AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と詠唱方法



「ま、そんなもの残すはずないがな」


 フラグを立てるだけ立てておいて、見逃すほど俺も善人ではない。

 むしろ、種を残しておいては彼女たちに被害が及ぶ可能性が高い。


「えっと、たしかここら辺に……」


 疑問というか当然の疑念というか……。

 そもそも、どうして追加の魔族は吸血鬼がピンチになった際に現れたのだろうか。
 物語ならばご都合主義と捉えてもよいのだが、おそらくそうではないだろう。

 何か明確な、もとい必要なことがあったからこそこの場に来たのだ。


「そう思って調べてみたら……案外見つかるものなんだな」


 あの吸血鬼が特別だったのか、それともあとから来た魔族が特別だったのか。

 それは分からないが、どちらにせよ今回の計画は念入りに準備されていたということなのだろう。


「だが、もったいないな。途中で作戦を放棄するなんて。普通なら、俺が代わりに実行してやるんだが……もう報告は終わっちゃってるだろうし、虚偽の報告をしたなんて思わせたくないからなー」


 レイドボスを自分たちの勘違いで見逃し、あげく町を壊されたり人的被害を齎してしまえば──彼女たちは負の視線に晒されることになるだろう。

 他のプレイヤースケープゴートがいたならそれもまたよしなのだが、調査依頼は『月の乙女』しか受注していないので誤魔化しようがない。


「仕方ないか、こっちで解析だけしてリーンとルーンに対する防衛訓練にでも有効利用しておこう」


 残滓、とでも言えばいいのだろうか。
 禍々しい不浄の力を感じるソレを手にし、俺は{夢現空間}へ移動した。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 夢現空間 修練場


「さて、何をするべきか」


 魔導で教官を召喚して修業……でもいいのだが、特に溢れ出るやる気も勇気も生まれないので行わない。

 ただ見取り稽古のように、(勝手に)眷属たちの動きを観察して取り込んでいく。

 理解して浸み込ませるように体でそれを試してみれば、<澄心体認>の効果でスポンジのような吸収力で身に着いていく。


「それだけなら、思考は必要ないんだよな。むしろ邪魔だし」


 というわけで、修練場で戦っている眷属たちの動きを思考の一つで観察させておき、俺の主意識はふわふわと空の上に移動する。

 上空も若干拡張し、ある程度魔物っ娘たちが動きやすいように改造してある。

 俺はその広いスペースに漂い、別のことを行っていくだけだ。


「結局ふりだしだな……さて、何をするか」


 魔法の多重発動でいいかな?
 手数が足りないのはいつものことだし、一度やって飽きれば別のことをすればいい。


「ただし、思考詠唱は除くと」


 アルカが持つ、アルカだけのスキル。

 プレイヤーが行うメニューの操作。
 あれは指での操作や音声認識でも動かせるのだが、思考による操作も可能なのだ。

 広い意味で言えば、頭の中だけで行動のすべてを行っている。

 そのことを強く意識していれば、理論上は【思考詠唱】を誰でも習得できる。

 詠唱をメニュー操作と捉え、それを魔法発動まで自分の頭だけで補えばいいのだから。


 だが、それだけのことでも人にとって困難なことだった。
 具体的な方法を知り得るのはアルカだけ、他のプレイヤーに完璧な思考詠唱系スキルの持ち主がいないのもそれが理由だろう。


「ま、細かいことは無しにしよう。とりあえず、それ以外の方法で練習練習っと」


 あくまでこの世界側で正式に存在している詠唱法だけで、今回は実験を行う。

 前にも言ったかもしれないが念のため。
 詠唱の主流として有名なのは──口頭・魔方陣・補助などだろうか?


 口頭は王道である、使いたい魔法を強く認識して行う詠唱法だ。
 オートなら勝手に口が動くため、不意の出来事にパニックになろうと詠唱を唱えることが可能である。

 ただ、詠唱内容に一切手を加えられなくなるので、改変にひどく時間がかかるがな。
 マニュアルなら改変も自由自在、驚いた場合は無駄に魔力を消費するだけ失敗し、最悪の場合体に影響が出てしまうのだが……まあ気にしなくて良い。


 魔方陣も結構簡単で、魔法に関する情報が刻まれた方陣全体に均一な魔力を籠めると、仕込まれた魔法が発動する仕組みだ。

 ただ、魔方陣の作りが悪いor籠めた魔力が均一でない場合は失敗し、魔方陣が消滅する場合があるから注意が必要だ。


 そして補助による詠唱。
 これはメジャーなものからマイナーなものまで、幅広く存在するから説明し辛い。

 要するに、魔道具や魔具の類がこれらに該当する。
 魔方陣そのものが刻まれているタイプや、詠唱の省略を目的としてある一定の詠唱部分が刻まれている物、あるいは術の発動までサポートするなど千差万別だ。


「これを全部同時に行えば、思考だけで詠唱するよりも効果が出るかもな」


 まあ俺の場合、思考詠唱が一番しっくりくるから、他のはあんまりやらないがな。

 現代っ子で創作物が好きだったからだろうか、別に理解さえすれば息をするように思考による発動もできた。


「というか、思考詠唱なら相手にバレる確率が最も低いからな。そういった意味でも、優秀なんだよね」


 本当、アルカはどうやって【思考詠唱】へ辿り着いたんだろう。

 理屈は分かっても、これだけ優秀なスキルにまで昇華させるのは難しいだろうに。



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