AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と二回戦第一試合 その02



 黄金の聖剣と白い獣聖剣がぶつかり合う。
 互いに火花のように剣圧が散らされ、バチバチと雷のように舞台へ降り注ぐ。

≪凄まじい闘いです! なんだか剣だけの闘いであれば、これが決勝戦ですよ!≫

≪ティルさんは剣だけに特化してますし、こういう闘いにしかならないんですよね≫

≪創造者は最初、転移眼での回避を目論んでいましたが……今回のルールによってそれが防がれていました。やはり、縛りが戦闘に影響を及ぼしています≫

 実況たちもその様子を観て、詳細を観客たちへ伝えていく。
 特に大切なのは、ルーレットによるランダムで決められた特殊ルール。

 今回選ばれた転移禁止によって、緊急回避の手段が封じられたメルス。
 すると一撃必殺の剣撃への対処法は、かなり減ってしまうわけで……。

≪転移系の能力、ということですが……普通転移の能力は一つあるだけでも、優遇される存在ですよね?≫

≪はい。魔人族の中でも空間属性の能力保持者は珍しく、主に軍事目的で重用されることが多かったですよ≫

≪開発者は……あっ、言わなくて結構です≫

≪なんですか、その『あ』って、わ、私だって空間魔法は使えるんですよ!≫

 その言葉こそ、マシューが口を噤んだ理由でもあったのだが……若干興奮気味のリュシルには、気づくことができない。

≪あ、あの軍人、何が『学者風情が、我々の崇高な勅命の邪魔をするな!』ですか! 私が少し軍機を読もうとしただけなのに……あの人、目が厭らしかったんですよ! メルスさん、慰めてくださいよ!!≫

≪開発者、落ち着いてください。それは過去のことですし、創造者は現在ティル様と剣の頂を決める闘いをしていますので……それはまた、別の時間に≫

≪そ、それより皆さん! 舞台の上にご注目ください!≫

 舞台の上では、未だ剣戟が続いている。
 舞い踊るように剣がぶつかり合い、ウィーとの試合で見せたような、剣による音楽が奏でられている。

≪メルス様とティルエ選手、剣の実力にどれくらい差があるんですかね?≫

≪圧倒的ですよ。創造者は他者を真似ることで腕を磨いてきています。剣技に関してもそう、そしてその基礎となっているのはティル様の剣技です≫

≪私たち眷属も、いつからか色んな武器を使えるように鍛えていますけど……剣だけは絶対にティルさんに敵わない、そうみんな認めています≫

 眷属の中には、武の覇者や摸倣に特化した戦狂いなども存在する。
 だがそんな者たちであろうと、ティルエの技量を超えることができないでいる。

 ──剣を愛し、剣に愛された剣の申し子。
 彼女を剣のみで倒すことは、かつて騙し討ちでメルスが成功しただけだ。

≪今回メルスさんは、剣の総量と性能で勝とうとしていますね。剣の腕では勝つことができませんので──質ではなく量、それも押し切れないほどの数で勝つつもりでしょう≫

≪ただ、それでどうにかなるティル様でもないでしょう……≫



 その言葉が伝わったかのように、舞台上でも変化が起きる。

「……マジ、かよ」

「転移がないと、メルスの剣筋も読みやすいわよ。未来が視えるのは貴方だけじゃないのだし」

「ボイオティアの大山猫リンクス……」

「神眼より、性能は劣っているけど……軌道が読めればそれで充分よ」

 どんな物でも見透かす視線を、古代の人間は『ボイオティアの大山猫』と称した。
 そしてその獣人であるティルエには、伝承になぞられた瞳が宿っている。

 互いに未来を視る瞳を使い、剣と剣を交えてきた……が、ここで変化が起きる。
 軌道を読んで剣を振るっていたメルスだったが、突然軌道が予測できないほどに激増すると、視界を埋め尽くすまでに線が出現したのだ。

 とっさに未来眼の発動を止めたものの、それは彼女にとって絶好の隙となり──

「腕一本、貰ったわね」

 メルスの右腕は肩から切り落とされた。
 接着による再生を防ぐため、それはさらに細切れにされてしまう。

 だがメルスは、肩に左手を当てて──

「……“肉体復元レストレーション”」

「あら、残念」

「容赦なく利き腕を奪うかよ。それが主様にやることか……」

「腕を生やせる主様なんだから、全力で倒してあげるのが筋ってものでしょ?」

 即座に腕を復元したメルスではあるが、魔力の消費が著しかった。
 剣に籠める分の魔力保持もあるため、自然回復する魔力量を一時的に上回ってしまう。

「しばらくは先読みも無し、それで私から逃れられると?」

「そりゃあ、やってみないと分からないじゃないか──“虫ノ目インセクトアイ”」

 魔力燃費の良い魔術、そして反射眼を併用することに決めたメルス。
 先の先を読むのではなく、後の先を読むことで時間を稼ぐことを選んだのだ。

 そして剣を横に構え、武技を発動する。

「──“防剣ブレードガード”」

「……捌き切れるとでも?」

「できるかどうかじゃなくて、やるんだよ。ただティル、言っておくぞ……剣聖を超えられたら、なんかかっこよくね?」

 一瞬硬直するティル。
 メルスが何を言っているのか、頭で理解していても認識できない。

「……呆れたわね」

「けど、そう思わないか? 嵌め技で勝ったあのときと違って、今ならそう宣言してやるよ──世界最強の名の次は、剣聖の名も奪ってやるってな!」

「順番が逆じゃない。でも……それはとっても面白いわね」


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