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山田 武

偽善者と一回戦第八試合 中篇



「“心身燃焦オーバーヒート”」

「……は?」

 フェニの発動した魔法により、全身が火を纏い焦がされていく。
 その様子を遠くから眺めるヴァーイは、一瞬何をしているのか理解できなかった。

「っ……! そういうことかよ!」

 だが、すぐに気づく。
 彼女は今回のルールによって、相手に傷つけられた場合はフェニックスの能力を行使することが禁じられている。

 しかし自傷であれば発動可能で、そこに詳細な縛りは課せられていない。

「“水槍ウォーターランス”!」

 とっさに手を構えて水の槍を放つ。
 少し多めに魔力を籠めた一撃だったが、それはフェニを包む炎に触れた途端──瞬時に気化してしまう。

「我の身力値すべてを燃やし、一時的に能力値を強化する魔法だ。ただの水で、この焔を消せるとは思わない方がいい」

「チッ……面倒なことしやがるぜ」

 舌打ちし、魔力を練り上げるヴァーイ。
 その間にもフェニは死と再生を繰り返し、自身の強化を図っている。


≪やはり、自傷行為も禁じた方が良かったのではないでしょうか?≫

≪それを決めるのは、観客の皆様です。そしてフェニ様の能力も、大会が進む毎にかなり必要なものとなります≫


 一概にフェニックスの性質を危険視する意見に対し、アンはそう返す。

≪えっと、どういうことでしょうか?≫

≪大会が進行すれば、眷属たちは本来の能力値を解放していきます。フェニ様はその能力から眷属でもかなり上位の強さを誇っていますが、それは主に能力値だけです≫

 眷属の本質は、世界から拒まれる程に特異な能力にある。

 例えを挙げるなら──アリィだ。
 彼女を相手に愚直な闘いを挑めば、どれだけ能力値が高かろうと勝ち目は無い。
 彼女の領域セカイでは単純な理は通用せず、一枚の札によって地を舐めさせられるだろう。


≪ですので、フェニ様は死を重ねることで強くならざる負えません。特殊な技を使う相手に、純粋な身体能力だけで勝利を掴む必要があります。観客の皆様も、寛大な評価をよろしくお願いします≫


 などと、アナウンスが告げている間も、彼らの闘いは続いている。

 文字通り命を燃やして闘うフェニは、その消費速度を加速させるために魔法を重ねて行使していた。
 炎が武具や動物をかたどり、ヴァーイに牙を立てて襲いかかる。

「──“水竜の息吹ウォータードラゴンブレス”!」

 ヴァーイは溜め込んだ魔力を口から解き放ち、そうした炎を一掃していく。
 急激な気化によって熱された蒸気が舞台に散布されるが、彼らは共に熱に対する耐性を有しているため気に留めない。

「我もそろそろ、お前に挑めるぐらいには能力値が向上しただろうか? 少し、試させてもらうぞ」

「……今の魔力で、消えると思ったんだけどな。どんだけ成長してやがる」

 背中から炎の翼を生やし、そこから火を噴かせて勢いよくヴァーイに迫る。
 翼闘術というスキルを持つフェニは、巧みに翼を操って剣を当てようとする。

「“炎斬バーニングスラッシュ”」

「くっ……“牙爪ファングクロー”!」

 猛烈な勢いで剣から炎が現れる。
 能力値が向上したフェニの一撃は、これまでよりも確実に勢いが増していた。

 すぐにそれを理解すると、ヴァーイは爪で受け止めるのではなく受け流すことを選ぶ、
 かつて喰った者が使っていた技術──剛を制する柔術というものを使用する。

「“流動粘体ソリッドボディ”、“不燃液体ファイアプルーフリキッド”」

 同時に、スライムを捕食した際に獲得した能力を行使する。

 耐火性を持つ液体を分泌し、皮膚に纏うように張り付かせていく。
 それによって万全とは言わずとも、一時的な肉弾戦を可能とした。

「炎を止めてやるよ──“砕魔波掌サイマハショウ”!」

「問題ないみたいだな……」

 ヴァーイはまた、別の者から喰らって得た武技を使って魔法を止めようとする。
 体内で精神エネルギーが気という形で練り上げられ、掌へ集中していく。

「行くぜ──“推跳歩スイチョウホ”」

「む?」

 地面を強く蹴ったヴァーイ。
 その衝撃は、舞台にズシンと重たい音を響かせる。
 そしてそのエネルギーは足を伝い、体内を暴れていく。

 彼はそれを上手く操り、再び脚へ誘導していき──ロケットのようにフェニへ跳ぶ。

「愚直だな──“紅焔閃光プロミネンスレイ”」

 そこへ向けられる炎の柱。
 もともと光の力を帯びて白く輝いていたその炎へ、剣から生まれた真っ黒な闇が纏わりついて二色が混ざり合う形となった。

 触れれば即死、決して逃れられることは違わぬ混沌の炎。

 だがヴァーイは諦めない。
 竜の心臓が鼓動を刻むたびに魔力を増幅させ、準備を整えていた。

「──“贖罪山羊の代身人形スケープゴートドール”」

 魔力を解き放つと、勢いよく進むヴァーイの前に山羊の人形が現れる。
 山羊は小さく鳴くと、炎の前にヴァーイよりも先に突っ込んでいく。

「とっておきの隠し技だ! 悪いがそれは無効化させてもらうぜ!」

 山羊は荒れ狂う魔力の中で、掻き込むように炎を吸い込もうと息を吸う。
 膨大だった魔力の奔流は、そのすべてがそこへ呑み込まれていった。

 そして、彼らを遮るものは無くなる。

「終わりだ──“虎爪掌コソウショウ”!」

 フェニの首筋に、ヴァーイの鋭い爪が延ばされ──


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