AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と制御修行 後篇
「──モグモグタイムは終了かな?」
燃費が悪い、俺の思考のみを用いた平行思考詠唱による魔法の発動。
<千思万考>や細胞強化に頼ることなく発動したそれは、ひどく頭脳を疲労させた。
極甘スイーツはそれを解決するために用意した秘策、脳内を活性化させて再度発動可能な状態へ引き戻す。
「これが本当の脳トレってヤツだ。ふっふっふ……これであの天才どもに、少しは追いつけるかもしれない」
俺が使えば<千思万考>は、千倍か万倍ぐらいの思考速度を齎してくれるだろう。
だが、眷属が使えば……絶対にそれ以上の恩恵をあやかること間違いなしだ。
掛け算ってのは、掛ける数値が大きければ大きい程答えも大きくなるモノだ。
スペック一の俺がどう使おうと、それは乗数の値とまったく同じになるだけである。
だがもし、被乗数である俺のスペックを成長させられたなら──間違いなく、思考速度は向上するだろう。
「と、いうわけで修業しているわけなんだがな……少し足りない。アルカ、【思考詠唱】の先輩としていい方法はないか?」
「特に無いわよ」
先輩が冷たいです。
質問した途端一蹴され、俺の心にもひどい脚撃が入った気がする。
しかしまあ、ちゃんと理由があって──
「自分で言うのもあれだけど、人より回転速度が速いのよ。教科書とかも配られたときに目を通せば全部理解できるし、いつでも正確に引き出すことができるわ」
「……何、そのチートスペック。地球って私たちの知らない間にそんな強者が集まるような惑星になってたの? ますたー、怖いよ」
「これはさすがに、わたしも驚きです……居るんですね、本物って」
俺とクラーレは、二人でありうる事実に怯えてガクガクしてしまう。
もしかしたら、地球という場所は俺たちが知っている以上にファンタジーが混ざっている場所なのかもしれない。
錬金術や陰陽道、気功や仙人などたくさんヒントは存在していた。
そのなかでは、IQが200なんて軽く超えていそうな天才なんて当たり前のようにゴロゴロしているのかもしれない。
……俺、もしかしたら地球の中ではモブにも達せていないんじゃないかな?
閑話休題
「それで、精密制御の方はどうなった?」
「あ、はい。固有スキルも含めて、魔力の消費が緩和されました。痛みの方も、少し和らいでいましたよ」
「そっか。なら頼んだ甲斐があったよ……命懸けで」
会って爆発、話して爆撃、交渉終えて爆裂の嵐を受けまくった。
それでも必死に説明し、クラーレを救うことに協力してもらったわけだ。
「あともう少し、ってところね。それ以上は私には無理。自分の本当の眷属にでも、お願いしたらどう?」
「あそこに頼むと、もう人外の域に逝っちゃうからな。あくまで人であるアルカに、今回は頼んだんだよ」
「……まだ、足りないのね……」
仕方ない、と言えば仕方ない。
アルカのハイスペックぶりが明らかとなったわけだが、あの程度のことであればうちの眷属たちは同時に何個か作業をしていても容易くこなしてしまう。
レベル……というか、次元が違うのだ。
「脳を弄り回して現実の体に影響が無いようなら、改良に協力してもいいんだけどな。さすがにアバターはともかく、脳はリンクしている気がして気が引ける……」
「遠慮しておくわ。私は、私の力だけでアンタを超える」
「眷属になってる時点で、あんまりその言葉に意味はないよな」
「……そっちは女を増やせば増やすほど強くなるんだから仕方ないじゃない。それじゃあいつまで経っても届かない、だってそもそも見ることすらできてないんだから」
まあ、この意見も理解できる。
{感情}を得る前の俺に、愛しき強者たちの存在などいっさい知ることなどできないということだ。
知った今では足掻き続けよう。
何度折れようと、何度砕かれようと、何度止められようと……抗いを独り続けていく。
──そこに救いたい者がいるとき、偽善者は最高に輝くのだから。
(なんて、妙に恥ずかしいな。甘すぎて脳みそがショートしたか? それともまたどれか暴走したのか。まあ、別に声に出したわけでもないし、今は放置で)
アルカは約束を果たし、クラーレに精密制御の術を与えてくれた。
そしてそれには条件があり、受け入れることは今定められる。
「──それじゃあ、始めるか」
「ええ。クラーレちゃんは見ててね。さっきは止めたけど、少し学べた今ならそういう到達点もあるって分かるはずだわ」
俺たちは<箱庭造り>で用意した壇上に上がり、互いに構える。
「数だけやっても足りない。質だけあっても足りない。なら、両方を極限まで上げれば倒せるわよね」
「俺なら、な。偽善者は無理だぞ」
ただのモブが俺、眷属からの恩恵すべてを解放した状態が偽善者だな。
モブならば、いつか倒せるプレイヤーが現れるだろう。
だが、偽善者としての俺を倒すと言うのであれば……全力を以って抗うとしよう。
「さぁさぁ、詠えよアルカ。俺が少しでも上等に踊るための、バックミュージックにでもなればいいさ」
「……妙に腹が立つわね。でもまあ、今回は少しぐらいダメージを負ってもらうわよ」
「へえ、そりゃあ楽しみだ。あくまで俺として、補助は無しでやってみるさ。観客たちが楽しめる闘いにしようぜ」
「ええ、そのつもりよ」
彼女の要求──それは、俺ともう一度闘うことだった。
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