AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の門
さて、もうダンジョンに突入しました。
赤色の世界で見たダンジョンでは初なのだが、自国にいっぱいあるので特にツッコミは要らないか。
「……むぅ、どうして私まで」
「我慢してください。原因の解明、そしてその犯人まで分かるんです。それくらい妥協してもいいではありませんか」
「仕方ない」
ダンジョン探索者は俺と聖炎龍、ただし聖炎龍はミニサイズの分体を使っての参加だ。
本体は今も外で入り口を守護しており、渡しておいた資料でも読んでいるだろう。
ダンジョン自体の説明をするなら、一層しかない施設を置くための場所、だろうか。
召喚獣を使ってマップを作成してみれば、奥の方に不思議な門が置かれただけのフィールドであることがよく分かった。
「……しかし、数が多いですね」
「この世界から出ようとする者を拒む、最後の試練だ。この世界に住まうすべての魔物と同種のものがいる」
「なるほど、それでですか」
膨大な数の魔物、数十万単位でそれらが巣食ったダンジョンの中。
弱い魔物である程数は多く、まさかの聖炎龍は一体のみ。
それでも数の暴力、という言葉を体現するかのように魔物軍がこの場に待機している。
「それこそが試練、全てを捨ててでも世界を超える覚悟が必要なんですね」
「そうだ。それに、ある条件を満たせば突破も容易いからな」
「全特殊職業の持ち主、【勇者】や【魔王】などを結集させるのですか。善と悪とが手と手を取り合い、世界の存亡を掛けて協力し合う……まあ、こんな感じでしょうか」
「…………お前は、なんでも知ってるな」
「なんでもは知りません。知りたいと思ったことだけですよ」
情報収集はバッチリで、多分なんでも知れるとは思うのだが……残念なモブが全部を知りたいとは思わないので、知りたいと思えたことだけが知識として貯蓄されます。
この世界には、数人の【固有】職業の持ち主がいる──、
世界を守る【守護者】
善意の象徴【勇者】
世界を繋ぐ【聖女】
世界を覗く【賢者】
悪意の象徴【魔王】
人の統制者【赤王】
俺の集めた情報では、少なくともこれだけの【固有】が代々伝承として残っていた。
これらが力を合わせこのダンジョンに挑むと、何やら補正が入るだの云々……。
要するに、最終決戦における主人公たちの覚醒と似たようなものだ。
「……さて、どうにか間引きしませんと。全て滅ぼしても構いませんよね?」
「できるものなら……と言いたいところなのだが、お前に言うと本当に全て殲滅してしまいそうだから勘弁してくれ」
その後、一割残してくれと言われた。
一割までなら扉は機能するし、魔物の数も時間が経てば戻るらしい。
まったく、聖炎龍も優しいな。
全部滅ぼせば自由の身なのに、それでもなお人を守ろうとするなんて……。
だからこそ、俺はこの国の歴代法王たちを許せないんだよな。
「まあ、いいでしょう。では始めます」
黒い魔本を開き、俺はそう告げた。
◆ □ ◆ □ ◆
始まるのは、暴虐の殺戮劇だった。
分体を送り込んでその様子を見ていた聖炎龍は、唯一それを目撃することができた傍観者と言えるだろう。
(……まさか、天使と悪魔の両方を引き連れているとは。奴らは本来相見えることは不可能とされる種族たち。それが同じ主の元、共に戦うなんてありえるはずがない!)
禍々しい魔導書のような物から飛び出したのは――あらゆる階級の天使、そして中級以上の悪魔たちであった。
白と黒の翼がこの空間一杯に広がり、紅蓮の世界で生まれた魔物たちへ襲い掛かる。
天使は神聖な力で魔物たちを弱らせ、悪魔は邪悪な力でその魔物たちを滅する。
最下級の天使ですら単独で十数体の魔物を一掃する力を有しており、天使と悪魔が組んでいる所では、亜竜などが翼も足も出せずに倒される様子が見て取れた。
龍や幾種類かの魔物はそれでも抗う。
剣や錫杖に形の変わる武器を使う大悪魔、幾何学な紋様が刻まれた無機質な天使の猛攻には抗えないものの、それ以外の天使と悪魔による攻撃ならばそれでも対等、またはそれ以上の戦いが確認できる。
――しかし、まだ終わりではない。
再び捲られた黒い本のページ、妖しく光ると召喚獣が飛び出していく。
紅色のスライム、それだけで説明はつく。
だがこう付け加えることもできた――海のような巨体、とも。
(スライム、なのか。あれだけの大きさ、一体どのような成長を……というより、あれはどのようにして生きていたのだ)
異界より召喚し、それと契約をしたというならば話は簡単だ。
だがもし、一から育てた、またはこの世界に生息していた変異体と契約を行ったというのならば……。
(それはないか。まだ開かれぬ異世界には、私には想像もつかない神秘があるとされる。この者との契約線が感じられなくなったことから、この世界の住人ではないことは明らかだ。……私は、異世界人とすでに接触していたのか)
半ば真実に辿り着く聖炎龍、だがその見解は一部異なっていた。
今も黒い本を開き何かに頷いているその男は、確かに異世界人ではある。
だが、それは聖炎龍の考える世界に住まう者ではなかったのだ。
それがどういった未来を齎すのか……それは、まだ誰にも分からない。
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