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山田 武

偽善者とセッスランス浄化 前篇


 赤色の世界


 クラーレたちは航海を楽しんでいる。
 船を使えば俺が居る必要はあまりなく、お暇をもらって赤色の世界に向かった。


「……浄化? セッスランスをか」

「他に何がある。眷属の母国を放置というわけにもいかないし、そっちの方が他世界との接続が容易くいくだろう」

「神聖国の地下にあるという、異世界との門のことか。信じられないが……目の前に分かりやすい見本があるからな」

「そういうことだ。俺はこの世界の門をなんとしても別の場所と繋ぐ。だが、まだ足りない者が多すぎる。いずれは全員見つける予定なんだが……探しづらくてな」


 ウィーを捕まえ、こちらでの予定を話す。
 ──この世界の瘴気すべてを浄化せねば、門を正常な形で運用することができない。

 それについては一度向かったとき、調べてあるので間違いない。


「そんなこんなでセッスランスに向かい、一度国を浄化するんだが……何か思うところはあるか?」

「無い、と言えば嘘になるだろう……だが、今はこの国をどうにかしようとしている。国は変われど民の想いは変わらない。私はただそれを、好きものであると感じてもらうために動いているだけだ」

「──はいはい、セッスランスの方は俺に任せておけ。里帰りぐらい、できるようにしておいてやるよ」


 返事は聞かず、そのまま転移眼で指定した座標まで一気に飛ぶ。


「……気をつけて」


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──瘴気だらけだな。さすがは侵略された国、魔物でも出てきそうだ」


 込み上げる膨大な量の瘴気に驚きながら、すぐに結界で身を守って辺りを調べる。
 セッスランスに関する情報はウィーとルーカスさんから集めてあるので、地理情報はほぼ集まっていた。


「だがまあ、常人じゃ近づけない場所に化してるからな……差異はあるか」


 澱み切った瘴気に汚染され、街は汚染物質で汚れきっている。
 炎が至る場所で燻り、そこから瘴気が生成されていた。


「うーん……とりあえず浄化するか」


 <領域干渉>で結界外まで俺の能力が届くようにしてから、魔法を発動する。

(──“瘴気清浄ピュリファイミアズマ”)

 炎と瘴気は俺を中心として、少しずつ光の粒子と化していく。

 聖気を混ぜたオリジナル魔法。
 煌く光が、すべての汚れを吹き晴らす破邪の力を宿している。

 光に触れた部分から次々と、眩い光と共に元の姿へ戻ろうとしていく。
 壁や地面を色を取り戻し、燃える盛る炎を消し去る。


「ふははははっ! 見よ、これが真の侵蝕というものだ!」


 魔物はまだ見つからないが、確実に街から瘴気が消えていく。
 カカの炎に効くことも調べてあるので、それ以上の淀みが無ければ浄化を防ぐことはできないだろう。



 それからは、街を徘徊して浄化の範囲に収めていく。
 やっていることは老人みたいだが、実際に綺麗になっているので止められない。

 魔物に襲われることもなく、瘴気を逃さぬよう外側から内側に迫るように歩いていく。


「──あとは王城だけだな」


 魔力はまだ九割程あるので問題なし。
 溜まりきった瘴気、その濃い部分は浄化を逃れて一ヶ所に集まっている。


「瘴気の大半は浄化できたけど、残った分が全部溜まれば厄介もんだ。そうなる前にどうにかしたいけど……凶運だしな」


 望む結果は与えられず、望まぬ結果は自然と訪れる。
 欲しければ己が力で掴み取り、拒むならば己が力で抗うしかない。

 しかし、それでも面倒事に巻き込まれるのはいつものことだ。


「……とりあえず、行ってみるか」


 数種の魔法を発動してから、俺は王城へ向かうことにした。



 瘴気が形を成し、反撃を行ってくる。
 死霊のようにふわふわとした体を使い、自らが溜め込んだ瘴気を放つ。

(──“聖神結界”)

 しかしまあ、効くとは言っていない。
 突き出した掌から放出された、壁のような魔力によって遮られる。


「なんか、魚の追い込みみたいだ」


 順路から逃げられないよう、壁の大きさは道の大きさとまったく同じ。
 そのため、瘴気は壁に触れて消滅するか逃げるかの二択を強要されている。

 最初の内はほとんどの死霊が抗おうと自らの瘴気を放っていたが──瘴気を放つことに集中し続けた結果、逃げることもできずに壁へ触れた同朋の姿を見て諦めた。


「ほらほら、逃げろ逃げろ! 汚物は消毒、悪は滅する──瘴気は洗浄じゃぁぁぁっ!」


 聖気と神気を高めることで、神聖な力を増大させる。
 瘴気はその力に怯え、これまでよりも勢いよく逃げだしていく。

 王城もまた、通った部分が綺麗になり、元の形を取り戻していく。


「まだまだ魔力はあるからいいけど、やっぱり逃げてくんだよなー。まあ、経験値になるから集まってくれた方がいいんだけど」


 メタルな粘体は、八匹集めても王になることはない。
 ならば放置を重ね、知らぬ前に王となったメタルを討伐した方が経験値は貰える。


「[経験共有]マジ便利。しかも分配自由だからレベリングにも使える」


 まあ、そんなわけで強い奴と戦うことに、それだけの価値はいちおうあるのだ。

 働きアリのように働けば、その分眷属たちが強くなる。
 滅私奉公みたいで……なんか、好いな。


「さて、ようやく到着か」


 目の前の大きな扉。
 その先に、王城に溜まっていた瘴気すべてが集まっている。

 ……さて、浄化作戦も最終段階だな。



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