AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の紀行 その07



 地下には巨大な空間が広がっていた。
 妖しい光が至る所に設置され、地下空間ではなく歓楽街とも思える景色となっている。

 俺たちはそんな場所にある馬車置き場におり、商人が降りる前に俺へ注意を勧告しているのが現状だ。

『ノゾムさんも分かっていると思いますが、この場所は特別な方法で海の下に造られた空間です。この場所の存在は教国ですら見て見ぬ振りをしているので……くれぐれもご内密にしてくださいね』

「ええ、分かってます」


 教国……ってのは多分、ドローンで撮影してあったデッカイ国のことだろう。
 何やら仰々しい飾りがいっぱいある国で、人々がたまに祈りっぽいのを捧げているのが記録に残っていたから合っていると思う。

 で、恐らくその国は戒律とかを他の国に押し付けている面倒な国?
 だけどこの裏オークションが行われる場所には特別な価値を見出しているから、あえて知らぬ振りをしている。
 対邪神組織と言えばやっぱり教会、その総本山ともされる教国……うん、行きたくはないがいつか行こうか。


『では、私はこれから許可証を貰ってきますので、ノゾムさんは荷物の方を確認してもらえませんか? 本当はそのために用意した冒険者なんですけど、彼らはいませんので』

「構いませんよ。報酬の方はその後にでも相談したいところです」

『それはもちろん! オークションに品を登録する前に、ノゾムさんには好きな物をお一つ、安く売りますよ』

「……タダじゃ、ないんですね」

『商人ですから』


 そう言ってニコッと笑い、商人はここから先にある一軒家サイズの建物へと向かう。


「……ハァ、疲れた」


 商人が居なくなった馬車の上でそう呟く。
 こっちの裏の裏まで読もうとする、その面倒臭さと言ったらもう……。
 道中でも俺の情報を可能な限り暴こうとするので、少年から聞いておいたこの世界の知識を織り交ぜ、どうにか無難な回答をしてお茶を濁すことに成功した。


「偽善も程々にって決めたんだから、商人をスルーして積み荷だけ持ってった方が俺のためになったか? どうせこの場所があるのはとっくに分かってたし。バレバレなんだよ」


 あ、先に言っておくが、積み荷の中身は奴隷です……みたいなオチは無いからな。
 それなら、商人を屠ってでも救っていると思うから。
 積み荷はやや非合法な方法で手に入れた貴重品であって、殺して奪ったとか持っているだけで厄災が訪れる……みたいな物を所持していないのも確認済みだ。

 この場所、中に居る者の気配や音や匂い、魔力などを遮断する仕組みはあるのだが、それでも異常な性能を誇る<八感知覚>の前に、それらは無意味と化していた。
 色々な目的を持った商人や金持ちがこの場に集い、今宵繰り広げられるイベントへ向けて意志を高める。

 ……当然、その中には奴隷もいた。
 AFOでは奴隷販売をオークションでやる光景は見たことが無かったが、主人公たちがオークションに行ったならそういう展開もありそうだ。
 レアなスキルを持っている者や、ただ見た目が麗しい者など、様々な者が首に重厚な首輪を巻いていた。 
 一部の者を除いて、大半が目を死んだ魚のようにしていたので……偽善のし甲斐がある機会だ。


「金は……まあ、どうにかなるか。素材を売るのもよし、人から奪うもよし。他にも方法は様々だし……そもそも金を払う必要があるのだろうか」


 奴隷を許せない!
 日本人の一般常識を当て嵌めれば、そう思うのが普通だろう。
 奴隷制度が確立しているのなら、それを仕方ないと分かっているので、今の俺はかつてのイベント時のような強奪を行う気はない。

 だから合法的に手に入れるための、軍資金が必要なんだ。
 AFOと金が若干違っていてな、この世界では大量に持っていたAFOの金を使っても意味がない。。

 故に、今の俺は一文無し。
 奴隷を買うとかそういった段階に進む以前の問題に、悩んでいるのが現状だ。
 ……一文も無いが、少年から使われている硬貨は可能な限り見せてもらったので、複製すればお金も手に入る(今まで、旅行の最中は物々交換でどうにかしてきた)。

 それは最終手段にしておくのだが、それでも自分でオークションにAFOのアイテムを出して儲けるとか、【強欲】の能力をフルに使って稼ぐという方法も存在する。


「緊急参加で売るのは別にいいけど、何か他にいい方法はないかな? 俺もやりたくて非合法なやり方を選びたいわけじゃないし……それに、俺は<正義>の持ち主だしな」


 正義感溢れるモブとして、正しい方法でお金を稼ぎたい……さて、どうするか。


◆   □   ◆   □   ◆


≪――来ました! ついに謎の仮面がジャックポットを当てました!!≫


 ウォオオオ! と盛り上がる歓声を浴びながら、俺は座席から立ち上がった。
 目の前には細かな絵柄が表示されるパネルがあり、そこでは横一列で同じ絵柄が踊っている映像が流されている。


≪皆様のコインは遂に排出され、コインの雨となって降り注ぎます――ゴールデン・シャワーの始まりだ!≫


 アナウンスがそう告げると、この空間で最も巨大なオブジェクトからコインが間欠泉のように噴き出していく。
 その光景に息を呑む周りの人たち。
 コインは見えない流れに誘導されるように動き、一ヶ所に集まっていった。


『……ジャックポット、おめでとうございます。コインの方ですが換金されますか?』

「ああ、頼む」

『では――こちらが虹貨五十枚。現在換金可能な額、その限度でございます。それ以上の換金は決まりによって禁止されておりますびで……どうされますか? これだけありますし、周りのお客様に――』

「ここにある全ての品と交換して、余った分は周りに配ろう。ワタシはこの後、例の目玉イベントに行くのでね」

『…………分かり、ました』


 差し出された袋を受け取り、俺は景品所へと向かう。
 そこで品を全て掻っ攫い、周りに告げる。


「では諸君、このカジノはこれよりワタシの所有下に入る。その記念として、今からはした金ならぬはしたコインを君たちに配ろうではないか!」

『仮面様、バンザイ! 仮面様に栄光を!』


 その言葉を聞くと俺は後ろを向き、このカジノから退出した。



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