AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とムルゥの森 後篇



「チッ、使えない雑魚が。もういい、私自ら貴様らを葬ってやろう!」


 親切心からか、わざわざ人族が理解できる共通言語でそれを話す魔人族の者。

 容姿を説明するなら、鋭い犬歯が生えた紅玉の瞳の持ち主──吸血鬼ヴァンパイアだった。

 魔人としての能力で魔物を統率し、町を攻め滅ぼそうとしていたのだろう。

 ──しかし今回、その計画は『月の乙女』たちに阻まれることになった。

 繁殖や召喚を重ねて増大させる予定であった軍も滅ぼされ、今では部下は一人だけ。


「グレートオークジェネラルよ、私のサポートを行え!」


 フゴッという呼吸音が返事となり、戦闘が始まる。

 魔人が積極的に前で戦い、グレートオークジェネラルが大量の配下を召喚して的確な支援を行っていく。

 二段進化の魔物を呼べる魔物の片方は、彼だったのだ。


「みんなー、頑張れー!」

「黙れ小娘! ……クソ、忌々しい聖気の結界など使いおって。こいつらを皆殺しにしたら、次はお前だからな!」

「ますたーたちなら勝てるよー!」


 今、俺は逃げる配下の駆除以外のことは何もしていない。

 初めは補助魔法を使っていたが、少しずつそれも弱めていった。
 彼女たちの体は補助魔法を掛けた際の動きに適応し、使っていない今でもある程度の動きが取れている。

 過去はまだしも、未来は視るとアクションに変化が生じるので視ていないが……まあ、たぶん勝てるだろう。


「さぁ、魔人が参戦したことで戦いは苛烈の一途を辿っていきます。周囲で倒れた魔物たちの血液を操り、強力な魔物の作成や強化が何度でも可能。血は配下を召喚し続ければ無限に増え続け、血による回復までされる──吸血鬼に勝つにはグレートオークジェネラルの討伐が必須。しかしそれを吸血鬼が阻むため、それを行うのは困難です」


 ゴブリンとかの血って、そんなに美味しくないんだけどな。

 血で強化や回復を行う度に、なんだか不快な顔をしているから本人もそう思っているのだろう。

 だがクラーレの魔法によって、全員が聖属性の武器を持っているため血を消費しなければ負ける、またはグレートオークジェネラルの所へ辿り着かれる可能性が生まれている。

 厭々でも、使う必要があったのだ。


「おっとここで、プーチの魔法が炸裂! 火と水の混合魔法によって血で作られた魔物が洗い流される! そして配下の魔物もいなくなった今、グレートオークジェネラルを守る者は誰もいない! ついに、最後の三段進化の魔物が倒されたーー!!」

「貴様らぁあああ!」


 ぷぷっ、魔人が怒ってやーんの。
 どういう配合かは分からないが、プーチの魔法は見事に血を禊いだのだ。

 ……聖水(意味深)でも使ったのか?


「残された魔人は、ついに自らの本性を曝け出します。爛々と瞳を輝かせ、全身に強化を行い攻撃を始めました」


 これまでは、いちおうでも血の補給源として配下を気にする必要があった。

 だが、そんな心配も親切な乙女の皆様方が排除してくれた。

 お蔭で柵がいっさいなくなった魔人。
 短期戦に持ち込むのか、無詠唱で魔法を行使しながら接近戦を必要以上に仕掛ていく。


「おっと、これはどうしたことか? 先程まで効いていたはずの光魔法も太陽の輝きも、吸血鬼が纏った血の鎧によって全てが無効化されていく!?」


 ティンスもそういえば、最初は(日光弱体)があったからな。

 高位吸血鬼ではないのか、はたまたそうであっても消滅しなかったのか……。
 禁書魔法で学んだ“強制開示ステータスオープン”で確認して視ると、高位吸血鬼ではあるが(日光脆弱)のスキルを持っていた。

 まあ、進化前にどれだけ日光を浴びていたのかが、消滅に関係するのかもな。

 とにかく、そんな弱点剥き出しだった魔人は、自らの血で日光を防ぐ鎧を生みだした。

 フルフェイス仕様の禍々しい甲冑で、所々に切傷を付けるようなオプションがくっついている。


「ああ、もう死なば諸共って感じですね。血が尽きれば彼は死に、彼女たちを殺せば血を補給して生き残ることができる。その二つの選択肢しか、考えていない模様です」


 俺だったら、フィレル用に取っておいた血のストックを与えて延命させることも可能なのだが……今回は彼女たちが主役だ。

 脇役が邪魔する、なんてことは絶対にあってはならない。


「──! まあ、こういう展開でも別に構わないか」


 上空を仰ぎ見るとそこには──新たな魔族が翼をはためかせていた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 その後、魔人は救援によってクラーレたちから逃れていった。

 俺の結界、上には張ってなかったから。
 空から力を引っ張って使う魔法も存在するので、下手に蓋を閉じることができなかったのである。


「ますたーたち、残念だったね」

「残念? わたしたちの依頼はあくまで調査だけでしたし、特に残念だと思うことはありませんでしたよ」
「分不相応な相手だったのよ、後から現れた奴も含めて」


 二人目の魔族も“強制開示”で調べたのだが……『月の乙女』たちが勝利を掴む可能性が低いのを確認できた。


「あれ? てっきりみんな、あの魔族が死ぬ瞬間を見たい! とか思ってるのかと……」

「……ちょっと、それどういうことよ」
「メルが~殺されたいの~?」


 殺されたくはないが、あのままでは殺されていたかもしれない。
 軽く威圧をしていたが、今の制限状態じゃほとんど意味が無かっただろう。


「ふーん、あの魔人はもともとレイド用のボスだし、倒せば全員今より十ぐらいレベルが上げれてたと思うよ」

「そう言われると、なんだか少し」
「倒せなかったのが残念になりそう」


 レベルを上げるのはスキルもだけどな。
 しかも、一段階進化させた状態で……。

 こうして、六人(+妖女)による小規模なレイドバトルは幕を閉じた。
 ──小さな厄災の、種を残して。



「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く