AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と月の乙女 その11



 ディオンはたしかに漆黒の大剣に体を貫かれ……そして現在、半透明な状態でその場へ留まっていた。

『これは……驚いたな。メル! ……じゃなくてメルス! これがそうなのか?』

「ああそうさ。闘技場では本来死んだら退場のところを、術式を弄って霊化させて現在できるようにしたんだ。補助役を安全な状態で舞台に出したいからって用意したこの仕組みなんだけど、攻撃関係のアクションを透過させるようにするのが大変で――」

「君、邪魔はしないはずだったよね」

 説明をしていると、大悪魔がメルスに一発の魔法を放つ。
 それをスッと躱し、平然とした様子で話し続ける。

「邪魔はしていないさ、この場所がもともとそうなる場所だったというだけ。ほら、俺は何もしていないだろう? ただ、闘技場の仕組みに関わっていただけさ」

「減らず口を……」

「約束は守っているさ、大悪魔もしっかりと守ってくれよ」

「……分かっているさ。だが、ボクを怒らせたということは忘れないでね」

「ハハッ、覚えておこうか。それより一つ訊きたいことがあるんだが──」



 大悪魔がメルスと話す間、ディオンは自身の状況について考え始める。
 体は半透明になっているが、一部の武技や魔法は使える。アイテムは全て使用可能で、足もたしかに残っていた。

 彼女たちはチラッと大悪魔を見る。
 余裕綽々と時間を与える、大悪魔へ挑む時ではなかった。
 密談を行うため、ウィスパー機能で全員を繋いだ。

【シガン、そちらから見て私に先ほどまでと異なる点はあるのか?】

【いえ、体が半透明なこと以外は何もないみたい。クラーレ、蘇生できる?】

【……無理みたいです。その状態のせいなのか、蘇生対象に指定できません】

 霊化したディオンは、アイテムが使用できることからも分かるようにまだ生きている。
 闘技場に仕掛けられた術式によって、仮初の生を与えられていた。
 仮初とはいえ生きている、そのため蘇生魔法は発動しないのだ。

【しかし、もう盾役として前線にいるのは難しそうだ。メル……じゃなくてメルスが用意したこの防具を、たった一撃で貫くことができるあの大剣、何かカラクリがあるな】

【そうよね、あれが壊されることなんて一度も……ねえディオン、鎧は壊れてる?】

 ディオンが纏っていた鎧は、メルスが何度も知恵を絞って改造した鎧だ。
 魔具でも強力なスキルが有るわけでもないが、純粋に堅さと軽さを追求した仕様となっている。
 だが、実際にディオンは死んだ。
 そこに違和感を感じ、ノエルはディオンに確かめる。

【…………いや、見ての通り壊れていない。だが、たしかに私は刺されたぞ】

【なら、あの武器の方に特別なスキルかなんかがあるんじゃないの? ほら、フラグみたいにいろいろ言ってたしさ】

【コパンの言う通りね。魔武具っていうのがどれだけ凄いのかは知らないけど、メルスの持っているアレと同じぐらいおかしいって思えば納得できる話よ】

 彼女たちは知らない。
 大悪魔以上に性能が狂った装備を、魔武具も含めて大量に装備していることを。

【でも、このままだと負けますよ。シガン、たしか最初に言ってましたよね? 『必ず一人は一人はHPが0になる』って、それはこうなれば勝てるってことですか?】

【そうじゃないわ。それに、その考えも戦っている内に捨てたしね。情報が足りなすぎるのよ。だいたい、いきなりレイド級の魔物を一パーティーにやらせる時点でおかしいわ。常軌を逸してるじゃないの】

【それは~、今さらじゃないの~?】

【……それは、そうなんだけど】



 そして話し合いは終わり、作戦も決まる。

「話は済んだかい? 彼のせいで無性に腹が立つんだ。悪いけど、君たちで解消させてもらうね」

「……何をやってるの、メルス」

「アハハハッ、ちょいと今後の予定を打ち合わせしていただけだよ。酷いな大悪魔、俺は少し腹を割って話しただけだろう。だからクラーレ、棒を伸ばそうとしないでくれ」

 大悪魔はメルスを恨めし気に睨んでいた。
 彼らの間に何があったか、彼女たちには知る由もない。
 だが、冷静さが少し奪われていることだけは理解できた。

「行くわよ、作戦通りによろしくね」

 シガンの合図を元に、彼女たちは動いた。
 大悪魔もまた大剣を錫杖に戻し、一度音を鳴らしてそれを迎え撃つ。
 闘争は、まだまだ終わらない。

「10、9……」

 シガンはカウントダウンを唱える。
 大悪魔の強さを考えると、かなり長時間数えなければ致命傷にはなりえない。
 魔法による斬撃とともに気づいた、第二の攻撃をイメージし、数字を減らしていく。

「何をやっているかは分からないけど、早めに倒した方がよさそうだ――くっ!」

「そう言われてさ、守らないと思う?」
「そうそう、だから通さないよっ!」
『微力だが、聖水で牽制をさせてもらおう』

 リオンとコパン、ディオンの三人が大悪魔の足止めを行う。
 大悪魔は錫杖から魔法を放って一斉に吹き飛ばそうとするが、コパンがハンマーを振り回すことでそれを防ぐ。

「……■■■■■"ホワイトレイ"~」
「"ホーリーウエポン""ライトバインド"!」

「チッ、小癪な……」

 その隙に、詠唱を終えたプーチとクラーレが魔法を発動する。
 プーチの魔法は彼女から扇状に光が解き放たれるもの、大悪魔は飛んで避けずに高速移動による射線状外への避難を行うが――プーチの魔法からクラーレの魔法である"ライトバインド"が発動し、大悪魔を拘束する。

「……3、2、1――」

「そうは、させ、るかぁあああ!」

 カウントダウンが0に近づくことに、焦りだす大悪魔。
 無理矢理解放した力でクラーレの拘束を打ち破り、脇目も振らず超高速でシガンの元へ急ぐ。

(これで彼女は技を使うしかない、タイミングが分かればこちらのものだ)

「"形状変化・天斬る大剣"、これで君たちの作戦とやらもお仕舞いだ!」

 時間がゆっくりと感じられる。
 シガンは水平に振り払われる黒い大剣を、客観的に見ながらそう感じる。
 一度しかない、このチャンス。
 なんとしても、成功しなければならない。

 そして、勝利の鍵となる言葉を放つ――。

「……0――"パラレルブレイク"!」

「そん、なっ! 馬鹿な!」

 今までに彼女が戦闘中に使っていたのは、1の後に武技を使うもののみであった。
 だがしかし、彼女は今0を唱えた。
 カウントダウンは1の後に始まるものと、1を言わずに始めるもの――そして、0の後に開始を告げるものがある。

 成長した彼女の【未来先撃】は、これを任意で使い分けることが可能となった。
 中でも0を言った後に発動するものは、発動条件を緩和させることもできた。
 ――彼女は斬撃を躱し、武技を放つ。

 平行世界の存在をも断つ剣は、溜め込まれた膨大な力の奔流とともに大悪魔を襲った。


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