AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と失政



 さて、第二試合が間もなく始まる。
 VIP席の一つが空けられていたため、俺はその席について会場を見下ろす。


「いやー、いっしょの席で試合を見ることになるとは……なあ、ジークさん」

「うむ。常々面白い男だとは思っていたが、まさかこのようなことまでするとはのぅ。多国を統べ、繋げる……まさに神の所業じゃ」

「はははっ、俺自身はただの凡人だろ。それはこれまでの苦悩を知っている、ジークさんが理解しているはずだ」


 運営の実験により造られた国を、俺が奪い統治し始めた場所──それがルーンの始まりだった。
 外のフィールドへ出る道は途中で閉じ、外部への移動は許されていない。

 空間魔法で領土を広げ、可能な限り不安などを取り除こうと励んではいたが……結局国民が求めていたことは、俺が考えていたこととは異なっていた。

 俺自身、上に立つことは無理だろうと確信したその出来事を経て……失敗したんだ。


「そうじゃがのぅ、人は反省を重ね成長を遂げる者だ。儂も長年生き、お主と同じように失敗をしてきた。先代の王は儂の失敗を、いつも補ってくれた。……儂もまた、お主が成長するためであれば、手伝いをいくらでもしよう」

「ありがたいけどな……それは、政治に悩む眷属たちにでもしてやってくれや。俺はもう疲れた。優秀な人材をスカウトすることだけに励んで、俺自身は偽善をするだけでいい」

「やれやれ、お主のその考えもどうかと思うがのぅ。お主を慕う者たちは、お主の求めた理想を手伝おうとしている。あの頃は皆に求めすぎたのだ、今の皆は……お主の理想を理解しているぞ」


 そう、結局は政策を詰めすぎたのだ。
 理想を追い求め、現実を捨て……最後には暴動擬きになってしまった。

 その頃は眷属のサポートも無く、当時まだ王であったジークさんに泣きついたものだ。
 それでどうにか怒りを抑えてもらい、大きく揉めることなく事態は休息した。


 だが今、再びそれを繰り返せと言う。
 眷属がいるので、たしかに政策自体は上手くいくだろう。
 ……俺がやる必要はないのだから。


「好きにするがよい。……どっちみち、お主が何もせずとも道は続く。我が愚息や可愛い孫たちは、お主の考えを理解しておるのだからな」

「……あの人たちか。俺の住んでた国は、だいぶ年月をかけてアレを生みだした。だから長期的に考えれば、あれは理想なんだ……俺のだけどな」


 パリの大改革でも再現しなければ、求めた幻想には届かなかった。
 けど、俺にはそれをするだけのカリスマは無く、矛盾だらけで先の件を生んでしまう。

 未来の洗練された政治案は、王族たちのお眼鏡に叶ったようで。
 反省を活かそうと渡した資料を読み、彼らはそれを実行しようとしていた。
 ジークさんが止めてくれたが、俺とは違って少しずつ実行するらしい。


「──さて、話を変えようかのぅ」

「急すぎるだろ」

「儂もお主も、この話に固執する理由は無かろう。それよりほれ、今はこの祭りを楽しもうではないか」

「……にしては、長く引っ張ってたな」

「──そこで耳を澄ます者たちのために、少し語っただけのことよ」


 驚いた拍子に、物とぶつかって音が鳴る。
 その発生源には、数人の子供たちがいた。


「お、お爺様……こ、これは……その……」
「ど、どうしても……聞きたくて……」

「気にするでない。儂もメルスも、過去を振り返っていただけじゃ」


 彼らは、先ほど挙げた王族のうち、孫にあたる者たちである。
 金色の髪を持つ短髪の少年と長髪の少女。
 二人こそが、次期ルーン国を担う王子と王女なのだ。


「お前らも座っておけよ。試合が始まるってのに、立っているのもあれだろう」

「は、はい」
「分かり……ました」


 少年少女は俺たちの言葉を聞き、少し小さめに造られた椅子に座る。
 それを見て、俺は指を鳴らす。


「ほら、美味しいお菓子と飲み物だ。とりあえず、これで心を満たしときな」

「うわー! ありがとう!」
「感謝します!」


 オドオドした雰囲気も、飲食物を見せればすぐに嬉しそうなものへ変わる。
 礼儀正しくそれらを手に取ると、口に含み幸せそうな顔を見せてくれた。


「むぅ……儂も料理を始めようかのぅ」

「孫の扱いで負けたからって、老後にやることを決めるんじゃない。ジークさんにはジークさんの持ち味があるわけで、料理に固執する理由はないだろう」

「……じゃが、目の前の景色を見るとのぅ」


 うん、とても幸福を感じているな。
 虫歯にならないよう、キシリトールを使っているのだが……それでも問題ないようだ。

 生産神の加護持ちが作った、確実に虫歯にならない甘いお菓子たち──とあるギルドの乙女たちも絶賛しているぞ。


≪──お待たせしました! 第一回戦第二試合開始時間となりました! 皆さん、ちゃんとトイレは済ませましたか? 見逃してはチケットを買った意味が無くなっちゃうぞ!≫


 アナウンスが鳴り、開始を告げる。
 俺たちは体重を椅子へ委ね、アナウンスを聞いていく。


≪第二試合を闘うのは、ティルエ選手とアーチ選手! 果たして勝利を得るのは、どちらなのだろうか!≫


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