AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と神聖国の過去 その04
当時、誰も辿り着いたことのない未開の大陸に、その炎は突然生まれる。
闇よりも昏く揺らめき、深淵に全てを呑み込むような暗さで瞬く間に世界に広がった。
黒き炎は世界の至る所に発生し、人々に恐怖と絶望を齎していく。
黒き炎には瘴気──生き物が持つ暗黒面を顕在化させる力があった。
魔物たちはより凶悪に、犯罪者たちが魔物化することが確認される。
国々は協力し、黒き炎の発生源と原因を探り始めた。
原因は分からなかったものの、発生源自体はすぐに見つかった。
──終炎の海溝、今では呼ばれている場所である。
当時の法王はこの事態に慌てた。
もしかしたらその黒き炎が、封印が失われたことが原因なのかと。
しかしこうも思う……これはチャンスではないのか? と。
自国の守りには聖炎龍が居る。
これを上手く使えば、他国にも有利に出れるようになるのでは? と。
実際、それは上手くいった。
聖炎龍を騙すようにして説明を行い、黒き炎が扉を脅かすものであると信じ込ませた。
聖炎龍は人類に協力すると誓い、各国へ率先的に黒き炎の討伐を願った。
そうしてできた討伐隊。
黒き炎を浄化、もしくは封印するために編成された舞台には、今は亡き【守護者】や【聖女】がいたとされる。
彼らの協力もあり、発生源と思われてる場所で燻る炎の封印に成功した。
しばらくの間、黒き炎も静まった。
その間に各地の黒き炎を浄化し、賽銭を集めて哂っていた当時の法王だが……再び、黒き炎が世界に出現する。
再び世に蔓延った黒き炎は、生物全てに影響を及ぼし続ける。
すでに【守護者】や【聖女】は死に、次代の者もまだ誕生していなかった。
各国は再びチームを編成し、その場所へと急行した。
そして見つけたのは──黒き炎をその身に宿した少女であった。
◆ □ ◆ □ ◆
そして、映像を終了する。
「この先はお分かりでしょう? 封印された少女は、膨大な年月を孤独に生きた。神聖国は再びその益で汚れ、澱んでいく。聖炎龍はそのことに気づくも、何もできないまま守護だけを行う。……嗚呼、そして私が現れて事態は変わる。封印されし少女は解放され、聖炎龍は誓いを結ばされた」
「あの国が滅んだのは、どういう理由か訊かせてもらおうか。お前は隠しているが、瘴気絡みの事案ということで確認していた。今の話に、それは一欠片も出てこなかったではないか」
「えっと、セッスランスでしたか。あの国は人々にとって居心地が良すぎた……それだけの話です。いつしか瘴気の研究を行っていた国も、人気を奪われ怒り狂った法王も、全部が全部あの国を標的として動きました。……絶望は、刺激的なスパイスですからね」
こちらは、とある商人から訊いた情報でございます。
戦闘狂が集まる国だったらしいんだが、それでも善意に溢れた俺好みな国だったと聞いている。
大きさはそれほどではなかったが、国益としてはトップを誇る──まさに影の大国と言えるような場所だったらしい。
……要するに、私怨だ。
「あの国が無くなることで生まれる損失も、たしかにあるでしょう。ですがそれ以上に、あの国にいられては困る理由がありました」
「……まさか」
「ええ、私と同じく馬鹿な人間たちです。私欲を満たす者たちを、いずれ断罪しようと当時のセッスランスの長は考えていました。それを行うだけの力がある。だから焦り、迷うことなく──滅亡を望んだんですよ」
いちおう弁解しておくと、瘴気によって生まれた邪神の眷属にも、かなり頭の良い奴がいたらしい。
──それに誘導される形で計画が実行された結果、滅亡に至るわけだ。
まだどこかにいるらしいので、早めに見つけて滅ぼさせないとな。
「私が、私がこれまでしてきたことは……」
「ご愁傷様です。薬と毒は同じ物、まさにこのことですか」
「わ、私は……私は私は私は私は私はワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハわたしはわたしはわたしはわたしはわたしは……」
「嗚呼、そういえばセッスランスの頃には、もう貴方が聖炎龍でしたね」
「────!」
声にならない咆哮が、ダンジョンの中に木霊する。
同時にダンジョンに最初から居た聖炎龍が光の粒子となり、発狂した聖炎龍の中へ取り込まれていく。
「聖炎龍は引き継がれていく、力と名を。つまり、継ぐ前に持っていた属性をそのまま、新たに聖炎の属性を身に宿す。ただでさえ、二つの属性を宿していた聖炎龍。さらに今度は、いつの時代か分からない聖炎龍……おそらくは初代の属性をも取り込んだ」
これがバトル物で、一家を立てた者の力を借り受けるなんて展開だったならば……まあ盛り上がるだろう。
失われた力だか衰退した力を現世で再興させ、弱き者が成り上がるストーリーが始まるのだから。
だがこの吸収にどんな意味があった。
ただ怒り狂った感情と、人を守ろうとしたかつての遺志が混ざり合って生まれた混沌。
そこに善意も悪意もない、ただ事実を拒み癇癪を起こす赤子ではないか。
「……というか、俺凶運すぎるだろ。どういう確率でこんな展開になるんだよ」
さながらファンタジー系の主人公みたいだな、とも思ったが否定する。
それならもっと、盛り上がる伏線や覚醒イベントとかがあるからな。
「そういうのないから。ただ捻じ伏せて、意識が無いうちに召喚獣にするだけだから」
俺が直接潰せるなら、リミットを全解除するだけで勝負は着く。
だが今は縛りプレーの真っ最中。
あくまで召喚だけで勝つつもりだ。
「さぁ、これが最後になるかな? 楽しんでいきましょうか」
黒い魔本を開き、これから始まる熱い闘いに笑みを浮かべる。
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