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山田 武

偽善者と月の乙女 その08



「フフッ、人間にしてはよくやる方だね。アイツらは中級悪魔だけど、連携をすれば上級でも倒せるんだよ」


 大悪魔は、余裕を見せている。
 まあ召喚で中級悪魔を呼ぶくらいなら、何度でもできる魔力量だしな。
 俺の戦闘力を測れて、満足なんだろう。
 こっちもこっちである程度見せる札は制限してあったが、それは御相子様だ。


「へー。つまり、大悪魔は倒せないのか。上級悪魔が徒党を組んだら、大悪魔って倒せるのか?」

「……まあ、大悪魔にも格がある。ボクみたいに強い大悪魔でなければ、強い上級悪魔たちに倒されるだろうね」

「そうなのか、だからなんだな」

「……何がだい?」

「お前が上級悪魔を召喚しなかった理由さ。負ける可能性、下剋上の可能性が恐かったから、どうにか抑え込める中級悪魔にした……うんうん、そういうことだったのか」


 そう言うと、笑っていた悪魔の顔は一瞬真顔になり、再び笑顔を張り付けたと同時に物凄い威圧を放ってくる。
 クラーレたちが耐えられるかどうか、微妙
なラインだったので精神魔法で心を強化しておく。

 俺がどれだけ威圧しても怯えないと分かった大悪魔は、スッと威圧を解除して話を戻して口を動かす。


「そうでもないさ、ボクは上級悪魔も召喚できるよ。ただね、君たちがいきなり上級悪魔と戦ったら負けちゃうと思ったんだけど……余計な御節介みたいだったね。いや、君がいなければ、あそこのお嬢さんたちはそれで全滅だったんだけど、君みたいにちょっと強い人間がいることを想定していなかったよ」

「そうかもな、アイツラもいずれは上級悪魔だろうと大悪魔だろうと倒せるようになるのかもしれない。だが、それは未来であって今じゃない。お前にその未来を奪われたら、一生無理だろうな。――だからこそ、俺はその未来を守り抜かないといけないんだ」


 プレイヤーには死に戻りがあるが、死に戻りでリセットできないこともある。
 苦痛やトラウマ、そうして刻まれたものは彼女たちの中でずっと燻るだろう。

 俺は偽善者として、邪な悪魔が少女たちを傷つけることを許さない。
 ……何よりこれは、俺が引き起こしたトラブルなので、なおのこと真剣である。


「そうかい、ならこうしようか――」


 指を鳴らす大悪魔。
 すると、再び複数の魔方陣が出現する。
 ……魔方陣を破壊しても良かったが、せっかくのご厚意なので見守っておこう。


「上級悪魔の精鋭、数は5体。彼らを倒せたのなら、ボク直々に戦うことを約束しよう」

「親切心に感謝するよ。目的がある方が、彼女たちも楽しく観戦できるだろうさ」

「ふっ、減らず口もいつまで続くかな? 君の実力……まあ、上級悪魔でも苦戦すると思うよ。だけど、君じゃあ大悪魔であるこのボクを倒すのは無理だろうからね。まずは彼らで腕を慣らしてもらおうか。それもできないのなら……死、あるのみさ。――さぁ、彼を鍛えてやれ」

『『『『『――はっ!』』』』』


 大悪魔のその言葉に、魔方陣の中で胎動していた悪魔たちが一斉に動き出す。
 中級悪魔は男型か女型、大雑把にそれぐらいの違いしか無かったのだが、上級ともなると容姿に違いが生まれている。

 男は三、屈強とヒョロいのと老人。
 女は二、妖艶なのと少女。

 黒尽くめのローブか鎧を身につけたその集団は、先ほどの中級悪魔同様、俺に向けて攻撃を仕掛けてくる。


「おーい、クラーレ―。悪魔を倒す方法は、どういったものがあるんだっけかー?」

「え? か、完全に消滅させるなら、聖属性の攻撃を使うのが一番では?」

「おー、それそれ。ありがとうな」


 飛び交う魔法も振り回される武器も、全て拳一つで捌いていく。
 先ほどまではいっさい自身のスキルを使っていなかったが、さすがに強いと言うだけあるので使用中だ。

 魅了などの状態異常を仕掛けてくる妖艶な奴へ、(瞬歩)で近づいて気絶させる。


「光の魔法の派生だから、普通の奴も……特に神官系の職業に就いている奴は持っている属性だな。だけど、真の意味で聖属性を操れる奴は少ない。【勇者】や【聖女】、そうした選ばれた者の光は、自然と魔を滅する聖なる光――聖光になる。……なんでだろうな」

「結構余裕そうね」

「シガン、割と危険なんだぞ。そこは置いておくが、普通の職業で聖光を扱える職業は未だに発見されていない。この世界で聖光は、貴重で固有で特別なんだ。そんな光で滅することのできる悪魔……普通の奴が倒すには時間がかかりそうだな」

「何が言いたいんですか?」

「ん? ……ああ、思考を多く使っているから無駄なことを言っちゃうな。後天的にそうしたレア職業に就くのは大変だし、聖属性を使える武器を見つけるのはもっと大変な気がする。まあ、【勇者】ぐらいなら簡単になる方法があるぞ。なりたいか?」


 全力で首を横に振られました。
 しかし、舐めプで闘ってるから本当に思考に余裕ができないな。
 全思考中七割程を戦闘に使っているので無傷でやっていけているが、丁寧な会話を取るならダメージを覚悟しないと。

 屈強な悪魔へ"浸透勁"を使い、装備している鎧越しに一撃を与える。


「あれ以来、【固有】に関する情報は集めるようになったけど、まだ【固有】を確実に習得する方法はないのよ。いちおう参考に訊いておくけど、どんなやり方なの?」

「あちら側としても、増やしたい職業やスキルが決まっているんだろう。ただ、覚悟を決めて習得条件を満たすだけだ。そうして習得したものは侵蝕し辛い、だって本人が望んで手に入れた力なんだしな。シガンみたいに植え付けたヤツは逆に凄く侵蝕してくるがな」

「……覚悟、ですか?」


 悪魔との戦いはまだまだ続くのだが、全然戦ってるって気分にならないな。



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