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山田 武

偽善者と四回戦最終試合 その08



≪──ここまでメルス様が攻撃し、それをソウ選手が無効化するというやり取りが続いていますが……凄く続きますね≫

我が王マイロードとて、ソウ嬢との闘いでは苦戦をしいるということです。映像で見た通り、ただ龍として無造作に振るった前足の一つで一騎当千の力を発揮するのですから≫

 薔薇が光るたび、メルスが握る武具が同じ色の光を放つ。
 龍の瞳でそのすべてを捉え、対処するソウの姿はまさに武人である。

 死闘を繰り広げた頃とは違い、今のソウには人の知恵と技術が存在した。
 メルスが何を狙い、どのような行動を取っているのかを把握し、油断をせずに勝利を得ようとする。

 多様な武具を用い、その上でさまざまな魔法を行使することで変幻自在な戦闘を可能にするメルス……その手札の数は誰よりも多く存在し、縛りをかけられていない今では誰もそのすべてを見抜くことができない。

≪あの、メルス様の礼装って皆様の能力が使えるものなんですよね?≫

≪そうです。それはご説明しましたが……何かございましたか?≫

≪複数の眷属の方々の能力、その同時使用は可能なんですか? 先ほどから切り替えると色や装飾に変化は起きていますが、一度生まれたものは変わっていません≫

 ホウライが目を付けたのは、現在のメルスの礼装に今なお残るクエラムの力の残滓だ。
 メルスの姿を異形に変えたあらゆる動物的特徴は、薔薇を咲かせる茨として、現在も礼装に残っている。

 魂を切り替え使い分けているのならば、そのようなことはなく綺麗にリセットされるのでは? ホウライはそう考えていた。

≪……我が王が望んだのは──眷属と自身のみが結ばれるのではなく、眷属同士もまた複雑な絆を育むことです。その想いから創られた礼装もまた、魂を完璧な形で切り離して再接続するのではなく、小さな形でも存在を残すことを選んだのだと思われます≫

≪えっと、要するにメルス様がそうであることを望んだということですね?≫

≪はい。眷属同士が力を合わせることで、自身の力を凌駕するものを生みだす。我が王はそう考えております≫

 ソウが薔薇を直接破壊しようと動く。
 だがそれを阻むように、茨がうねると鋭い棘で迎撃する。
 茨は剣や動物を象った姿となっており、これまでに礼装に宿った魂の力が今も宿っていることが理解できた。

≪……それで、メルス様が使っている魔法はどんなものなんですか?≫

≪私は武具専門の解析能力しか持っていないので、推測でしかありませんが──≫

 ドゥルは語る……



 ソウは語る……


「──神代魔法、じゃろ」

「おっと、気づいたか」

 ドゥルとソウが同時に気づいた、薔薇が宿した魔法の力。
 あらゆる事象を武具やメルスに齎す──それは魔法自身が起こすのではなく、魔法が仲介となって起こすものだった。

「色はこっちで付けていたわけだが、やっぱりすぐにバレるか」

「主様。儂が神代魔法の存在に気づかぬとても思ったのか?」

「どうして?」

「……儂を殺した魔法のうち二つは、神代魔法だったではないか」

 あらゆる物を無に帰す虚無の力、異なる世界に干渉する次元の力。
 それらは神代魔法に属する魔法であり、ソウを殺した要因でもあった。

「神代において、いったいどんな使われ方をしていたか……一部の魔法は別だが、ほとんどが不明だからな。俺としては、ただ便利な魔法としか見てないんだ」

「神代の者たちも、主様のその言葉を聞けば悲しむじゃろうな」

「兵器だって、使う人が使えば平和に使えるだろう。木の枝一本だって、使う人が使えば戦争を引き起こせる。魔法だって、その気になれば生殺与奪を握るだけの力があるんだしさ、あんまりどうでもいいだろう」

 大切なのは、担い手がどうするか。
 与えられた生産の力でさまざまな物を生みだし、その大半に担い手として選ばれなかったメルスだからこそ言えることだ。

「それじゃあ一つ──“器想纏概ファンタスティックマジック”」

 メルスの周りに生まれた魔法の珠。
 すべてが異なる属性を司り、舞台に飛び散り目まぐるしく動いていく。

「俺の意思に関係なく、あらゆる角度から魔法がお前を襲う。魔法で試すのも、これが最後になるかもな──“暴虐嵐舞バーサークテンペスト”」

 近くに在った珠を手に取ると、ソウの周りに荒れ狂う嵐を生みだす。
 すぐさまソウは、自身の翼でそれを振り払う──が、メルスの次の行動はその間に済んでいた。

「薔薇たちもまた、勝手に魔法を使ってくれるんだろ? なら、これを使ってくれるってことだ」

 宝珠を薔薇に触れさせると、宝珠と同色に染まり魔力を放出する。
 魔法としては基本──球として解き放つというシンプルなものであったが、たしかに魔法を自動的に行使した。

「じゃが、儂にその程度の魔法は効かんよ」

 龍人状態となったソウの鱗は、あらゆる攻撃を防ぐ力を持つ。
 そのため並大抵の威力では、決してダメージを与えることができない。

 だがそれでも、メルスは笑う。

「だからこそ、神代魔法がサポートをするんじゃないか」

 二つの薔薇が呼応し、魔法を発動する。
 片方の薔薇が力を行使すると──球の数は倍々に増えていく。
 もう片方の薔薇が発動すると──球は一つに集まり、内包する魔力を高める。

「無効化にも限界はある。舐めた基本魔法でダメージを負えよ」

 そして、ソウの龍鱗の防御を超え──魔法が炸裂した。


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