AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と眷属強化キャンペーン



夢現空間 修練場


「はい、それじゃあ頑張ってみよう」

『はい!』
『……ん』

「が、しかし、俺は人様に教えるということはできません。だって、何をどう教えたらいいか全く分からないからな。今回は頼れる先生方を予め呼んでいるから、二人には彼女たちにいろいろなことを教わってもらうぞ」


 眷属強化キャンペーン。
 俺の覚悟がそれなりに定まっている内に、これを始めてみようと思った。
 ……本当ならこんなことしなくとも、眷属は最強で最高なのだが、大器は晩成するまでに時間がかかるからな。
 自分たちは凄い、という事実を教えるのが今回の目的だ。

 修練場はいつも騒々しく、今も離れた場所で戦闘音が聞こえている。


「一人目の先生は、(結界魔法)担当のスー先生だ。二人共、ちょうど持ってるしな」

『……よろしく』

『お、お願いします!』
『……よろしく』


 白熊の耳がチャーミングなスー。
 今日も眠たげな顔を浮かべ、俺の召喚に馳せ参じてくれた。
 うん、ベリーキュートだ。

 ちなみにだが、スーとフーリは発言が似ているが少し異なる抑揚でタメを作っている。
 スーの場合は純粋に眠いからだが、フーリの場合は理由があって空けている。
 ここも実は、フーリなりの考えがあるのだが……今は、置いておくとしよう。


「二人目の先生だが……二人の使う武器が決まらないと難しいな。俺は全部使えた方が良いと思うが、これと決めた一種類の武器があることも大切だ。フーラとフーリはどんな武器を使いたいのか? 純粋に、どういう武器が良いかを教えてほしい」

『私は、前に頂いた剣で良いのですが』
『……同じく』

「うーん、それはそれでまた改造を施しておくから、サブウエポンをな。学校でも教えてもらっているだろう? どちらかと言えば、俺から貰った武器は奥の手だ。最初から出していると、それで策が読まれる」


 実際に二人に渡した武器、それと同じ物を生成して振り回す。
 双剣を一本ずつ渡しただけなので、あまりメインには使い辛い物だ。


「……これ以上はちょっと確信に迫るか。さて、とりあえず全部試してみるか。二人は自前で(全武器適性)を持ってるから、正しく使うことぐらいは余裕だろう」


 幸い、暇が多いので武器の種類は豊富だ。
 王道で凡庸な剣はもちろんのこと、ロマン武器であるパイルバンカーまで用意されているからな。
 ティルのような極地に辿り着かなくとも、プレイヤー相手に戦えるぐらいの実力は身に着けておかないと。


「では各自、スーから結界について学びながら、第二の武器を選ぶように……開始!」

『……二人共、一度しか言わない』


 俺は彼女たちから離れ、遠くからその練習模様を窺う。
 真剣な眼差しで、フーラとフーリはスーの話を聞いている。
 結界の硬度を高めたり、その硬さを武器を振って確かめたり、結界で武器をコーティングしてみたり……創意工夫は様々だ。

 レンの報告によると、既に(結界魔法)の習得法はプレイヤー内に広まっているらしい。
 純粋な魔力か無属性の魔法を使って、壁を創ることでそれは可能とのことだ。

 スーにはレンが聞きだしたその情報を伝えてあるので、俺や解析班が考えた方法以外にも使い方を示している。
 結界にエネルギーをチャージする、なんて使い方もあったので、ゲーマーの発想の転換には惚れ惚れしたよ。


 彼女たちは頑張っていた、俺のその場凌ぎの発言であそこまで懸命に強くなろうとしてくれている。
 ……二人目の先生がさっさと決まっていれば、こうなることもなかったか。


「さてさて、俺がどうして二人目を紹介できなかったか、ちゃんと分かってるよな?」

『『『…………』』』


 俺の前で、三人の眷属が正座をしている。
 一人は髪の毛がグラスファイバーの機人。
 一人は辰の角が生えた黄眼の劉人の英霊。
 一人は蒼い鎧を纏った武器を司る聖霊。
 膝の上に重しを載せられ、少し苦しそうな表情をしていた。

 俺は三人に、ただ淡々と語っていく。


「確かにな、色々な可能性を考えてお前ら三人に頼んだよ。チャルはコピーした武技とかも使えるし、シュリュは<武芸覇者>持ってるから扱いに長けてるし、ドゥルは武器スキルに関する知識が豊富だ……って、照れるな照れるな。まだ説教中だ。だけどさ、俺は伝えたか? 教える順番で争えなんて……言ってないよな? そんなこと」

『ちょ、ちょっと待ってくれよ!』
『朕らにもわけがある!』
『…………』

「ドゥルは分かってるみたいだな? そう、元々お前らに発言権はない。別にな、神眼で調べればベストな武器だってすぐ分かるし、技術も知識も精神世界で詰め込めば一瞬で学べるんだ。それなのに、敢えてこういった時間を用意した理由が分からないのか?」

『…………我が王、発言の許可を』


 今の状況を理解しているドゥルは、スッと手を上げてから発言しようとする。
 時には厳しくしないと、俺の元々存在しない威厳が無くなるって言われた。
 別要らないがそれを求められているので、今回は強気で行ってみる。


「はい、どうぞ」

『我が王は、眷属間の関係をより深めようとしていたのかと。我が王が彼の地に帰還される前にも、幾らか時間を積んで関係は良好となりましたが、我が王が求めるのはより深い信頼、そう愚考致します』

「……正解だ。チャルもシュリュも少し考えればすぐに分かるだろうが、うちの奴らは訳ありが多いから連携の経験が少ない。チャルもシュリュも、連携の面倒さは分かっているだろう? だからこそ、それを学ぶんだ」


 全然考えてなかったが、ドゥルがそれっぽいことを言ったので肯定しておく。 
 単純に、俺より優れた先生方に頼んだだけなんだけどな……。


「スーが教えている間、お前らは反省だ。そこの部分霊化している奴もな」

『……お前ら、まさかな』

『『…………』』

「チャル、安心しろ。今から強制的に実体化させるから」

『『――ッ!?』』


 突然の痛みに、言葉にならない悲鳴を上げるシュリュとドゥル……と、二人を見て笑うチャル。
 そんな三人を放置して、俺は【英雄】姉妹の元に戻った。



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