AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とムルゥの森 前篇
テクテクと移動中。
ノエルが分身の術的な方法で見つけたボスの所へ、全員で向かっていた。
俺も音魔法と振動魔法を併用して、擬似的な反響定位を行ってみたが、同様の場所にボスがいることを確認している。
「ねぇねぇ、ますたー」
「どうしたんですか?」
こうした集中する必要の場所に来れば、クラーレの意識を切り替わるという俺の予想は的中した。
普通に会話できてるし……本題に入るか。
「実際のところ、ますたーたちはどこまで自分たちでやる予定なの?」
「それは……」
「ますたーがやるなら私は縛りのまま全力でサポートするけど、さすがに討伐の手伝いはできないかな」
「そこまでは最初から求めていませんよ」
まあ、イレギュラーな存在が介入してきたなら、迷わずに縛りプレーを止めてでも乱入するけどな。
でも今回の検知できた魔物は、あくまで普通のプレイヤーたちにとっての強敵。
レイドボス級のステータスではあるが、今の彼女たちならば念入りな準備とあらゆる状況への対策を用意しておけば──勝てる。
だから俺は他の作業──逃亡を防ぎ、補助魔法をかけ、相手を弱体化させ、アイテムを配るぐらいしかやらない……意外と協力しているじゃないか。
「なら、いいけど。本当に、私は見ているだけだからね……だからますたー、そんな目で見ないでよ」
「分かってますよ、メルは過保護ですから」
「そうね、普通のサポートはせいぜい見ながらヒントを言うぐらいよ。魔法を使ったりはしないと思うわ」
……うぐっ、見抜かれていたか。
これまでずっと同じことを繰り返してきたし、別に気にしてないし気にされていない問題なんだけどな。
本当に迷惑なことはしないし、止めてくれと冗談半分で言われたら──伝家の宝刀である『おやつ抜き』を宣告するぞ。
「こ、こほんっ。それじゃあ目的地までレッツゴー!」
『…………』
「ご、ごー!」
一度目の沈黙で泣きそうになったが、二度目になるとみんな肩を竦めてから『ゴー!』と言ってくれたので救われた。
皆さん、本当にありがとうございます!
◆ □ ◆ □ ◆
はい、こちら現場のメル。
現在、目の前では六人パーティーによるレイドバトルが行われております。
魔物の数はおよそ千、この程度で済んでいるのはまだ調査依頼の段階で確認できたからだと推測されます。
魔子鬼や狗頭鬼、豚鬼などの魔物が多く見受けられたため、公表されるレイドイベントの際にはもっと数多くの魔物と戦闘が行われていたと思われます。
「さて、そんなこんなで頑張るクラーレたちですが……逃げるな(──“銀の弾丸”)」
GUYAA!
結界を張っているので逃げられることはないのだが、彼女たちに襲いかからず逃亡を試みようとしている輩は遠慮なく暗殺中だ。
リョクのように理性のある魔物だったならば救っていたが……過去眼による確認でアウトという結果が出た。
……すまないが、俺は聖人ではなく偽善者なんだ。
善悪に関係なく、誰かのために殺人を行う狂人なのさ。
割り切り、というヤツだろうか。
徒党を組んで自由民の町を襲おうとした時点で、すでに答えは出ていたのだ。
「ますたーたちー、頑張ってねー」
のんびりまったりと周りを結界で囲い、誰も攻撃できないようにしてから観戦を行う。
同時にバフとデバフを掛けているので、苦笑はするが文句は言えない。
「実況を続けよう。始めは数の暴力で六人を押し潰そうとしたレイドチームでしたが、圧倒的な力の前に数はみるみる減っていき……今では三百程度に減っています」
序盤でディオンが攻撃無効化と最大級の挑発を使用。
これに引き寄せられた膨大な数の魔物を、プーチの唱えた魔法で一掃。
雑魚はほとんどがそこで死に、ある程度賢い上位種族しかもう残っていない。
「レイドチームは五種類の進化段階で構成されたチームです。最初に殲滅された無進化の魔物たち。半分程やられた、一段階進化の魔物たち……今、ちょうど絶滅しました。後ろの方でふんぞり返っていた二段進化の魔物たち。ボスの周りで待機する三段進化の魔物たち。そして──ボスである四段進化の魔物でございます」
比率ならば──50%:30%:10%:0.9%:0.1%とでも表示される。
四段進化といえば、子鬼系統ならば大鬼王が印象深い……リョクだしな。
リョクは魔子鬼→魔子鬼王→魔中鬼王→大鬼王と言った順番で進化したらしいぞ。
「そんな中、二段進化──つまり子鬼で例えるところのオーガ辺りの魔物たちが彼女たちとの戦闘を開始しました。実際、この程度ならば彼女たちだけで戦闘しても敗北の色は薄いと思われます」
レイドイベント中に発生する敵補正、その存在を加味してもまだ勝てると考えている。
武器や魔法を使い、戦闘を続けていた。
奥の方でそれを見る魔物たちには、たしかな知性が感じられる。
「……それだけで可能性を奪うのは、少しやりすぎか。クラーレが固有スキルを使わないことを祈りたいよ」
魔物が減っていき、本格的にやることが無くなった俺は、ただそう呟いて取りだしたお菓子に口を付けていった。
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