AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の紀行 その17
「ただいまです……無事、でしたか?」
『お蔭様で、な』
部屋に戻って来た、俺とスタッフを迎える奴隷たち。
こっちの部屋には、掛け目なしで結界を用意しておいた。
<常駐魔法>と<多重魔法>によって自動的に機能し、異物も強制排除する便利結界。
縛りプレーなどという舐めプをするからには、これぐらいの安全策を用意しないとな。
要は、俺の元に来た男たちは陽動であり、本隊は奴隷解放を目指していたのだ。
奴隷契約は、主人が死ななければ他はどうとでもなる。
先に救出をした後に、俺と交渉をするか無理矢理契約を破棄する気だったのだろう。
うん、『解放のチョーカー』のように奴隷契約の証である首輪を外すことは、この世界の魔法やスキルでも可能なのだ。
(契約魔法)で塗り替えるもよし、魔道具としての機能を損失させるもよし、一度殺してから首輪を外して魂を定着させるもよし……最後のは(色んな意味で)上級者向けだが、とにかく方法は数え切れない程に存在した。
今回黒幕? は(契約魔法)の持ち主を連れて来て解放を目論んでいた。
スクロールでの契約を行ったので、それ以上の魔力を籠めれば解放は容易いだろう。
奴隷の魔法への抵抗力と奴隷契約で使われた魔力量、その二つを越えさえすれば簡単に外せるのだから。
「では、お土産をプレゼントしましょうか。貴女には――こちら、ですかね?」
『……こ、これはっ』
「確か、貴女の愛剣だったと聞いていましたが……間違っていましたか? 瘴気を纏っていましたので、こちらの方で解呪しておきました」
『…………』
呆然とする『姫将軍』。
普通、戦闘でも無いのに奴隷に武器を渡すなんてありえないだろうし、自分の愛剣に瘴気が付いていたなんて驚きだろう。
「他の方も、先程出品された品であればお渡ししますけど……どれか、要りますか?」
『……何故、このようなことをする』
「いえいえ、だから言ったではないですか。私には、目的があったと。信頼と信用のどちらも勝ち取るには、こうして私に敵意が無いことを証明しなければならないと思いましてね。どうですか、貴女様がわざわざ私との交渉に応じて、他の方たちに私の手が伸びないようにしていましたが……少しは安心していただけましたか?」
『姫将軍』は自分と共に捕まっていた者に命じて、用意された武器の中で扱いやすい物を取り出して他の奴隷たちに配る。
大半の者は武器の扱いに長けているし、そうでない者にも魔道具を渡して抵抗ができるようにしていた。
『このように武装しても、貴公には絶対的な余裕を感じる。分かっているのだろう、死を厭わねば殺されることもあると』
「分かっていますよ。ですけど、聡明な貴女様がそのような愚行をするとは思えませんので。他の方、道連れですよ?」
『覚悟の上だ』
周りを見れば、全員がギュッと目に意志を籠めて『姫将軍』を見ていた。
闇のオークションで売る必要がある者たちなので、それぞれが何らかの経験や覚悟でもあるのだろうか。
完全に『姫将軍』を信用していた。
両手を万歳状態で掲げ、降参の意を示す。
「……ハァ、降参です。皆様の意志の強さには感服しました。それでこそ、貴方がたを高い金を使って買った甲斐があるのです」
『先程ははぐらかされたが、今度こそ聞かせてもらおうか。――何が目的で、このようなことをしている』
「分かりました。先に、場所を変えますね」
床に巨大な魔方陣(擬き)を描き、奴隷たちの視界を奪う。
そして、<広範魔法>で一斉に転位し、この場所から移動した。
◆ □ ◆ □ ◆
転位して辿り着いた場所は、深い穴の底であった。
不思議と周囲は明るい光で照らされているが、辺りを囲む壁と遥か彼方に見える空が、そのことを証明していた。
奴隷たちはこの場所が何処か分からないようで、キョロキョロと周囲を調べていた。
『ここは……』
「ここは確か、『終炎の海溝』と呼ばれる場所です。普通の方法では脱出は不可能ですので、私を殺すのは止めてくださいね」
『こ、ここが『終炎の海溝』だと! 邪神が封印されているとされる場所だぞ!』
「はははっ。そうらしいですね」
旅をしている最中に、そんな厨二みたいな単語を知った。
こちらで観光をする際の休憩地点として、時々戻っていたんだが……。
「どうしてそんな場所に居るかも説明しますし、皆様が探している邪神の姿がないことについても、しっかりと言いますよ」
『邪神は……まさか、倒したのか?』
「それこそまさかですよ。ただ一つ言うのなら、邪神の脅威は今も存在する……それだけですかね」
怯える彼らをそう言って宥める。
倒してなんかいないさ……ただ、今も封印されていた者は生きているんだ。
それに、(自称)邪神の眷属がこの世界に沢山いることにも理由がある。
話を少しすり替えさせてもらったが、このことに関して言っておかないとな。
『邪神の、脅威……聴かせてくれないか?』
「ええ、分かっています。ですが、その前に私の目的を伝えておきましょう」
少し間を空けてから――告げる。
「私の目的、それは――国を築くことです」
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