AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と神聖な魔方陣



「……意外と侵入は上手くいくもんだな」

《変身が完璧だからかな?》

「そもそも個々で繋がってないのかもな。だから他人が混ざっていようと気にしない。それが真相ってのも虚しいけど」

《あくまで仮定の話です、だね》


 前に一度着たカカ教の司祭服を白色に偽装してみると、誰も俺を気にしない。
 まあ、隠蔽系のスキルをふんだんに入れてあるので、それが理由かもしれないが。

 入った街の中では、基本みんなニコニコとした顔で過ごしていた……普人族だけが。

 ──よくある人間至高主義、と言ったヤツなのだろうか。

 他の種族は奴隷として蔑んだ目で見られ、子供たちに石をぶつけられている様子も確認できた。


「まあ、これが彼らにとっては普通なのか。俺がどうしようもない、現実なんだよな」

《無理矢理止めさせるのも、一つの手だよ》

「……俺には、無理だな。ルーンの改革でよく分かってる」


 今は明るいルーンも、イベントエリアとしてさまざまなクエストフラグが乱立していたせいか、昏い部分があった。
 腹黒貴族や殺人鬼、まあクリアできなかったクエストに関する人物が暴れた。

 当時の俺ははっちゃけていたので、自分一人でどうにかなると思って全てを単独で解決しようと暴れ回った。

 ……まあ、結果は酷いざまだ。

 事件発覚以降の被害はいっさいなかったのだが、関係各所にご迷惑をかけてしまう。

 そして学んだ――うん、国の問題には関わらないようにしよう。
 自分はモブであり、王の器は無いと。


「――と、いうわけで細事は『姫将軍』に任せておこうか。俺は壊す専門で」

《今も昔も、はっちゃけてるね》

「学んでも変われないだけさ。とりあえず、一番金がかかってそうな場所に行こうか」

《うん》


 馬鹿と煙……それと見栄っ張りは高いものが好きだからな。

 神聖さを醸しだし、なおかつ一番高い建物へ向かうことにした。



 入った建物の中は、外観同様に神聖さが溢れ出た建物だった。


「《……うわぁあ》」


 しかし、俺とクーの感想はこれだが。


「魔方陣で徴収した魔力で発光? 回復効果まで付けてるのかよ」

《聖気や神気は感じないから、本当にただの演出用だよ》

「《……うわぁあ》」


 どこから魔力を徴収しているか。
 よく調べてみれば──国の地下に設置された、巨大な魔方陣からでした。

 これには再び軽蔑の声を上げたよ。


「……ん? あ、ちょっと待って。これ、よく見ると書き換えられた形跡があるな」

《え? もともとはどんな魔法が機能する魔方陣だったんだい?》

「ちょっと待ってろ」


 すぐさま魔道具として目に入れてあるコンタクトレンズを使い、魔方陣のデータとそのオリジナルを調べていく。
 情報が一気に頭の中に入ってくるが、細胞一つ一つがスライムのように思考できる今の俺には容易い情報量だ。


「……結構真面目だった。むしろ逆で、ここに居る奴から無駄な魔力を集めて、状態異常になりそうな奴に回復魔法を発動していたみたいだ。ついでに言えば、何かの封印もしていたらしい」

《封印?》

「それは……いや、これは……ああ、なるほど。それでこうなってるのか」

《ねぇ、どうしたの?》

「地下にな、この世界最大のダンジョンが設置されているらしいんだ。……しかも、異世界に繋がる機能付きの」


 このタイミングで知る別世界の存在。
 異世界って、そう簡単に行き来できていいのだろうか。


「それを封じていた魔方陣、その機能が今では失われて中から魔物がドバーッと」

《……ああ、そういうことか》

「速めに解決した方が良さそうだな」

《うん、そうした方が良いよ》


 やれやれ、色々と抱えてたんだな。
 しょうがない、偽善者として活動するか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 縛りプレーの最中なので、転移でその場に飛ぶなどという無粋な方法は使わなかった。
 ただこっそりと地下に移動し、こっそりと扉を開いて中に入っただけだ。

 中に居る者は侵入者に即座に気付き、唸り声と共に言葉を話す。


『……ついに、来たのか』

「ええ、それが契約ですので。約束通り、貴方は私に従属してもらいます。拒否は認められませんがね」


 そこに居たのは聖炎龍。
 かつて見た姿よりも少し大きい、本物の聖炎龍であった。

 聖気付きの炎を鱗の隙間から漏らす、赤いドラゴンって説明でいいか。


 それより俺のセリフ、もう悪人だよな。
 借金の形だからって、物じゃなくて娘を浚う893並みに悪党のセリフだよ。


『だが、待ってほしい。せめて話を――』

「ダンジョン、のことですよね。貴方の先に繋がるその扉。貴方はこれを守るためにこうしてここに居る」

『……察しが良いな、すでに調べていたか。邪神の次は、異世界にまで手を出す気か』

「おやおや、この世界の守護神に向けてその言葉はないでしょう。ご存じではないようですね。あの場所に封印されていたのは、もともとはこの世界の炎全てを司っていた、炎神様ですよ」


 その言葉に、聖炎龍の動きが停止する。

 え、知らなかったの?
 いやいや、ここは知っていた的なセリフを言うことを前提で話してたんだけどな。


「……えっと、とりあえず説明をします」

『……頼む』


 まあ、それからエピソード・オブ・カカを語ることになった。

 やれやれ、従魔が手に入るのはまだ先のようだな。



「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く