AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と初心者殺し 中篇
◆ □ ◆ □ ◆
メル(ス)が見守る中、『初心者殺し』と呼ばれる魔物と『月の乙女』たちが戦闘を繰り広げていく。
はっきりと戦況を捉えることができていたのは、すべてを視ることができるメル(ス)しかいない。
──彼女たちには、『初心者殺し』が見えていなかったからだ。
「とりあえず、ここに居るって確証が取れただけでも僥倖ね。あとはそれを燻しだせばいいんだし……■■■■──“煙幕”」
剣の柄を握り締め、魔法を発動させるリーダーのシガン。
辺り一帯にモクモクと煙が立ち込めると、薄ら空気の流れを可視化させていく。
「……見えませんね。煙のある辺りに魔物が居るわけじゃないんでしょうか」
「あるいは、それすらも誤魔化せるスキルを持っているとか。メルの視線から、なんとなく予想したんだけど……」
魔力の消費を抑えるためにも、最低限の魔力消費のみで発動させた“煙幕”。
彼女たちの足元までしか煙が漂っていないわけだが、魔物が地に足を付けているなら、それでも位置が特定できるはずだった。
「あははは、ノールックパスは基本だよー」
後ろで傍観するメル(ス)は、あっさりとその情報を伝える。
彼あるいは彼女の目的は『初心者殺し』を殺させること、言葉だけであれば協力を惜しむことはない。
相手が森のどこかに潜む可能性に、眉をしかめるシガン。
「となると、もう少し派手にした方がいいかしら──プーチ」
「は~い……■■■■──“豪烈深雪”」
呼ばれた少女が杖を振るい、辺りの環境に変化を及ぼす。
すぐに淡い雪がしんしんと降っていったのだが、やがて勢いを増して苛烈なものへ変化していく。
「見つけたぞ!」
「ふーん、あれね。ノエル、イケる?」
「まずは調べないとね──“影分身之術”」
降り積もる雪の中、何もない場所で雪が山なりに積もっていく。
それを見つけた彼女たちは、すぐさま行動へ移る。
「「「「“紫電閃光之術”!」」」」
忍の少女は分身を数体作り、雷を放つ。
紫色の光線は、たしかに雪の積もる場所へ飛んでいき──雪を突き抜ける。
「……魔法の透過能力? いや、そもそもあそこにはいないってことね。どうやって積もらせたのかしら?」
「ねぇねぇ、どうすればいいの? 魔法なら破壊するよ!」
「スキルか種族の性質ね。魔法ならクラーレが感知しているはずよ」
「はい。プーチの魔力以外の反応は、感じ取れませんね」
戦闘の最中、クラーレは常に索敵を行っていたが……いっさいの反応を感じられない。
「メル、これだけは教えてください」
「ん? なんでも訊いていいよ」
「──勝つ方法はありますか?」
「うん、手順を踏めば簡単にねー」
いっさい攻撃が効いていないこの状況であろうと、メル(ス)はそう答える。
「あくまで、相手は『初心者殺し』だから。初心者の域を脱していれば、ちゃんと倒せるはずだよ」
「……充分です。ありがとうございます」
「ますたーの役に立てたなら、光栄だよ」
『初心者殺し』は、あくまで初心者の実力に合わせた能力を有している。
ある程度経験を積んだプレイヤーならば、乗り越える術を手に入れるからだ。
だが、ヒントでも無いヒントを聞いただけでは何も始めることができない。
確かめるように、何度も実験を行う。
スキルや魔法での攻撃は当然のこと、アイテムでの攻撃なども試してみる。
「……どれも違いますね」
「攻撃技で攻撃をするのじゃないのかもしれないわ。アンデッドが回復魔法でダメージを負うように、別の手段でまず発覚。次に別の方法でやればさらにダメージを……みたいな感じで、段階を踏みましょう」
「回復魔法は通じませんでしたし……そうですね、状態異常がヒントかもしれません」
クラーレはそう考えると、盾役のディオンに作戦を伝える。
「……大丈夫、なのか?」
「本当に危ないなら、そこで暇をしている変態がどうにかしますよ」
「……それもそうか」
遠くでクレームが聞こえてくるが気にせず動き、ディオンはどこから来るかも分からない攻撃に備える。
「──ぐっ、来たぞ」
すぐに『初心者殺し』の攻撃を受け、ディオンは状態異常に罹る。
受けたのは『武技使用不可』と『石化』。
クラーレはそれを見ると、すぐに魔法を発動させる。
「石化だけですが──“範囲・解石化”」
辺り一帯を対象にした、超広範囲で状態異常を快復させた。
ディオンの石化は淡い光と共に治され、体は思うように動く。
『GUGAAAAAAAAA!』
「居ましたね!」
すると、どこからともなく猛獣の叫び声のようなものが聞こえてくる。
傷だらけの体に塩を塗られたような、強烈な痛みに悲鳴を上げた──『初心者殺し』。
「……一定時間、自分が相手に与えた状態異常と同じ状態異常を回復する動作でなければダメージを受けないといったところね。だけど、一度種が分かればこっちのものよ」
彼女たちが視線を向ける先には──これまで見えていなかった『初心者殺し』の実体があった。
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