AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とウインドイーグル
オモーリ緑野
体感的には久しぶりのメルモードだ。
眷属強化キャンペーンは、あくまで眷属が強化するためのキャンペーンなので俺には関係ない。
むしろ、眷属や国民が生み出した全てのスキルが俺の中に自動的に集まるので、その気になればいつでも最強モードさ。
彼女たちが移動中の『オモーリ緑野』、これはプグナから南に移動する道だ。
爽やかな風が吹くなだらかな道をゆっくりと歩き、彼女たちは次の街に向けて移動中であった。
「この道は、魔物が来るんだねー」
『プグナの闘技場には王族などが来るそうですので。周囲の道を補正しているらしいですよ。ここだって、『始まりの草原』と比べれば補正されているでしょう?』
「でも、どうして西だけなの?」
『東にも同様の道はあるそうです。ただ、そちらは少し不穏な噂が多かったので……今回は南に行きます』
「ふーん」
東、というと帝国があるんだっけ?
実力主義をウェルカムしているらしいが、詳しいことは『始まりの町』の図書館の本に載ってなかったから分からないな。
毎度のことだが、俺とクラーレは後方支援なので割と余裕がある。
こうしてのんびり会話をしていても、特に困ることは――
『クラーレ! 早く回復を!』
『あっ……"エリアヒール"!』
シガンからの要求で、瞬時に回復魔法を発動する。
既に(無詠唱)を習得し、こうした状況でも瞬時に魔法を飛ばせるように鍛えました。
シガンたちは戦闘中であった。
相手は空から襲ってくる『ウインドイーグル』という魔物だ。
風を纏っているので、遠距離攻撃の威力が弱いと弾かれてしまい、強くても高速移動で躱されてしまい、苦戦中のようだった。
「ますたー、回復以外はやっちゃ駄目だよ。あれは良い修行になりそうだからねー」
『それは……構いませんけど。せめてシガンの【未来先撃】の使用ぐらいは』
「侵蝕は止まったけど、便利なものに頼り過ぎるのもね。私と違ってみんなはパーティーなんだから、工夫を凝らしてやらないと」
セリフがブーメランなのはご愛嬌。
最近<八感知覚>にお世話になり過ぎている人のセリフでは無い。
【未来先撃】は攻撃の保存ができるチートスキルだからな、ソロプレイもできるようになるぐらいだ。
これで攻撃以外も保存できたら、ユウたちだろうと倒せるんじゃないか?
風鷲は風を纏った羽を飛ばしたり、風魔法を行使して攻撃していた。
決してこちらに近付こうとはせず、距離を取って安全圏からじわじわと彼女たちが弱るのを待つ。
実に頭のいい魔物だ。
決して驕らず、急降下してトドメを……などということをしていたら、強烈な一撃を放たれていただろう。
ヘイト値をよる攻撃誘導も、全体攻撃しか使ってこない風鷲にはあまり効果が無い。
スキルによって無理矢理思考の一部を書き換えられようと、冷静に全体攻撃だけを選ぶのは秀才だとも思えたぞ。
「あの鷲って、もうユニークモンスターだよね? ますたー、(鑑定)できる?」
『メルちゃんもできますよね? ……確かに名前があります。ふぇりょひゃきゃきゅ? 魔物固有の命名法があるのでしょうか?』
(鑑定眼)を使ってみると、同様の名前が表示された。
ユニークモンスターに逢うことは数回あったが、どいつもこいつも不思議な名前を持ってるんだよなー。
能力的にも優れており、彼女たちがあの鷲に勝つのはもう少し先のようだ。
三十分程掛けて、どうにか彼女たちは風鷲の討伐に成功する。
HPはクラーレが回復していたので問題ないが、MPはほぼ0に近付いていた。
装備も所々破損しており、戦闘の激しさを実感させていた。
「お疲れー、ユニークモンスター相手によく頑張ったねー。報酬はこっちであげるから、素材は私にくれないかな?」
『メルちゃんは~、どう使う予定なの~?』
「うーん、企業秘密かな? 報酬は美味しいデザートで手を打つから」
『メルちゃん、わたしたちはそんな物が無くてもメルちゃん――むぐっ!』
恐らく、報酬は要らないとでも言おうとしたのだろうか。
善の塊であったクラーレは、欲塗れのパーティーメンバーによって口を塞がれた。
『詳細を聞かされないと渡せないわね。私たちも必死でアレを倒したのよ。そう簡単に、渡すわけにはいかないわ』
「それなら、このアイスケーキかな? 六種類のアイスが均等に入っているけど」
『……ええ、それで手を打つわ』
ガシッと手を交わす俺とシガン。
ギブ&テイクはここに結ばれた。
俺は後にあの魔物を手に入れ、彼女たちは甘味という至福の品を手に入れる。
誰も不幸にならない最高の交渉だ。
『メルちゃん、本当にいつもすいません』
「大丈夫大丈夫、お菓子作りは私も楽しいからね。材料さえあればすぐにできるし、何より喜んでくれるから」
眷属は一部を除いて大半が女性だ。
戦闘狂だろうと研究狂いだろうと甘味はやはり嬉しいらしく、試作品を提供すると、我こそはと味見役を請け負ってくれる。
「とりあえず、安全な場所に移動してから食べようか。ますたーたち、結界の準備をお願いね」
『分かったわ。すぐに準備しましょう!』
シガンの一言で、彼女たちは早急に支度を初めていった。
うん、美味しいは<正義>だな。
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