AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と新たな縛り



 天の箱庭


 あれからも水着祭りでフィーバーした。
 結局眷属全員の水着を見て、感想を見ることになったんだが……それはいいか。
 後日談であれば、今度はGMたちと遊んだりもしたが……これもまた、省いておこう。

 現在俺は、『月の乙女』のギルドハウスでまったりとしている。
 召喚されたので馳せ参じたが、まだやることが決まっていなかったらしい。


「メル、あれが貴方の基準なんですか?」

「んー、私はただ強くあってほしいと思っているだけだよ。ますたーたちにだって、守りたい物はあるでしょ? 私はみんながそれを守り抜けるように、手伝いをしただけだよ」

「それであの戦闘能力……正直、シガンがどうしてあそこまで行けたのか謎です」

「ハァ……。それは私の台詞セリフよ」


 まあ、チャルを倒せたことからもう番狂わせだったからな。
 あれ以来、なんだかチャルが特殊能力を開花させようと頑張り始めた。

 ……ここでシガンを殺したい、みたいなことを思わないのは周りの影響かな?


「シガンも~、プレイヤ~じゃ上の方~なのにね~。理不尽~ってヤツ~だったね~」

「うむ。そもそも、あのナックルやシャインですら一回戦敗退、シガンの勝利が偉業のように思えたな」

「リーダー、固有スキルをだいぶモノにしてるし、今なら最強を目指せるんじゃない?」

「……まあ、それもそこの埒外を除いての話だけど」


 シガンの【未来先撃】があらゆる行動に仕えるなら、それも可能だろう。
 だが今のままでは、あのツンドラ魔法狂いアルカ僕っ娘断罪者ユウに勝てない。

 能力値的な問題もあるが、何より格上との戦闘経験が圧倒的に異なる。
 時々眷属たちが情報収集の一環として模擬戦をしていくため、プレイヤーの眷属は基本的に人外へカテゴライズできてしまうのだ。


「ところでメル、どうしてわたしたちに決勝戦を見せてくれなかったんですか?」

「……ん、見てたんじゃないの?」

「二度目でしたので、アレが嘘の映像だったことぐらい分かります。隠したい何かが、あの試合にはあったのですか?」


 さすがに『寵愛礼装』や、眷属との分け御霊などを明かすわけにはいかなかったのだ。
 そのためプレイヤー全員に、あの試合の最中同じ幻覚を見てもらった。

 内容に関しては眷属たちに任せていたんだが……いったい、どんな内容を見せたのだろうか?


「まあ、ますたーたちが私と同じくらい強くなったら公開ってことで。特殊なスキルとかもあって、まだ教えたくなかったんだよ」


 途中で介入してノイズをかけたように、幻覚は視覚だけでなく聴覚にも施してあった。
 解説役が漏らした発言も、彼女たちの耳には届いていない。

 ……プレイヤーの中に、転生や転移を望む者がどれだけいるかが分からない今、その存在は公にしてはいけないと思うからな。



 しばらく話題は武闘会から離れなかったんだが、どうにか変えることに成功した。
 彼女たちにとっても、今後の活動に支障が出るものだったからだ。


「──そんなわけで、私は使用する武器と魔法の属性に制限をかけたからね。今のみんななら、私の力はそこまで必要ないだろうし、私なりに修業を始めるんだ」

「メルが修業って……これ以上強くなって、いったいどうする気ですか?」

「そう言われてもなー。特殊フィールドには縛りプレーが要求される場所もあるみたいだし、ただそのためだよ? ゲーマーとして、行ける場所には行っておかないと」


 理由の一つであり、後から考え付いた理由でもある。
 眷属が集めた情報によって、そうした縛りが存在するエリアがあることを知った。

 かつて一冊のみ発見された、童話クエストの媒介となる魔法のかかった本。
 さまざまなプレイヤーが散策しても、まだそれだけしか見つかっていないのだ……通常では目の届かない場所にあると考えた方が、確率は高いだろう。


「今はこの二丁の銃と、火属性しか使えないよ。燃やすことしかできないから、私を保険にしてクエストを受けるなら内容を考えて決めてね」


 まあ、グラとセイが宿っていた双銃だし、火魔法だけでも一般のプレイヤー以上の働きはできるんだけどな。
 こうして注意をしたわけだが……今の彼女たちであれば、だいたいの依頼はあっさりとこなせたか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 サルワス 冒険者ギルド


「──却下」

「いいじゃありませんか、一度くらい。別に減るものでもないじゃありませんか」

「減るんだよ! いろいろと! ますたーはいいんだよ、そんなに自慢できるものがあるから!」


 毎度のことながら、クラーレは衣服関連の仕事を選ぼうとする。
 今となっては半ばからかい目的なんだろうが、それでもこちらは全力で足掻く。


「……こちらからも文句が言いたくなりましたが、今は置いておきましょう。では、そうですね──これなんかどうですか?」

「えっと、『船の警備:優れた人材であれば階級は問わず』……なんだか怪しくない?」

「怪しいのであれば、その証拠を見つけて裁けばいいだけです。それに、この依頼はすでに他のプレイヤーも受けています……やってみませんか?」


 あくまで必要なのは彼女たちの意思。
 後ろを振り返って確認してみれば、全員同じように首を縦に振っている。
 ──どうやら、次は船旅のようだ。



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