AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と二回戦新ルール 後篇
≪──ルーレット、ですか? 開発者、それはいったいどういった内容なので?≫
≪映像パネルにご注目ください!≫
会場内や外に設置された、映像を投影するための装置に丸いパネルが表示される。
いくつかの色に分けて領域を裁断し、それぞれの別の内容の文字が記されていた。
≪試合ごとにルーレットを回し、止まった先に記されたルールがその試合だけで使われる特殊ルールとして反映されます≫
≪そのルーレットはどのように止めるのですか? 創造者であれば、目押しで好きな場所に止められますよ≫
≪そしてそれを、実況のホウライさんが押すのです……これがボタンです。それでは、よろしくお願いしますね≫
≪え、ええ!? わ、分かりました≫
唐突に試合の勝敗を変えるような代物を任せられ、戸惑うホウライ。
だが意識を前向きに切り替え、息を呑んでからそれを受け取った。
≪はい。これで新ルールに関する説明は終了です……マシュー、私ちゃんとできてた?≫
≪はい、開発者。貴女はしっかりと役割を果たしました。創造者も貴女を褒めようと叱ることはありません≫
≪ほ、本当に大丈夫かな……?≫
≪大丈夫ですよ──今この会話を、創造者も聞いていますので≫
≪え? あっ、スイッチを切り忘れ──!≫
締まらない終わり方であったが、こうしてリュシルとマシューによる説明が終わった。
マイクの主導はホウライに移り、前回同様の流れで進んでいく。
◆ □ ◆ □ ◆
そんな新ルールに関する放送を、俺も控え室で聴いていた。
「つまり、こういうことなのか……」
そしてそれを脳内で纏め、こう結論付けることにした──
・オーバーキルの禁止
・直接的な援護の禁止
・わくわくルーレット
バフやデバフを重ねれば一つ目は起きる。
黒や白の魔本を使えば二つ目は破れる。
三つ目は……ホウライ次第だよな、凶運だからどうなるか知らないけど。
「なあ、アン……聞いてるか?」
《はい。メルス様のことであれば、いつでもどこでも》
「そうか。ルーレットって、俺の指定したモノ以外にもルールが入ってるのか? モザイクのせいでちゃんと見えなかったんだが」
ルーレットのイメージ画像は、こちらでも確認できた。
だが文字には特殊な加工が入っていて、神の眼を以ってしても視ることできなかった。
《わたしもすべてを把握しているわけではありませんので。こうしてメルス様が呼びかけることは想定済みですので、携わった眷属の中で情報が細分化されています》
「見てのお楽しみか……本当にわくわくルーレットになりそうだな」
《次の試合では三割となるのですから、そう心配にならずとも……》
「相手がティルなのに、心配しないなんて選択肢は存在しない」
最強の剣士、次元を斬り裂く剣聖。
彼女の前にステータスなんて概念は関係なく、ただ斬れるか斬れないか、それだけだ。 ……無論、今のままでは斬られるな。
「そのうち、耐久度∞の武具だろうと破壊してきそうだよな。相手の方が格が上なら、そういう現象もありえるんだろう?」
《メルス様の世界の神話において、神が創ったアイテムが破壊されることが何度もありましたので。その神話が実在するならば、同様の現象がこちらでも起きます》
「本当、ある意味地球もファンタジーだな。そういう存在があったからこそ、神話は存在するし伝承が残っている。地球にログアウトできたら、調べ直す必要があるかな?」
《今の知識では、ただの厨二病程度の知識しかございませんからね》
……そうですよ、ただのモブにはそこまで伝説や神話の知識は無いんですよ。
いちおうの知識があるからこそ、パクりシリーズが存在するんだけどな。
「って、そうじゃない。ティルの聖剣は間違いなく使われる。アイツは聖剣の使用をここで封印されようと、間違いなく俺を仕留めにくるだろ? と、なると別の方法でこちらも策を整えなければならない……協力はさすがにアウトだが、助言を頼めるか?」
もっと言えば、思考の接続をして詠唱などの補助をしてもらいたいんだが……さすがにそれは最後の最後まで切り札として隠し持っておきたいからな(眷属にはバレバレなんだけど)。
《それぐらいであれば……お任せください》
「さて、聖剣を超える神剣を出すか。それとも数で圧倒するか……選択は多いな」
《そう仰れるのはメルス様だけですよ》
「触れたら負け。肉体自体は普通の獣人と同じだけど、その手に握る聖剣がティルという存在を異質にしている。いっそのこと、奪えれば勝てるのにな」
《間違いなく、禁止されますよ》
アイテム奪うだけで勝てるのは、ティルだけだからな。
他は自分で武具を生みだせるし、いくつか戦闘手段を増やす方法がある。
一方ティルには(手刀術)があるが、それ以外に剣を奪われた際に抵抗する手段は無い。
……まっ、聖剣を奪うのは特殊な保護も含めて、ほぼ不可能に近いけどな。
「さて、そろそろ試合の時間か……アン、お前は今回どうするんだ?」
《それは……内緒です》
「そっか、それなら仕方ない。じゃあ、どこかで観ていてくれよ」
《ふふっ、畏まりました》
念話は切れ、俺は独りになる。
誰も聞いていないことを確認してから、大きく深呼吸して覚悟を定めていく。
──さて、超えますか……剣聖を。
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