AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の紀行 その13



 結論から言っていまえば、俺はこの地下でおよそ十四億アーカ程散財した。
 虹貨五十枚では五億、ではどうしてそんなに金を持っていたのか……。

 ――その答えは、カジノにあった。
 一度に換金できるのは虹貨五十枚……なんて、そんな都合の良いことがあるわけない。
 そんな風に考えて、{多重存在}を並列させた思考で動かして調査してみると……。

「まだ溜め込んでやがったよ。ギリギリまで搾り取ってやった結果、俺の真の持ち金は虹貨二百枚(二十億アーカ)となっていたのだ」

『あの……お支払いの方を』

「すまない。少し考え事をしていた。――これで、いいだろうか」

 おっと、少々自分に酔ってしまっていた。
 目の前で支払いを求めるスタッフに見えるように、硬貨袋を緩めて机に落とす。
 ジャラジャラと流れるように落ちていく虹色の硬貨――その数百四十三枚。
 スタッフはスキルでも持っているのか、高速で一瞬でその枚数を確認すると、何処からか数十枚の紙を持ってくる。

『――全額、確認できました。こちらが貴方様がこちらで商品を購入したという証明書となります。物品の方は一纏めにできましが、奴隷の分は契約書が必要となりますので、こうして一枚一枚別々の書類となります』

「契約だが、どのような方法で? やり方によっては少々連絡をしなければならないのだが……」

『契約書がスクロールとなっていて、貴方様が奴隷の首輪に触れた状態で血をそこに流すことで契約が成立となります。……何か、問題となる点がありましたでしょうか?』

「いや、自前で(契約魔法)を持っていてな。一応何かできることがあるかと思っていたのだが……さすが、サービスが行き届いているようだな」

『お褒めいただき、光栄でございます』


 スクロール――魔法や魔術を別の者でも使えるようにした物だ。
 紙やインクの品質、術者の練度によって効果も使用限度も異なるらしいが……今は置いておこうか。

 契約の術式には、恐らく首輪の主人を書き換える効果があるのだろう。
 調べた首輪に既に主人が登録されていたのだから、それを書き換えなければ俺が買ったということにならないしな。


『では、奴隷たちをこの場に連れてまいりますので――』

「いや、俺がそちらへ向かおう。あまりに俺の買物は周りの怒りを買ったから……な?」

『……分かりました。では、私について来てください』


 この後の展開、その一つを事前に防いでおかなければ。
 一瞬だけ(未来眼)を発動すると、面倒な未来が一つ視えなくなったことが分かる。


「はい、お願いします」


 <八感知覚>で感じ取った気配を避けて、俺は奴隷たちの元へと移動した。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 誘導されて辿り着いた場所には、数十人の奴隷が檻の中に閉じ込められていた。
 売るために見た目は整えられており、女性にはサービスとして服が着せられている。

 男女別々の檻なのだが……それぞれから、熱くて冷たい視線を感じるな。


『こちらになります。では、一人ずつ連れて来ますので、対応するスクロールに魔力を流してお待ちください』


 スタッフはそう言うと、檻の中から男を一人引っ張ってくる。
 一番最初に出品された奴なので、恐らくその順番で契約させられるのだろう。

 折角なので隙を見て、術式の詳細を速読していく。
 基本的には(契約魔法)と同じ内容だ。
 異世界だからか微細な違いはあるものの、首輪によって奴隷を使役する者を変更するという目的を果たすことはできていた。

『搾取』という種の契約は、相手から人間としての尊厳を、文字通り搾取する契約だ。
 どんな命令であろうと拒否することは許されず、反抗の意志を持とうするのならば体に激痛が走る。
 主が死ねと言えば首輪が絞まって死ぬし、その生き方に絶望しようとも、首輪に仕込まれた自殺防止の精神安定術式がそれを阻害してしまう。


(……しかし、物凄く視られてますな。スキルの使用は封じられている筈なんだが、凄い注視していることが分かる視線だ)


 檻の中から、いくつか強い視線を感じる。
 先程も言ったように、それは男性用の檻からも女性用の檻からも感じられる。

 女性からの熱視線は、色々と思うところがあるので構わないのだが……男からの視線は御免被るな。


「さて、そろそろ魔力を流すか」


 スクロールに手を翳して魔力を籠める。
 術式に記された文字が発光し、発動の刻を待っていた。


『では、お願いします』


 俺の近くまで連れてこられた男の首に触れると、術式の発動を強く意識する。
 すると、術式が複製された物が宙に浮き、ゆっくり俺の体を介し、男の首輪へ向かう。


『……ぐっ』


 苦しむような素振りを見せているが、首輪に刻まれた主を変更するために何かが起こっているのだろう。
 仕方がないことだとスルーして、魔力を籠め続ける。

 しばらくすると苦しみも治まり、(鑑定眼)で視ても主が俺と記されていた。


『はい、これで一人目が終了しました。魔力の方は足りていますか? 足りなくなればこちらでポーションを用意しますが……』

「いや、大丈夫だ。……これぐらいの消費なら、全員やっても構わない」

『初めに登録する場合、相手の抵抗力によって消費する魔力が異なるんですよ。ここに居るのはどれも最高級の奴隷ですので、もしかしたらこの状況でも抵抗してくるかもしれません』

「肝に銘じておこう」


 面倒なスクロールを介した契約は、まだまだ続いていくようだ。



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