AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの水着イベント後半戦 その13



 少年ヒューリは焦った。
 ここに彼女リッドは居ないはずだったのだから。
 少年の復讐に彼女は関わらせない……あくまで獲物だけ復讐する、そう決めていた。

「グラム、ジース、アポロ、ユーン……みんなヒューリ君がこんな風にしたの?」

 しかし、現実は異なる。
 目の前に、確かに彼女は居るのだ。
 一体何故、などと問う必要は無い。

 それは、答え犯人が説明するだろうから――。

「……おい、どういうことだ。陽炎」

 そう、少年は彼女の後ろ辺りに詰問する。

「……決まっているだろう、これもまた儀式の一つだ……」

 彼女の後方では、空気が歪める形でナニカがいた。
 姿は見えずとも、そうした環境の変化が少年に存在を感付かせた。

 陽炎と呼ばれた存在は、懐から結晶を取り出しながら答える。
 魔力を注ぎ込まれ、中に仕込まれた魔方陣が発動していく――彼女を中心として。

「え? あ、あの……」

「……あの方に誓ったはずだ、完璧な復讐を果たすと……」

「だからこそ、俺はアイツらを――」

「……そう、コイツはお前を救わなかったのだろう。ならば、お前の復讐対象だ……」

「ち、違っ!」

「……お前の意志がどうであれ、あのお方はそうお考えだ。ならば、あのお方から力を授かったお前には、そうする必要がある……」

「な、何を言って……」

「……何もしなかった罪は、何もできずに死ぬことで贖わせる。それが、あの方のご要望だ。お前はそれを、何もせず見ているだけで構わない。手を汚す必要は無い。救おうとした者が救われない、実に痛快だ……」

「うぐっ――」

 魔方陣はそうしている間にも輝きを放ち続け、彼女は突然苦しみながら倒れた。
 声を上げることもできず、息が漏れる音だけをカヒューと鳴らしている。

「……魔方陣には、少しずつ体を衰弱させる効果がある。最後には死んだと思えるぐらいの激痛が走り続けるが、死ぬことは無く永遠の苦痛として残る。止める方法は唯一つ、発動者を殺すことだけだ……」

「……悪魔め」

「……悪魔、悪魔か。仮に悪魔だとして、それと契約をしたのはお前だろう……」

 そう、陽炎の言う『あの方』と契約をしたのは、少年自身である。
 その者や、その使いである陽炎を悪魔呼ばわりするということは、彼らと手を組んだ少年もまた、悪魔と言っても過言ではない。

「俺は! 俺は……確かにお前たちと契約をして――復讐を果たした。だけど、コイツは復讐対象じゃない。コイツは俺の復讐には関係ないんだ!」

「……関係ないということは無いだろう。お前が復讐対象にイジメられる間も、直接庇おうとはしなかったのだろう……」

「だけど、本当に何もしなかった奴よりはマシだった。今まで耐えることと恨むことしか考えられなかったが、復讐を終えた今なら、別のことも考えられる」

 少年は剣を陽炎に向け、告げる。

「――復讐の次は恩返しだ。お前らにとっては仇返しになるかもしれないが、それでも俺はやりたいことをやるんだ! 俺が何をしようと、お前らには関係ないだろう!」

 陽炎は、何も言わずに少年を――少年の持つ剣を注視した。
 少年の復讐に燃える黒い心を表していた刀身は、透き通るような白い輝きを見せ始めている。

 そのことを確認した、陽炎は自身の武器を取り出し、姿をいっそう隠蔽して身を隠す。

「……お前に勝てると思うか……」

「勝ってみせるさ。相棒も俺の意見に賛成だと言っているからな。お前の力、昔の持ち主たちに見せてやろうぜ」

「……せめて、足掻いて見せろ……」

 一瞬の沈黙、両者は攻撃の瞬間を待つ。

「……カヒュー」

 リッドから再び空気が漏れたその瞬間――両者は高速で動いた。

◆   □   ◆   □   ◆

 少年と陽炎の闘いは苛烈を極めた。
 白と黒の靄を操り剣を振るう少年と、光と影を操り多彩な暗器を放つ陽炎。

 白い靄は防御を、黒い靄は攻撃を司り、暗器は靄に触れると盾にぶつかったかのように弾かれる。
 光は回避を、影は放出を司り、靄と共に放たれる空飛ぶ斬撃は悉く躱される。

 リッドの苦しみは少しずつ深刻な状況へと向かっていき、その光景が少年の中で思考の鈍りとなって表れていく。

「……弱い、弱過ぎる。これぐらいの力であれば、既に経験済みだ……」

「……うる、さい。まだ、終わってない」

「……いや、終わりだ。見ろ……」

「――ッ! り、リッド……」

 リッドは戦いの間に衰弱し、今では声も上げられないような状態になっていた。
 体から完全に力が抜け切り、眼は虚ろな状態で宙を彷徨っている。

「……この空間内では、確か現実に影響があるらしいな。ならこの場で死んだと強く認識した時、どうなるのだろうか……」

「アァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 剣から生成される靄の色の比率が変わり、白色の靄が一気に減っていった。
 黒色の靄が今まで以上に宙に散布され、陽炎を点では無く面で攻めていく。

「……外れか。先程まで復讐に燃えていた奴とは思えない脆さだ……」

 陽炎は靄をスイスイと躱し、少年の元へと少しずつ近付いていく。

「……あの方の期待に沿えないのならば、責任を取ってもらわねば……」

 影を靄へと飛ばし、仕込んだ仕掛けを発動させて爆風を起こす。
 靄は一瞬少年の周囲から消失し、隙だらけの少年だけが残る。

「……これで、終わり――ッ!」

 心臓にナイフを突き立てようとした瞬間、嫌な予感を感じた陽炎は、高速で後退する。

「……それでこそ、あの方が選んだ逸材。あの方は、これを待っていたのか……」

 陽炎が見つめた先――そこには、眩い光を身に纏った少年がいた。


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