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山田 武

偽善者と月の乙女 その09



 攻撃を掻い潜り、少女の姿をした大悪魔にドロップキックをくらわせる。
 男女平等主義ではないが、ドロップキックは特に悪いことではないと思ってます。

 体と口を同じくらい動かしていると、俺を調べていた大悪魔が話しかけてくる。


『随分と余裕そうだね。何重にも施された封印術式、その先に隠された力が君に安心感を与えているのかな?』

「そう、だな。掛けてある封印術式を解くことは俺独りでは不可能。特定の条件下で、一部だけなら可能なんだけどな。……覚悟ってのは、ただ強い想いだ。ただ、それが本人の想いでなくとも定まっちゃうのが問題なんだよな。怨念や憎悪、願望や期待。正だろうと負だろうと、善も悪も関係ない。そこに強い想いさえあれば充分だ。その想いと条件を満たしたスキルが合わさると……【固有】スキルが完成するってわけさ」


 まあ、仮説の部分が多いけどな。
 さらに言えば、膨大な量のリソースを注げばスキルは創れるそうだ。
 初期の【固有】持ちに関しては、こちらが主な理由だと思われる。
 条件と想いを燃料で増幅し、スキルという形で発現。
 これも本人とマッチしないと、激しい侵蝕が行われるそうだがな。

 本人の強い意志、他者からの強い想念、外部からの干渉……それ以外。
 どのような方法であろうと、【固有】の力は手に入る。
 ただ、一つ言えるのは――無償で手に入れた場合にのみ侵蝕が確認されている、ということだ。

 足踏みして地面を揺らし、ヒョロイ悪魔がグラついた隙に回し蹴りで吹っ飛ばす。


「SPを払えば話は別だ、対価があれば侵蝕は無いみたいだぞ。SPで払う分を体で払うのが侵蝕、そう考えるのが妥当だよな」

『言い方が嫌らしいです』

「……まあ、スキルを習得するなら正しい方法でってことさ。ご老人、行きますよ」


 最後に残ったのは、老人風の上級悪魔。
 確固とした経験に基づいた動きをしているので、伊達に老人の姿ではないのだろう。
 牽制に魔法を放ち、魔法で生み出した武器で近距離遠距離問わず、俺の視覚を突いて攻撃してくる。

 少々苦戦するものの、邪魔な四人を予め排除してあるので安定した戦闘を行えている。
 魔法と武器はなして壊し、最後には肉弾戦となっていた。
 拳をぶつけ足を絡め、競技であれば反則と取れる禁じ手を使って行う闘い。


「捌けるけど、キツイですね。貴方にだけですが、使わせてもらいます――"気闘法"」


 神眼での観察を終え、老人の動きをトレースすることに成功した。
 魔力でのみ行っていた強化を、気との同時使用に切り替えて構える。
 老人も俺の中でそうした変化が起きたことに気づき、これまで以上に気を錬り込んで戦闘を行う。


「見えすぎると引っ掛かるフェイントってのもあるらしいが、実際それすらも見通せば意味ないんだよな。ご老人もよく理解していると思いますが、純粋な暴力は時として一切の妨害を打ち壊します。……貴方は話が分かる人です、この先に起き得る未来をなんとなく分かっているのでしょう。……そうです、一番望む未来になるように努力しますよ」


 だが、拳を交わす内に気付いたのだろう。
 老人はある結論に行きついた。
 俺は敢えて何も聞かない老人を肯定し、そう誓う。
 そして、鳩尾に一撃加えて闘技場の壁まで殴り飛ばした。

 老人が立ち上がることはなく、代わりに動き出したのは大悪魔の口だった。


「おめでとう、これで君はボクへの挑戦権を手に入れた。約束通り、直々に勝負してあげよう――」

「ちょっと待ってくれ、それって選手交代も可能か?」

「「「「「「……え?」」」」」」


 俺の突然の質問に、遠くで観戦していた少女たちはいっせいに疑問符を上げる。
 あーあ、食べ物も落としちゃって。わりと作るの大変なんだからな。

 大悪魔は、一見綺麗そうにも取れる笑みで答える。


「もちろんさ、だけどボクも馬鹿じゃない。今この場に居る者だけ、交代は一人につき一回という制限は忘れないよ」

「いやいや、そこまでやってくれるならありがたい。ただ、彼女たちは一斉に挑ませてくれるともっと助かる。俺は見ているだけ──大悪魔が彼女たちに、永続的な不利益を与えない限りは干渉しないからさ」


 ここで最後の部分を言わないと、魅了してそのままお持ち帰り……なんて展開に陥ってしまうからな。
 クラーレの手に入れた【固有】スキルがあれば最終的には勝つだろうが、それまでに何が起こるか分からない。
 こちらに優位な条件を提示して、どうにか納得してもらわないと。


「……ボクが、それに応えるとでも? 別に君一人と戦っても構わないんだよ」

「いやいや。彼女たちには失礼だが、大悪魔は強い。彼女たち一人一人挑もうと、勝利は得る可能性はゼロだ」

「そんな未来は、束になっても訪れない」

「挑発と取ってくれて構わないが、俺は負ける気がしないんだ。だからせめて活躍したところを見せてから、死んで逝ってほしい」

「ッ! 本当に安い挑発だ。……しかし、いいだろう。乗ってやろうじゃないか」

「なら、そうしますかっと」


 俺と彼女たちを隔てていた結界の形を組み替え、彼女たちを囲うような形状にする。


「結界を解除した時、戦いを始める。たぶん負けるだろうけど、胸を借りると思って少し頑張ってみようか」

「……なんだかもう、当初の目的からだいぶ逸れているんですけど……」

「ま、そのことについてはまた今度。今はその大悪魔を相手にバトルってことで」


 その後、準備を終えた彼女たちを確認してから――結界を解除した。



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