AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の紀行 その19
夢現空間 自室
偽りの初夜からどれだけの時が経過したのか……実際、あんまり経っていない。
{夢現空間}の時間の流れは完全に操作可能であり、基本的にAFOの世界よりも遅めているからだ。
赤色の世界がAFOの世界と互換している世界だったのが幸いし、都合よく時を操作可能だった。
精神的に童貞を卒業し、(心の中でのみ)一皮剥けた俺。
赤色の世界での行動も一段落つき、再びこの世界に舞い戻って来たわけなのだが……。
「いや、だから魔導が回復したらな」
『何故だっ!』
「言葉じゃ上手く伝えられないけど、アイツらは本当に心がパンクしそうだった。手段として言うのも嫌だけど、眷属を……いや、家族を守るのが家長としての務めだろ? 俺が行うのは精神のケアだ。俺が欲望をぶつけるだけの腰振り作業じゃない」
『なら、吾も限界だ! 今すぐ褥をともにしようではないか!』
不完全な魔導は、未だに使用不可だ。
なので誘われようと、俺はYESの回答を出さないし出せない。
「褥って……どこからそんな知識を持ってきたんだよ」
『ええい、細かいことを気にするなど男としてどうなのだ! 一部を遮断できる他の者と違って、吾は全部を受信しているのだぞ! 耐えられぬに決まっているだろうが!』
「そんな自慢するように言われても」
本日のお客様のご紹介です。
病的にまで白い肌をし、同様に真っ白な髪色を持つ瞳に緑の炎を照らす……チョイとばかし顔を紅潮させた女性。
――そう、元骸骨のネロさんであった。
罰ゲームによって俺の感情が全部流れ込んでくるという状態にされていたのだが、今では眷属全員の感情を受信させられている、少し可哀想な骸骨だ。
前に外そうかと訊いたら、全力で否定していたはずなんだけどな。
「帰って来た途端に全裸で襲いかかってきたドMよりはマシだから抑えているけど、このままだと俺の倫理観が崩れそうなんだよ。魔導が回復するまで待てって」
欲情しただの発情しただの、R18待ったなしの発言をしながらルハ°ンダイブをしてきたので蹴り返した。
ったくあの龍め。
他のドラゴン娘たちは普通にできるのに、どうしてお前だけそこまで堕ちたんだよ。
最初に会った頃のラスボス感、あれは一体どこへ逝ってしまったのだろうか。
「ほら、とりあえず精神安定魔法と一時的な感情ネットワークの強制遮断ぐらいやってやるから。指輪出せ」
『そ、それは困る。吾は褥をともにするだけで構わないのだ』
「それこそ困るから代案を提示してるんだろうが。何が嫌なんだ? 俺が手を出さないこと、なんて冗談は止めてくれよ」
『…………』
「…………うわっ、冗談じゃなかった」
地球で鍛え上げてきた観察眼によって、ネロの考えをなんとなく理解する。
やっぱり{感情}の洗脳効果が恐い、非ヒロインをヒロイン化するのが特に怖い。
「"精神安定"、"冷静沈着"、"緊張弛緩"……とりあえず魔法だけでも受けろ」
『う、うむ』
{夢現魔法}を通じて(精神魔法)を発動。
ネロの燃え滾る炎のように赤くなっていた顔が、少しずつ元の白色に戻っていく。
「指輪の方だが、少なくとも眷属からの回路は遮断しておく。俺と繋げておくことに文句があるなら、別の奴に頼むが――」
『それはメルスで構わん。むしろ、そこはメルスにしておいてくれ』
「そっか? 分かった」
俺なら迷わず、ティルの感情を共有させてもらう。
普段心を読まれまくっているのだから、そういうときぐらい逆に読んでみたいです。
◆ □ ◆ □ ◆
会議室
「――で、あるからして、俺は(仮称)赤色の世界に国を造ることにした」
ネロの暴走も治まったので、続いて眷属たちへの説明会を行う。
詳細を伝えずにあっちに行ったからな。
こういう場を設けないと、記憶の確認に向かわれてしまう。
……被害は、最小限にしないとな。
「何か質問のある奴、いるなら手を挙げてから発言すること――はい、カカ」
『私を出しに使ったようだな。どういった了見か、聞かせてもらえないだろうか』
カグの中で見た黒炎のような髪を持つ少女が、ジト目で俺にそう言ってくる。
そう、彼女こそが赤色の世界で話題の邪炎神であった。
「早い話、ネタが浮かばなかったからだな。お前さんに関する話は聞いていたし、観光ついでに少しばかり集めた。アッチの腐った宗教の改善を行うのに、肩書を借りたのさ」
『この名前は君が付けたのだろう。あの世界では何の意味も持たないはずだ』
「うんにゃ、そうでもないからな。神像をカカの物として作っておいて、信仰力とやらの中継点をその国に作れば、多分それはここまで届くと思う」
度が過ぎて、信仰が盲信や妄信や狂信や恐信にならなければ、問題無いだろう。
炎ばっかりのあの世界で、炎を司るということは凄いことだ。
海も大地も大空も、至る所に炎を添加させていた。
そんな場所で炎の信仰を行う……信じた、と定義付けられる物が多過ぎるだろう。
「大体さ、俺もカグも幸せになってほしいと思ってるんだからさ。な、カグ?」
俺たちの話に最も関係があるカグに、そう尋ねると――。
[そうだよ。カカお姉ちゃんも、いっしょにいてくれないとやだよ]
『カグ……』
少し汚いが、最終的には承諾を得ることに成功した。
これで、俺の建国にケチを付ける者は誰もいなくなったのだ。
「さて、頑張ってもらいますか」
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