AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とダンジョン転移



 アースマンティコアの索敵方法が判明しました。
 あの魔物は聴覚を用いて、わたしたちの場所を探っているようです。
 魔法で遠い場所で音を鳴らすと、偽物を一体放ってきましたから。
 確認のために、魔力を持たないアイテムで同様のことを行っても、アースマンティコアは反応していました。

 このことから、聴覚による索敵であると判りました。
 あとはこれを利用して、アースマンティコアを誘き寄せるだけです。


『鬼さんこちらっ、手の鳴る方へっ!』


 癇癪玉と手拍子で音を鳴らし、一番身軽なノエルが目的地へ誘導を行います。
 ディオンにも任せようとしたのですが、絶対に聴覚だけだと言えない現状ですので、いつでもノエルをカバーできるよう準備して、待機してもらっています。

 小規模な爆発音が鳴ると、アースマンティコアはその地点に偽物を送っています。
 ダンジョンの最深層にいる魔物なだけあって、まだ魔力は尽きていません。
 自分は偽物を作ることに専念して、ゆっくりと体力と魔力を温存しながら目的地へと誘導されていきます。


「シガン、合図はお願いします」

『分かったわ。……プーチ、今よ!』

『はいは~い。……■■■■■■――"マドスワンプ"~』

 高速で詠唱を行ったプーチの魔法は、指定した範囲を泥沼へと変えていきます。
 泥沼は横に広くしたのではなく、縦に深くしてもらいましたので――

 GURUAAA!?

 アースマンティコアを泥沼へ嵌めることに成功しました。
 ですが、これではすぐに魔法を使って対策されてしまいます。
 泥沼になったならば、また硬い地盤に戻せば良いだけ……ちょうどメルちゃんがやったように、一瞬で。

 ですが、対策は用意してあります。
 魔法に干渉された地面は、一時的に半物質状態――つまり、消滅できるのです。


『コパン、やっちゃいなさい!』

「オッケーリーダー! ――"ディスペルストライク"!!」


 コパンが飛び上がって打ち下ろした槌の一撃は、ガラスに罅が入ったような音と共に、プーチの魔法を破壊します。
 泥沼は一瞬で魔力と共に消え去り、泥沼の干渉範囲にあった地面が消失しました。

 GUAAAA!?

 その中心当たりには、大量の魔物の姿が確認できます。
 アースマンティコアとその偽物――作りかけの状態の物もありますね――が、泥沼にならなかった地面の底へ落ちていきます。


『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1――"クロノブレイク"!』

 GUROAAAAAA!!

 シガンの(時剣術)の中でも強力な一撃を放つ"クロノブレイク"は、時間の概念を無視した斬撃を放つことができます。
 いつもより長いカウントダウンで放たれたその斬撃は、一瞬の内に落ちていく魔物たちへと命中していきました。

 この一撃でアースマンティコアは、完全に死にました。
 わたしたちは、ようやく気を抜け――


『!? ますたー、危ないっ!』

「……え?」


 メルちゃんが注意をしたときには、既にそれが始まっていました。
 足元には魔方陣が描かれ、今にも発動しそうな程輝いています。
 そして、わたしがそれをはっきりと見た時――魔方陣はもう、発動していました。


『――――! …………!』


 最後に聞こえた声は、いつもになく慌てていました。
 ……話、結局できませんでした。


◆   □   ◆   □   ◆

???


「……あれ、ここは?」


 意識を戻すと、わたしは倒れていました。
 いつの間にか閉じていた瞼をゆっくりと開くと、そこは先程とは異なる場所です。
 洞窟のような場所であった『怪獣の巣』とは違い、この場所は石造りみたいですね。
 周囲に魔物の気配はなく、マップでこの場所を調べると――


「不明?」

『あ、ますたー起きたんだ』

「メルちゃん……って、その姿は!」


 わたしの索敵では分からないように現れたメルちゃんは、顔に血が付いていました。
 逆にマントには、何も血が付いていませんでしたが……どうしてでしょう。


『魔物を殲滅してきたんだよ。ますたーの周りには結界を張ってあったし、突然魔物が現れてもすぐ分かるようにしてあったから……この先を全部、ますたーが安心して通れる道に補整しておいたんだ』


 メルちゃんはあっさり、そう言います。
 ……いえ、メルちゃんなら容易いことだと分かっているんですけどね。
 最近こっそり、濃密な魔力を練る練習をしていましたので。

 しかし、こういう状況になるとあっさり話せるようになりました。
 この調子で、確信に迫りたいところです。


 ――全然話せません。
 いえ、話せるんですけど確信に迫る話が全くできません。


「め、メルちゃん……あのっ!」

『ちょっと待っててね――どうしたの?』

「…………いえ、なんでもありません」


 斥候役も攻撃役も防御役も、メルちゃんが全てを行っています。
 二人しかいないので話はできますが、わたしのどうでもいい話でメルちゃんの時間を邪魔すると考えると……なかなか話せません。


 しかし、メルちゃんは気が利きます。
 わたしが状況を把握している間に、こんな質問をしてきました。


『あのね、ますたー』

「どうしたんですか? メルちゃん」

『ますたーはもし、私の正体が全く取り柄のないおじさんだったら……どうする?』

「お、おじさん……ですか?」

『実はますたーに近寄り、油断を見せた途端に……パクッと! なんてね』


 メルちゃんがおじさん……本人が説明するイメージと違って、お小遣いをくれる親戚のおじさんしか浮かびません。
 その理由は――


「メルちゃんはどんな姿でも、メルちゃんですから。わたしたちをどうにかしたい、なんて欲望を持って近付いた人に、わたしたちの世話なんかできませんよ。根が優しい本物のメルちゃんは、わたしたちの知らない場所でもきっと、良い人なはずですから」

『…………』


 呆然、メルちゃんの顔は驚いてますね。
 きっと、おじさんだったら離れて欲しいと言ってもらえると思ったのでしょうか?
 ここはゲームの中です、今さらメルちゃんがおじさんだろうと問題ありませんよ。

 ……ですが、どうしてメルちゃんは例えとして、おじさんを挙げたのでしょうか?



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