AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と水着イベント後半戦 その07



「……ほぉ、ここが『庵楽』か」

「いらっしゃいませ! 料理は――」

「金ならある。だから、さっさとここにある物全部寄越せ」

 店に入って来た男は、歪んだ笑みを浮かべて突然店員である少女にそう告げる。
 手元には両刃の剣が握られており、これが交渉では無く脅しであることを理解させようとしていた。
 後ろには同様に武器を提げた者質が待機しており、並んでいた客を退かすようにズカズカ割り込んで嗤っている。

 それを見た客たちは――。

(あ、また被害者が現れた)(おお! またロリ店員のショーが観られる!)(チッ、どこのどいつだよアイツらは。すぐに書き込みして情報を掴んでやる)(……お、オレもそろそろなじられたいんだな)

 最後の者はさておき、大半の者は同情や興奮、怒りなどを感じていた。

 それもそのはず、既にこうした客は何度も何度もこの店を訪れており、その者たちの末路もまた、判で押したように定まっている。

「――通告です。今すぐに、この剣を鞘に納めてください。さもなければ、こちらも貴方たちに容赦をしてあげることができなくなります」
「……営業妨害」

 少女達は脅しにも屈せず、逆に男たちへと威圧を放ちながら注意勧告をする。
 だが、あまりに幸か不幸か男たちはそれに気付かず、ただ少女たちが気丈に振る舞っているだけだと錯覚していた。

「おいおい、そんな顔をしても俺達はビビったりしねぇよ」「可愛い顔が台無しになってますよー」『ハハハハハハッ!』

 高笑いをしている男たち。
 周りの客たちはそんなテンションの高い彼らと異なり、少女たちから感じられた威圧によって怯んでいた。

(俺たちには向けられていない。ただ、強過ぎる威圧が空気を伝導して伝わったんだ)(おいおい、エリアボスでもあそこまで恐怖を感じなかったぞ。どんだけ強いんだよ)(ロリの冷たい視線、マジカワユス!)

 最後の男(ry。
 客たちは、そうした光景を何度も何度も見てきた。
 掲示板にも忠言されているし、勘の鋭い者ならばこの店で騒ごうとはしない。

 上位ランカーが店員にへりくだっている姿も確認されており、暗黙の了解とされているのだが……あまりに客が多いため、時々こうした現象が起きるのであった。

「同意していただけませんでしたので――お客様方には申し訳ありませんが、少しだけ時間を取らせてもらいます」
「……その間、お店は休業」

 そう、客たちの中でも怒りを感じた者たちは、こうなること営業停止を理解していたのだ。

 この後、店に害をなした者たちが処理されることは予想できただろう。
 それだけならば、ただの余興としてその光景を眺めていることができた。

 だが、その間店が販売を止めた場合――客たちもまた、迷惑を被ることになる。

 そのため、可能な限り客たちはああした輩が現れないようにするのだが……店の営業よりも余興を求める者もいるため、完全にその行為を抑制できていないのだ。


 少女たちは一瞬の内に剣を手に握る。
 それらは、番となるように打たれた双剣。
 少女たちが至宝として振るう、最も敬愛すべき主から賜った魔具の一種である。

 客たちが自主的に店の壁側まで退避したため、店の中央辺りには、先程の者たちしかいない。

「……なあ、実はヤバいんじゃねぇか?」「おいおい、今更ビビってんのか? 相手はガキ二人、楽勝だろ」「それに、あっちの方に居る奴らも全部女だろ? どうせ全員がこっちに来ても俺たちが勝つよ」「ってかさ、全員纏めて俺たちでお世話してやらねぇか? 店やるぐらいだし、献身的じゃね?」「お前天才だろ!」

 そんな罵詈雑音は聞き入れられず、一分一秒と時は過ぎ去っていく。

「おい、少しぐらいこっちの話w――」

 黙っている少女たちに痺れを切らせ、彼らの内一人が足を動かし――死に戻りする。

『……ハ?』

 彼らはその現象を不思議に思う。
 死ぬ前の発光エフェクトは有ったので、断線というわけではないだろう。
 しかし少女たちは動いておらず、死んだ男が歩いた先に何かがあったわけでも無い。

 それでも彼らは最終的に、足元に罠を仕掛けてあったと考えて思考を停止させる。

 故に、同じ轍を踏む羽目になるのだ。

「わ、罠が無いのは確認済みだ。アイツの分までしっかりお礼をしてやらねぇとn――」

 再び先走った男が、何も無い場所で突然死に戻りをした。
 彼の言う通り、彼らと少女の間には罠は一つとして設置されていなかった。

 しかし、現実として彼は死んだ。
 その事実が、彼らの中で恐怖へと変わる。

「に、逃げr――」
「や、ヤバいだr――」

 二人、臆してここから逃げ出そうとする者がいた。
 しかし、彼らもまた足を動かした途端に死に戻りを行う。

 一体何が起こったのか、それを知る者は彼らの中に一人もいない。
 ただ一つ、足を動かした者から死ぬということだけは理解して、誰も動かなくなる。

 本来ならば隙だと思われて殺されるのが常だが――幸いその選択は正しく、そのお蔭で彼らは、命をほんの僅かだけ未来に繋げることができた。

「お静かにしてもらえたようですね。ではそろそろ、皆様全員にこの場からの撤退を願いましょう」
「……さようなら」

 そうして彼女たちが剣を、彼らにも分かるようにゆっくりと薙ぐと――彼ら上半身と下半身が綺麗に分かれ……そのまま辺りに死亡エフェクトが放出される。

 何事も無かったかのように、少女達は再び剣を何処かへ仕舞い――。

「大変お待たせしました。海の家『庵楽』、営業再開です!」
「……です」

 年相応の笑顔を浮かべ、客たちを誘導する仕事を始めた。


「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く