大なヒレの推進力は、一掻きごとに確実に距離を詰めていく。

「たーらん……たーらん。たーらんたーらんたーらんたーらんたーらんたーらんたーらんたーらん──」

 途中から少しずつテンポと声調を上げ、緊迫と雰囲気を口遊む男。
 そして、その音がかなり高くなったその瞬間──テラロドンが海上から浮上する。

「回避、からの停止っと」

 二つの音が、遠くで見守っていた艦隊にまで響き渡った。

 一つはテラロドンが海から現れ、海に戻った際の着地音。
 ひどく重たい音と共に巨大な波が生まれるが、合図が来るまで何かに掴まっていた彼らの中に、海へ転落する者はいなかった。

 もう一つは何かが爆発する音。
 着地音に比べればとても小さな音であったが、不思議とその音は全員の耳に届いた。

「こちら零番船。準備は整った──さぁ、射撃大会の始まりです」

 海に潜ったはずのテラロドンは、なぜか海に漂っている。
 ──まるで体の動きを停められたように、ピクリとも反応を示さずに。

  ◆   □   ◆   □   ◆

≪カルモ海の『テラロドン』が討伐されました≫
≪ただいま、カルモ海のエリアボスが討伐されました。これにより、これからカルモ海に出てくるエリアボスの強さは、通常通りとなります。皆様奮ってご参加ください≫

《初討伐称号『シャークスレイヤー』を入手しました》
《ソロ初討伐称号『シャークスレイヤー・ソロ』を入手しました》
《初討伐報酬『影喰いの鮫革軍靴』を入手しました》
《ソロ初討伐報酬『大判鮫』を入手しました》

 死んだように動かない鮫を眺めながら、俺とサルワスのお偉い方二人は話し合う。

「……メルス、我々は本当に必要だったのかな? 君だけでも倒せたんじゃないか?」

「ええ、当然です。皆様がいなければ、あの魔物の討伐はできなかったでしょう」

「動きを停める、とは言われてましたが……まさか死ぬまで動かなくなるとは誰も思いませんよ。さすが、新たなリーダーです」

「諦めてください」

 ──砲撃の嵐に抵抗することなく、テラロドンはただ茫然と浮かび続けた。
 そしてそれでお仕舞い……うん、簡単にできることである。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品