AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と吐露する想い



「……ハァ、ハァ……」

『うんうん、凄いよますたー! ちゃんと独りで倒せたね』

『あ、ありがとう……ござい、ます』


 集中していたせいか、心臓が激しく脈打っています。
 疲れ切った体を休めるように、大きく深呼吸をして落ち着いていきます。


「スゥー、ハァー。スゥー、ハァー……」


 わたしでは、一度戦闘するごとにこのような休息を必要としてしまいます。
 そう考えると、もっと強い魔物たちと戦うシガンたちの凄さが身に染みますね。
 遠くから観察するように視るのと、戦うために近くで見るのとでは、全く臨場感が異なるそうです。
 回復役として、ずっと遠くで見たきたわたしには……少し、覚悟が必要でした。


(でも、強くならないと!)

「メルちゃん、そろそろ行きましょう」

『え!? ま、ますたー、もう休憩しなくていいの?』

「はい、もっと頑張らないと」

『うーん…………。無茶だけは、絶対にしないでね』

「安全第一、ですよね」


 少しずつとはいえ、わたしもレベルアップしています。
 能力値BPの合計もお蔭で向上し、回復職としては高めの300を超えました。
 スキルや装備、職業や種族によって補正もありますので、わたしより優れた回復役はごまんといますが、メルちゃんの指導の下、シガンたちに追い付けるよう努力中です。

 ――それもこれも、過保護なメルちゃんによるレベリングのお蔭せいです。


『ますたー、気を付けてね』

「はい、分かってますよ」


 縮めた棒を片手で握り締めて、前を歩くメルちゃんについていきます。
 ……そろそろ、一番強い魔力を持つ魔物が居る場所に到着します。
 メルちゃんであれば簡単に倒せるでしょうけど――わたしの場合は、無茶をしなければ勝てないような強さでした。
 それでも勝てれば、メルちゃんもわたしのことを見直してくれるでしょうか?

「……勝ちます、勝ってみせます。見ていてください、独りでも勝てる姿を……わたしたちが、メルちゃんに依存しているだけじゃないということを」

『――ッ! ま、ますたー、まさか、あのことを気にして……』


 メルちゃんは驚いているようですが、ただの事実です。
 メルちゃんには悪いですが、このままわたしの中のモヤモヤを伝えてしまいましょう。


「分かっていたんです。だんだんわたしが、メルちゃんに頼っていたことは。昔からそうなんです、話してくれる人がいると、その人にずっと頼ろうとしてしまいます」

『…………』

「ふふっ。メルちゃんは信じてくれないかも知れませんが、わたしは現実では友達が全然できなかったんですよ。いつも陰でみんなが楽しそうにしているのを見ているだけで、何もしないで羨ましいと思っているだけ。その後色々ありまして、シガンがわたしと友達になってくれました」

『……ますたー、凄く省いたね』

「この頃の思い出はあまりないので。シガンと会ってからのわたしは少し明るくなれましたけど、それもシガンの前でだけで、それ以外の人たちとは話すこともできませんでしたよ。それが変わったのは――このゲームを始めてからです」
「シガンが懸賞に応募したということで、購入した分が余ったらしいのです。なのでわたしが買い取って、一緒にAFOを始めることになりました」
「『ゲームの中でなら、違う自分を演じられる』と言われて、勇気を出したら話せるようになりました。わたしとシガンで……というより、九割シガンの力で、今のギルドができたんですよ」
「それからいくつかの冒険をして、今この瞬間になるんですけど……あまりわたしは、こちらでも話せていません。会話はできるようになったんですが、シガンだったらどのような返事をするか、そういった演技でしかありません。メルちゃんと出会う切っ掛けになったノゾムさん、あの人にもシガンとしての演技しか話せませんでしたよ」

『そうなのっ!?』


 ノゾムさんとメルちゃん、どういった関係が二人にあるかは分かりませんが、知り合いみたいですね。


「わたしがわたしとして話せるのは、まだシガンだけです。メルちゃんには……まだ半分だけでしょうか。全部を告げて幻滅されるのが恐くて、まだ言えません」

『……そっか』

「ですから、この場所から出れたら――本音で語り合いましょう! メルちゃんが何か隠していることは分かっています。全部じゃ無くていいんです、メルちゃんの好きなものや好きなこと、趣味でもいいですから話し合いましょう! 話すことが大切だと、わたしはシガンから教わりました。メルちゃんから、信じることを教わりました」

「厚かましいですが、わたしはメルちゃんのことを信じてもらいたいです。なので、メルちゃんに伝えたいことを伝えます。覚悟を決めるために、この場所から出れたら!」


 感情を剥き出しにしているからか、今のわたしは本音……というより内心を吐露していました。
 メルちゃんという守護からの脱却を宣言しているようにも取れる発言は、メルちゃんにとってどう思えるのでしょうか?


『ますたーは、どんな私も信じてくれるのかな? 私が魔王でも、邪神でも、星を襲う厄災でも』

「メルちゃんは凄いんですね……はい、信じますよ。言いましたよ、どんなメルちゃんであれ、メルちゃんの本質は変わりません。魔王でも、邪神でも、厄災でも……優しさだけは、きっと変わりません」


 しかし、ふと思います。
 メルちゃんが自重を忘れて、このゲームで暴れ回ったら……わたしたちに、勝ち目はあるのでしょうか?
 わたしよりも強いプレイヤーは、いっぱいいますけど……なぜでしょう、メルちゃんが負けるイメージがまったく浮かびません。

 メルちゃんのことですから、自重を忘れても優しさは忘れないと思いますし、大丈夫でしょう。
 メルちゃんへの信頼感が、わたしにそう思わせたのかもしれません。



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