AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と屋根デート


 サルワス


 まあ、それからウィーは定期的に夢現空間で修業を始めたわけだ。

 眷属は必ず何かしら特化したものを有し、互いにそれを高め合ったり別の可能性を見つけている。
 ウィーは個としての力も優れているが、それよりも軍を率いたときの方が強い。
 彼女自身『姫将軍』と呼ばれる程、指揮する才があるからだ。

 だが父親の最期を見て、何かが変わったのだろう。
 貪欲に力を求め、[スキル共有]の力も借りてあらゆる可能性に挑戦している。


「──そして私は今、サルワスで過去を振り返っているんだよ」

「なんだかよく分かりませんが、いろいろとあったようですね」

「私としては、その急成長と突然の発表に驚いたところだよ」

「海は絶好の狩場ですので」


 クラーレたち、レベルを第一次の限界値まで成長させていた。
 俺が赤色の世界に居る間に何をしていたのか……まあ、訊けばいいけど。


「えっと……何を倒したのかな?」

「数が多かったので正確には分かりません。ただ、かなりの魔物が一度に殲滅されていました。自身ではなく、船での攻撃がかなり通用していましたから」

「……エリアボスを倒しちゃった、とかじゃないんだね?」

「それはまだです。一度制限を解除して、もう一段階強くなった後……それからにすると決まりましたので」


 まあ要するに、それさえ満たせばすぐにでも狩りに行けるということか。
 今の彼女たちならば、それも可能だろう。


「それでみんな、町を出るんだね」

「レベルキャップ、一度試練を超えなければレベルが上がらくなりますので」

「えっと……最初の解放場所ってどこだったかな? 覚えてないや」

「始まりの町の神殿で受けられます。原点回帰、といったところでしょうか? 最初の解放はそこで、以降はまだ不明です」


 ……これは、なんとなく見当がつく。
 神殿は神の威光が届きやすい場所だ。
 そんなところで儀式を行えば、さぞ神様も退屈を凌げるだろう。


「メルも来ますか? 今回ばかりはしっかりとした制限がかかるそうですので、いっしょに居ることは難しいと思いますが……」

「止めとこうかな? 神殿はあんまり好きになれないからね」

「そうですか……分かりました」

「あ、でも。調べたいことがあるから、ますたーに渡したい物があるの。入る少し前に渡すから、いっしょにそこまで行こうね」

「……それ、垢バンされませんよね」


 大丈夫大丈夫、どうにかなるさ……たぶんだけど。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの町


『──では、頑張ってきます』

『気をつけてねー。困ったら、いつでも呼んでくれていいからー』


 なんて会話をして、一度別れた。
 路地裏でふらふらとする必要も無いので、とりあえずは彷徨うだけだ。


「ただし、屋根の上をだが」


 絡まれ体質にでもなっているのだろうか。
 またもや凶運先生が仕事をし、どんな姿であろうとプレイヤーに絡まれる。


『ガキが』『弱そうなオッサン』『馬鹿そうな女』『よぼよぼの爺』『なんとなく気に食わねぇ』

「……理不尽にもほどがあるな」


 彼らのセリフに特に意味らしい意味は無いのだろう。
 ただ視界に入ったターゲットが俺で、ソイツが弱そうだったから脅した。
 それだけならまだ分かった……その頻度が異常でなければ。


「だからこその屋根渡り、飛べないのが少し残念だがな」


 一定規模の町や街には結界があり、外部からの魔物の侵入や内部で暴れた魔物が逃げださないようにしている。
 前者レイドイベントなどの侵攻用、後者は従魔が暴れた際に別の町へ影響を及ぼさないためだ。


「要するに、普通屋根の上にいるのが精一杯だと言うことだ。これ以上は上にいけない。結界に遮られるからな」


 当たってしまえば、衛兵たちに連絡が行ってしまう。
 それをして捕まれば、一つたりとも良いことは訪れない。


「さて、そんな中何をしようかと言えば──デートでございます」

「少しずつ大胆になってきたねー。アリィとしてはウェルカムだけど」


 トランプの記号が散りばめられたドレスを身に纏った、小柄な少女。
 ピンクがかった金髪を振り撒き、無邪気に笑みを浮かべてくる。


「暇そうだったから誘ってみたが、特に面白いものってここには無いんだよな」

「えっと、メルスたちと同じ祈念者プレイヤーってのが生まれる場所なんだよね? どういう仕掛けか分からないけど、神様もそのために町を用意したんだから凄いよねー」

「……そう、なんだよな」


 町の誕生には神──運営神が関係しているらしい。

 予め情報解放量がひどく狭められ、運営神に都合がいいようなモノしか集められないようになっている。
 自分たちの行いに、いっさいの疑念を抱かせないために。


「生まれもっての環境は変えられないわ。そして、自我が明確に保てない頃に刷り込まれてしまえばどうしようもない。あとでどれだけ修正しようとしても、必ず記憶の片隅に刷り込まれた情報が割り込むわ」

「突然切り替わるなよ……」


 会話の最中、アリィはもう一人の人格であるアリスに変わっていた。
 彼女が出るということは、アリィの過去に共感する事柄があったということだろう。


「あの娘もアリスも、昔はそこまで気にする必要がないの。……けど、それでも時々思いだす。だって経験したことなんだから」

「……大変なんだな」

「その一言で纏められること自体、少しおかしいところよね。ここは甘い言葉でアリィを慰めるところよ」


 甘い言葉、と言われてもな……。
 俺の語彙力はアレだし、とりあえずは自然体でいることを貫こう。


「アリスはいいのか?」

「……アリスはいいのよ。あの娘が嬉しく思えば、アリスもそれを感じられるから」

「ふーん、俺はアリィだけじゃなくアリスにも嬉しいと直接思ってほしいな。そしたら、アリスの嬉しさをアリィも感じるだろ? 二人共、別々の嬉しさを共有してくれよ」

「…………まあ、期待しておくわ」


 また一つ、屋根を超えながら俺たちは会話していく。



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