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山田 武

偽善者と二回戦第一試合 その04



 運営側でも、メルスたちの戦闘を実況しようとしていた。

≪えっと、どうしてメルス様は魔力を温存して闘っていたんですか? なんだか、ああして聖剣をふんだんに使っている様子を見ると余裕があるように見えますが……≫

≪獣聖剣には回復阻害の効果があります。あれは、聖獣が獣人へ与えた祝福を持つ武具。狩りに必要なスキルはすべて籠められているそうです≫

≪弱らせることで、じわじわと狩りを行う獣もいますので。創造者クリエイターは、その阻害を超える回復量で傷を癒したため、魔力が激減していました≫

 獣聖剣は聖気を皮膚に定着させ、再生を拒む能力を持つ。
 それはまるで──牙を突き立て、流血を促す獣のように。

 メルスはその聖気を、魔力を過剰に注ぎ込むことで捻じ伏せる。
 そしてその対価として、一時的に魔力量が通常戦闘を維持する分だけしか無くなった。

≪ただ、メルスさんの身力自然回復量は凄まじいのですぐに回復しましたが≫

≪けれど足りません。ティル様を倒すには、まだ何もかも足りません≫

≪具体的には、何が足りないのでしょう?≫

 今も舞台の上では、さまざまな聖剣を使い分けてティルエと打ち合うメルスの姿を見ることができる。
 強化を重ねたことにより、軽傷を負うことは無くなった……が、反撃は未だに一度も行えていない。

 ──目まぐるしい勢いで変化する戦況に、ホウライは理解が追いつかなくなっていた。

≪一番大切なのは……魔力ですね≫

≪ハァ、魔力ですか≫

≪魔法にも、スキルにも、聖剣の能力を使うのにも、魔力が必要です。ティルさんは自身の身体強化と獣聖剣に使う分だけで充分ですが、メルスさんはもっとたくさんあります。回復量が多いと言っても、無数に持っている聖剣すべてを同時に使うというなら……いくらメルスさんでも足りません≫

≪──それよりも先に、代償として支払うダメージの方が多いと思われますが≫

 マシューがそういったそのとき、メルスはまた新たな聖剣を使用し始めた。

 炎の渦が大剣型の聖剣から生みだされ、逆立つように渦巻きティルエに襲いかかる。
 だが納剣した状態から抜剣し、凄まじい速度で斬撃を放ち──それを相殺する。

≪聖具は魔具と異なり適性を持たない者へ、継続ダメージを握るだけで与えます。故に選別も容易く行われ、魔具のように憑りつかれるような事案も起きません。……ですが、無理に我慢して振るい続ければ、それはそれで使用可能です。本来の性能を引きだすことはできませんが、聖気を誰でも使うことができます……理論上は≫

 次に取りだしたのは独特の形状をした、鉾にも似た古代の剣だ。
 主身となるその鉾状の剣身から、三本ずつ枝刃が伸びた──計七本の刃を持つ聖剣。

 魔力を籠めて振るわれたそれは、それぞれの剣身から幻影の斬撃が生まれ──無数の剣撃を同時に行う。

≪ああして便利に使われている聖剣ですが、本来は勇者や剣聖が龍を、魔人を、魔王を切り伏せる際に使われることの多い代物です。一本あるだけで、それは勇者に莫大な力を齎します。……では、どうしてそれが悪用されていないのか──≫

≪えっと、勇者にしか使えないからでは?≫

≪実際、目の前で創造者が使ってますよ?≫

 数による猛攻は一瞬で看破される。
 斬撃を増やしているのは、あくまで七支刀状の聖剣そのもの。

 獣聖剣に破邪の力を籠めてぶつけ、増えた幻影を払いのける。
 即座に幻影でカバーしていた死角へ詰め寄り、獣聖剣を振るう。

≪……いえ、ホウライ様のご指摘が正しいのです。勇者だけでなく、聖女や剣聖など聖具への適性を持つ者は居るにはいます。ですがそれ以外の者は使用しない……拒絶によるダメージを恐れるということも一つの理由ですが、もっともな理由は──先も挙げた膨大な量の魔力消費です≫

≪適正がある人だと大丈夫で、メルス様みたいに無い人だと多くなる……みたいなことですか?≫

≪そういうことです。たとえば教会で使われるような聖具、聖職者であれば一で使える物であっても……他の者は十や百の魔力を消費します。その聖職者であっても、聖剣などの聖具であれば消費は千や万。勇者級の聖人ならばそれを百や千まで職業の補正で押さえ込むことができますが……そちらの場合、凡人は算出するのもおこがましい桁数の魔力を一度に消費します≫

 要するに──格が高い聖具であればあるほど、魔力消費が激しい。
 そして聖剣級の聖具は決して適性を持たぬ者に使えぬよう、尋常ではない魔力を発動に要求した。



「そんなに聖剣をふんだんに使って……体が持つの?」

「……誤魔化せないか」

 一方のメルスとティルエ。
 再度近寄り剣戟を行いながら、そうした会話を行っている。

 あらゆるものを見通すティルエには、聖剣の拒否反応で体が自壊するメルスの惨状が詳細に視えていた。
 循環する魔力の流れはズタボロ、そこから漏れた魔力が暴れて肉体は内側から破壊されている。

「<物質再成>で肉体を戻しているけど、それはそれで魔力を使っているでしょ。……馬鹿なんだから」

「馬鹿とは失礼な。俺だって因子を使えば、ちゃんと適性も取り込めるんだぞ!」

「けどそれをやらない。ちゃんと説明できる理由があるんでしょうね」

 聖人としての因子は、かつてネロに使役されていたアンデッドの英雄たち──アマルとその仲間を蘇生した際に偶然手に入れた。
 他にも聖性を持つ種族の因子を集め、何が聖具に対する適性を高めるかの研究もすでにほぼ完成している。

 そして完成した聖気因子であるが……メルスはそれを使おうとしなかった。

「だから、俺は剣聖を超えたいんだって。同じ土俵に立って勝てるわけでもないんだし、俺は俺なりにやってるだけだよ」

「ふーん……まあいいわ。なら、そろそろ準備は整ったわよね?」

「……これもバレてるのか。やれやれ、未来視は本当に恐ろしい」

「いいえ、これは未来視じゃないわよ」

 首を傾げるメルス。
 ならばいったいなんなのか、そう促しているのがティルエには理解できた。

「──女の勘よ。それも、どうしようもない男につきあってきたね」


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